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山田 武

偽善者と迷宮内氾濫 その08



 ヤンの所で食事を取ったら、武具っ娘を使えと見つめられた。
 種族が蛇系だからか、あるいは【嫉妬】の魔武具だからか……少しビビってしまう。


「経験値……さようなら」


 というわけで、聖武具か魔武具を使うことが決まった。
 武具っ娘を頼る、その代償は重く──今の俺のレベルは30である。

 職業であれば、ようやく中級職に挑戦できる程度。
 結果として、扱える最低限の能力値まで下げてようやく一定時間レンタルできた。


「今回は僕自身が戦闘をしない方がいいね。あくまで後方支援、それもデバフ系じゃなくてバフ系かな? そうなると、もう聖武具に絞れるね」


 聖武具は基本的に、後方支援というか防御寄りの性能を持つ武具が多い。
 逆に、魔武具は前線で使う攻撃性を秘めた武具が多かった。

 なので今回は前者を使う。
 その中でも、あくまで周囲に対するバフ効果を利用したいというのであれば、俺が選ぶべきなのは──


「力を貸して──『チー』」

《ええ、それがわが君の願いなのであれば》


 求めに応じ、現れた桜色の大弓。
 握り締めた瞬間、その大きさは子供状態にとっての大型程度の物に。

 すぐに弓を握り締めると、矢を番えてもいないのに構えを取る。
 弦を引くとどこからともなく矢が生まれ、指と指の間に収まった。


「行くよ──“無限射程”、“無尽射撃”、そして“救生済矢”!」


 弓から展開される桜吹雪、そして弓そのものから広がる一対の白翼。
 俺が矢を飛ばすと同時に、演出はより派手派手しく矢と共に至る所へ飛んでいく。

 起動した三つのスキル。
 そのうちの二つは名前から分かる通り、どこまでも何本でも飛ばすことができる力。

 そして最後の一つ、“救生済矢”。
 効果はシンプルで命中した対象を癒すというもの──ただし、そこに不死者だの回復阻害といったいっさいの隔てりは存在しない。

 言うなれば、強制回復スキル。
 ありとあらゆる存在を救う、【救恤】に相応しいチート級能力……それ今、この場で解き放った。


「回復は最高の支援だからね。継続的に戦えるようにするんだから、こっちが分けてもらえる経験値もがっぽりだよ……ふっふっふ、僕のために戦うが良い」


 無限の射程は空間をも超え、迷宮内で直接魔物を倒す者たちをも癒している。
 産地直送、狩り立て新鮮な経験値を大量に得ていた。

 お陰で全部とは言わないが、チーの使用で失われた経験値が戻っていく。
 再び高まっていく身体能力、それを──再び捨て、スキルを手に入れる。


「直観スキルを習得っと……よし」

《わが君、なぜそのスキルを?》

「直感、幸運、天啓スキルなんかもあるんだけど、やっぱり僕自身の感覚をあんまり信じていないんだよね。鍛えてはいるつもりだけど、三人娘に言っているみたいに理不尽はあるわけだし……まあ、保険だよ」


 平時の俺はともかく、今の俺は下手をすればいつでも死にかねない身。
 もちろん、保険は何重にも用意しているがそれで拭えるほど死の恐怖は甘くないのだ。

 可能な限り対策は重ねているし、スキルを無効化された際の対応も考えてはいる。
 だが普段はシステムが機能し、それによる理不尽がまかり通っているわけで。

 先ほど挙げたスキルは、そんな理不尽を己の感性とは違う理屈で覆す可能性を秘めたスキルたち……直観もまた、そうした特殊なスキルの一つだ。


「直観は感覚的な方の直感と違って、一度経験していることにはほとんど対応できる。自分でいうのアレだけど、僕っていろいろと体験しているし……それを呼び起こして、即座に対応する──それが直観スキルだよ」


 言うなれば、論理的な天啓。
 ふと思いつくそのアイデアには、かつて自分が行ったナニカが必ず関わっている。

 今後、俺が何かしらの問題に一人で関わらなければならない時、眷属たちと共に対処した過去の記憶がそれを手助けしてくれる──まあ、擬似的な閃きみたいなものだ。

 直感や幸運、天啓といったスキルが、未知の出来事を事前に察知してくれる。
 そして直観スキルによって、眷属との経験でそれに対処する──うん、いいやり方だ。


《経験を積めば積むほど、より精度の高い対処法が浮かぶのですね》

「ん? いや、増えた分だけ浮かぶ選択肢が増えちゃうだけだと思うよ。だから、その選択が当たりかどうかは、先の三つのスキルにお任せかな?」

《……それ、本当に大丈夫ですの?》

「だからこそ、保険って言ったんだよ。必要とあらば、なりふり構わず頼れるみんなが居るからね。そうなったら、僕の準備したモノなんて全部無駄。最高の結果が待ってるよ」


 そういった意味でも、俺は恵まれている。
 ……だからこそ、眷属に頼り切りではいろいろとダメなのだ。

 いやまあ、眷属はむしろウェルカムと甘やかしてくるだろうけども。
 一人の男として、いちおうでも主としてこのスタンスは守っていきたい。


《わが君、そろそろお時間ですわよ》

「うん、だから最後にもう一発だけ。お手伝いしてもらうよ」

《ええ、そういうことでしたら》


 チーができるのは回復支援だけではない。
 再び大きく弓を引き、矢を装填する。

 ただし、今度は指の間から矢が二本ずつ。
 合計八本の矢を同時に番え、勢いよく空へと解き放った。


「──“天命救陣・八重”」



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