AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と迷宮内氾濫 その02



 氾濫と同時に起きた反乱を収束させた俺。
 一方で、祈念者や自由民の探索者たちに任せた氾濫だったが……まだま問題は山積み。

 段階的に魔者のレベルを引き上げていく予定だったのだが、探索者たちの大半が第一段階でいっぱいいっぱいだったのだ。


「一先ず──魔臣、集合!」

『!』


 俺の号令に応じ、集まってくれたのは高い知性を持つ魔物──魔臣たち。
 今回、迷宮を利用した反乱を起こした彼らだが……収束させた今は協力してくれる。

 なお、探索者たちが彼らに挑もうと討伐はほぼ不可能。
 それだけのスペックと戦闘経験を、彼らは有しているのだから。


「──はっきり言おう、この氾濫防衛は探索者たちがこの先この都市を守れるかどうかという確認だ。なので、今回はお前たちが直接この騒動に関わることは無い」

「そ、そんな!」
「えー、そんなのつまんねぇぜ」

「こればかりはな……実際、迷宮の氾濫が強制的に引き起こされた時、お前たちがどのような状況下にあるか分からないからな。いつまでもお前たちに頼っていられる、というわけでもないんだ」


 迷宮に外部から干渉する術が、絶対に無いとは言い切れない。
 そして、迷宮内の存在を暴走させることもまた、不可能では無いだろう。

 だからこそ、迷宮が生み出した存在ではない探索者たちが必要になった。
 彼らは支配下に無い、俺が自由に扱えないからこそ自由に戦うことができる。


「ただし、彼らはお前たちに遥かに劣っている。まあ、そもそも人と魔物にはスペックの差があるし、お前たちは人と同等の知性とシステムの恩恵があるからな。普通にやって、負けるはずが無いんだよ」


 魔臣たちはただの魔物と違い、さまざまなやり方で人以上のスペックを有していた。
 魔物もスキルは持っているし、一部の魔物は高い知性を得ている。

 だが、職業を与えられる魔物は、基本的に迷宮の魔物か従魔だけ。
 種族で擬似的に職業の力を得ているモノならば稀に居るが、職業そのものは不可能だ。

 …………まあだからこそ、彼らが固有種になる可能性は絶無なわけだが。


「こほんっ。まあともあれ、そんあわけで直接の支援はアウト。その代わり、みんなには間接的な支援を手伝ってもらうぞ」

「支援、とは具体的にどのようなものを?」

「ローラなら歌だな。一定時間に一曲、ペースを空けてその場で必要な歌を歌ってくれ。他の面々も、直接攻撃無しで支援する方法を用意してあるから、それを実行してほしい」


 人魚であるローラには、歌で支援してもらう……普通の人魚とは少し違うので、探索者へのバフでなく魔物たちへのデバフだな。

 魔臣たちはできることが多いので、一芸特化の個体でも大抵のことは可能だ。
 彼らにはそれぞれ、異なる形で探索者が魔物と戦えるようにしてもらう。


「さーて、忙しくなるぞ──それじゃあ、張り切っていこー!」

『おー!』


 変身魔法で姿を再びノゾムのモノへ。
 さまざまな経験を積むことで、この弱体化した状態でも扱えるスキルをどんどん増やしていく予定だ。

 ……どうせ、全力で戦う必要は無い。
 第二フェイズ、これもまだ乗り越えられると想定しているレベルだし……うん、余裕は無くて被害者が出ようとな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 まだ時間がある、ということで今できることをやっておくことに。
 まずは錬金関係、上級にまで至った錬金術は多くの品を生み出すことができる。


「ハナ、次は『邪毒草』をお願い」

「はい──こちらを」


 俺の隣で指示を待っていたハナは、俺が指定した植物をその場に生み出す。
 採取スキルでそれを摘み取ると、成分の抽出をし──ポーションにする。

 名前から分かるように、邪で毒の草なので加工の難易度はかなり高い。
 なので裏技、すでに製作済みの品でのみ行える『簡成』を使用する。

 品質が落ちる代わりに、素材さえあれば過程を大幅にカットして製作可能だ。
 魔法陣が浮かぶと、邪毒草が浮かび上がり液体が水玉として抽出される。

 同時に、準備していた魔力入りの水やら中和用の薬草やらからも水玉が浮かび、邪毒草の液体と混ざっていく。

 やがてそこに魔力が注がれ、一つの大きな液体の塊となる。
 今回作った『毒耐性ポーションV』は、ほとんどの毒を無効化できる代物だ。


「麻痺、眠り、混乱、魅了、そして毒……それなりに作れた。ハナが居てくれたお陰で、
ね?」

「そ、そんな……メルス様のお力があればこそ、ですよ」

「……まあ、ちょっとズルいことをしている自覚はあるけどね。いちおう作ったことがあるからこそ、こんな風にサクッと作ることができるわけだし」


 ハナは自在に植物を生み出せる。
 ユラルと似た能力だが、彼女と違いハナはゲームでいうところの『性質:悪』みたいな植物の生成に長けていた。

 ただ、どんな毒草も使いよう。
 生産神の加護の恩恵にあやかり、さまざまなアイテムを錬金している俺にとっては簡単に扱える。

 まあ、縛りの上級錬金では扱えない外法なやり方が必要な植物も生やせるのだけど。
 そちらは生産というより儀式が必要なためか、生産神の加護は非対応だ。

 普段はともかく、今は扱える植物だけを指定して出してもらっている。
 そうして作ったポーションが、探索者のためになるだろう……第二フェイズ的にもな。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品