AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と迷宮内氾濫 その09



 新たに経験値を支払い、直観スキルを獲得した。
 それもあり、レンタルした『必救の桜弓』ことチーの制限時間が迫っている。

 ゆえに俺が選んだのは、最後にド派手な一発を放つというもの。
 八本の矢を生成して、同時に番い放ったのは──


「──“天命救陣・八重”」


 それらは異なる方向へ飛んでいき、地面に突き刺さる。
 そして、八方向から桜色の魔力がそれぞれ繋がり、陣を形成していった。


「この陣に居る間、誰も死なない。蘇生の効果が付いているからね。さぁ、励めよ若人諸君……なんてね」


 蘇生は死亡から脱する方と瀕死から脱する方、両方に対応する便利仕様。
 つまり単純な回復効果も乗っているので、別に死なずともその恩恵は受けられる。

 陣の上に居るだけで効果を発揮するし、他のあらゆる回復阻害効果も受け付けない。
 その辺は、大元である『必救の桜弓』と同じ仕様であった。


「ありがとう、チー……ぐふふっ、これで支援報酬としての経験値ががっぽりだよ」

《……あまりその表情は、浮かべない方が良いですわね》

「おっと、きっと演技スキルを使い忘れていたからだね──これでどうかな?」

《どう、と言われましても……特に変化はありませんわよ》


 …………うん、忘れよう。
 普段のチート状態であろうとも、なぜか全然成長を見せてくれない演技系スキル。

 強制的に進化や魔改造を行っても、うんともすんとも言わない。
 ……お前には才能が無い、そう言われているようでとても心が痛いです。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 チート武具のレンタル期間が終了し、再び装備するのは合金の武具。
 元は剣だったのだが、金属変質スキルを得たことで今は螺旋槍ドリルと化していた。

 場所は変わらず防壁の上、桜色の陣は今なお前線に立つ者たちを支援しているが……自分自身はそれを使わず、ただ遠くから一方的に攻撃できる位置を保っている。


「今度はどうしよっかな……うーん、これかな──“金属変質”、“加工”」


 金属変質スキルは技能系ではなく身体系。
 本来は金属生命体など、無機物系の魔物が保有する性質である。

 人族では本来習得できないスキルだが、祈念者の持つ万能の才と俺(生産神の加護)が作った武具のお陰で手に入れたわけだ。

 そして、今回発動した加工スキル。
 こちらは技能系のスキルで、職人であればそのほとんどが習得している……まあ、一種の統合スキルだけども。

 木工やら金工など、何でもかんでも弄ることができる便利なスキルだ。
 ……幅広く対応している分、補正はそこまで高くないんだけども。


「形状は『斧』、あと“魔力付与・空間”。そして──“帰投リターンスロー”!」


 身力で全身を強化し、変質させて作り上げた斧を勢いよく投げる。
 同時に使うのは一定確率で戻ってくるという投擲の武技、そして空間属性の魔力。

 祈念者の研究によると、空間属性が付与された武器を使うことで帰還の成功率が上がるというデータがあるらしい。

 正直、無くなっても予備が無尽蔵に湧いて出るので困りはしないが……いつまで経っても凡人の【節制】というかケチな感性が抜けないようだ。


「“帰投”、“帰投”、“帰投”……!」


 こればかりは武技をなぞっても効果を発揮しないので、クールタイムを待ったうえで何度も発動させていく。

 投げては戻ってきて、また投げては戻ってきての繰り返し。
 幸運スキルもいい仕事をしているのか、失敗する確率はそこまで高くない。


「っ……二十回か。まあでも、また買えばいいだけだし──“帰投”!」


 支援よりも多く、直接魔物を殺すことで得られた経験値で失った武器を再度購入。
 投げる→戻る(投げるへ)or失う→購入する(投げるへ)が一連の流れだ。

 正直、眷属たちの主らしからぬやり方だとは自分でも思う。
 だが別に、物語の主人公のように大々的に戦う必要は無い。

 ……いやまあ、暴れたい時は思いっきり神器を振り回して戦うけど。
 時と場合によりにけり、彼らのようにいつも信念を持ってやっているわけでは無い。


「やりたいことを好きな時に……うん、これに尽きるね。今の僕はこうして、一方的に無双するってアレなやり方がやりたいんだ!」


 小狡かろうが、最後に勝てばいいのだ。
 だからこそ、防壁の上から魔物たちを見下ろして攻撃する者たちが居る(偏見)。

 そんな同志たちと共に魔物を嬲り続けること数分……そう、たったの数分。
 やはり蘇生の陣はやり過ぎだったのか、ついに第二段階を退けていた。


主様マイマスター……》

「うぅ、不可抗力なんだよ……ま、まあ、状態異常自体の怖さは分かっただろうし、彼らも何もしないよりかは学んだよ」

《……そのようで》


 顔を合わせてはいないが、間違いなく今のレンは冷ややかな目を向けているだろう。
 それでも、俺は俺のやり方を貫いていくしかない……今更だしな。


「とにかく、レンは通知の方をよろしく。第三段階はたしか……ボス級だったかな? もう少し強いポーションを準備しないと」

《畏まりました》


 何度も続けると飽きられるだろうと思い、今回は第三段階で打ち止めだ。
 締めを飾るのはやはり大規模な戦い、ボス戦に備えるべく準備を行うのだった。



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