AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と迷宮内氾濫 その03



 第二段階フェイズに備え、魔臣たちに探索者たちへの支援を命じた。
 俺はその一人、ハナと共にポーション作りで支援をすることに。

 あれからさまざまな状態異常に対するポーションを作り上げ、提供した。
 渡す相手はもちろん、まとめ役に付いていたあの男。


「ナックル、回しておいてねー」

「…………あのなぁ、このタイミングで渡すか普通?」

「えー、わざわざ現場に持っていくのも面倒だしー。どうせなら、ここに渡しておけば全部やっておいてくれるでしょ?」


 祈念者たちを束ね、氾濫の防衛を行う優秀な男──ナックルである。
 ……まあ、思惑はあれど一番の目的は迷宮そのものだろうけども。


「それに、話し合っているなら君も居ると考えたんだよ──アルザス、調子はどう?」

「うーん、どうと言われると……控えめでも最悪かな?」

「あははっ、なら結構。安心して、これからもっと大変になるからね。今回はその支援も兼ねて、僕とその配下たちがお手伝いをするから。その告知もお願い」

「はいはい、了解したよ」


 アルザスは元犯罪奴隷、だが成り上がりまくって迷宮都市の代表になった男。
 職業も【探索王】と、それを示すようなモノ……ナックルが若干、【嫉妬】してたよ。

 彼はナックルと同じく、自由民を束ねる代表者としてこの場に居た。
 二人が居るからこそ、俺はここに届け物をしたわけだな。


「……おい待て、いったいいつまで続くんだよこの氾濫」

「それは僕も気になるかな? 正直、長くは持ちそうにないんだ」


 迷宮の氾濫に、具体的な終わる時期というのは存在しない。
 強いて挙げるなら、資源切れか迷宮守護者の討伐によって強制終了する。

 小さい迷宮でも溜め込んでいれば長くなるし、大きい迷宮でも守護者が死ねば即終了。
 まあ、ある程度の予測は立てることができるのだが……それは迷宮が一つの時。


「さてね。実際の所、分かってはいるけどそれは秘密。ただ、本当の氾濫も段階を追うごとに難易度が増していく。当然だよね、迷宮は下の方が基本的に強いんだから」


 迷宮は基本的に、下の方が魔物が強い。
 その理由は何なのか、ゲーマーならそれが王道とでも答えるだろうが……まあ、いちおう訳がある。

 下へ下へと値を伸ばすのは、その方が自然リソースを獲得できるから。
 地脈、龍脈、そして星脈……エネルギーの根源にアクセスしてそこからうばう。

 それが基本システムとして迷宮の初期設定に組み込まれているからこそ、大抵の迷宮は階層を下に沈めていき、より強力な個体を底に配置していくのだ。

 例外は場所的に下へ伸ばしても意味の無い迷宮、あるいは人の手が加わった──つまり【迷宮主】が居る迷宮。

 前者は仕方なく、基本的に層を一層にしてコスパ重視の迷宮となる。
 だが後者は自由自在、あえて最初の方に強力な個体を置いてコケ脅しをすることも。

 あとは単純に、下に沈めておいた方がエネルギーが霧散し辛いからだろうか……浅い階層に置いておくのと、深い階層に置いておくのとではコストがやや違うのだ。


「──と、そんなわけでいろいろとあるんだよ。あっ、ちなみにここの迷宮の場合は単純に、切り取られた空間だから下に伸ばしても意味が無いってことでいろいろとおかしな仕様になっているんだよ」

「なるほど……参考になる」

「うん、そういう事情の把握も探索には必要だからね。参考にさせてもらうよ」

「…………くっ、羨ましい。俺も絶対に就いてやるからな」


 説明を聞き終えた二人は、それぞれ感想を述べる。
 ナックルなど、わざわざ[メニュー]を操作している……[メモ]を使っているな。

 超級職である【探索王】の枠は、いちおう空いているのをすでに視ている。
 おまけに、アルザスが就職条件もある程度暴いてくれたのでその方法も分かっていた。

 だが、それでもナックルにはそれを教えない……まあ、いずれ自分で辿り着くだろう。
 迷宮を愛しているあの男ならば、間違いなく達成するだろうからな。


「だいぶ話が逸れたね。第二段階は状態異常重視というか、単純な強さじゃない個体が多めに用意されているんだ。だから、みんなにこのポーションを使ってほしいんだよ」

「……これ、かなり効果が強いんだが。これじゃないと、乗り切れないのか?」

「そうなるかな? これ以下でも対応可能な個体もそれなりに居るけど、第二段階の大半は僕のポーションが必須だと思うよ。二人なら、僕がこういうときに冗談を言うかは分かるよね?」

「「…………」」


 分かっているのだろう、本気──つまりは状態異常が厄介であると。
 状態異常は祈念者も自由民も、どちらにも通用する面倒な代物だ。

 だが耐性を充分に付けておけば、さした問題にはならない。
 ……だからこそ、俺が用意した状態異常回復ポーションの質の高さを懸念している。

 質が良ければ良いほど、実際に受ける状態異常の厄介さが上がるわけで。
 求められる耐性の強さも上がり、素の状態で受けられる者の少なさを示していた。


「支援、してくれるんだよな?」

「うん。ポーションの準備だけじゃなく、状態異常を受けづらいように物理的にもバフ的にも、あといちおうデバフ的にもね」

「……それで君は、被害をどの程度だと想定しているのかな?」

「──二割、以下だといいなぁ」


 支援しても二割以下、その言葉に二人の顔が引きつった気がする。
 だが嘘を言っても仕方が無いし……よし、それじゃあ本番行ってみよう。



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