AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と迷宮内反乱 その17



 五つ目の迷宮『不変の採取場』、そちらでの戦いは免れた俺。
 それでも、最後の迷宮『偽・世界樹』はそうもいかないようだ。

 元はロカもただの『迷宮狼ダンジョンウルフ』だった。
 だが、俺とレンがさまざまな実験を何度も繰り返した結果──『罪徳狼カルマウルフ・天魔種』という新種の魔物になる。

 名前でお察しの通り、罪と徳──つまりは<大罪>と<美徳>に関する適性を部分的にながら有しており、その一部を使うことも可能だ。

 不安定になるはずの精神も、ロカ自身の強い意志で捻じ伏せている。
 そんなロカは、『偽・世界樹』という迷宮すべてを守護する存在だ。

 この迷宮の最大の特徴、それは俺の保有する迷宮の中でも一番多い九つの迷宮をサブとして内包している点……北欧神話の世界樹を参考に初期案を立てたからである。

 探索者は九つの世界の内、いくつかを突破しなければメインの迷宮を探索することができないのだが……迷宮守護者もまた、それに準じた仕組みになっていた。

 要するに、九つの世界の守護者全員に認められなければ守護者になれない。
 昔はそうではなかったロカ、だが今は守護者になっている。

 ──レベル250の世界の守護者たちに、ロカは認められるだけの力を持っていた。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 人族であろうと魔物であろうと、レベルが250を超えた存在はある意味『超越者』として扱われる。

 ニィナやアイなど、『超越種』とは少し違う……レベルだけでは辿り着けない。
 そういった意味では、眷属の中で一番ロカに近い存在なのは──ソウだ。

 レベルを超越し、当時現役だった神々すらも退けた圧倒的力。
 神の加護を賜ったわけでも、特殊な能力を持っていたわけでもない──純粋な力。

 命名種でも固有種でも、超越種スペリオルシリーズでも災凶種ディザスターシリーズでも無いため、討伐しても遺製具は無い。
 ロカはただ強く、システムの壁を超越したレベルへ辿り着いたわけだ。


「──いろいろあったぜ。まあ、実験のお陰で何でもできたからな。力だけならどうとでもなったさ」

「……」

「それからまあ、せっかくだからここにある全部の迷宮を巡ってみた。そうしたら、いつの間にか正式にここの守護者に認められた。まあ、そのままだと出れなくなるみたいだったし、特例は認めさせたけどな」

「そうか……頑張ったな、ロカ」


 迷宮守護者は核を守る最後の番人。
 本人の意思かはともかく、突然居なくなられてしまうと迷宮も困るため、転移不可などでその地に縛られることが多い。

 だが、設定を弄ればその設定を外すこともできるのでロカはそれをさせたのだろう。
 この地の場合、それらの決定権限を九つの世界の管理者たちに委ねてあるからな。


「だからこそ、俺はアンタと戦いたい! たしか、『侵蝕』しないとダメなんだよな──これでいいだろう?」

「……制御もできるのか」

「当たり前だろう? そうじゃないと、死ぬかもしれなかったからな」


 簡単に言っているが、俺のように{感情}無しで複数の<大罪>や<美徳>の『侵蝕』に抗うのは難しい……ロカは俺以上に努力したのだろう。

 もともと水色だった瞳が、それぞれ異なる色へ変化──銀と灰、【傲慢】と【忍耐】に染まっていた。


「なあ、ここまでしてもダメか? 言っておくが俺はウォッツのように説得されるつもりは無いぞ? 縛りだろうが何でもいい、アイテムでも武器でも何でも使え……だから、俺にアンタの凄い所を見せてくれよ」

「魔導解放──“普遍在りし凡人領域”」

「おっ……?」


 俺とロカを取り囲むように展開された空間によって、俺とロカのステータスは大きく変化する。

 その差は激しく、体の違和感にロカはすぐに気づく。
 俺もまた、縛りの能力値を調整してその違和感に対応する。


「能力値は全固定、それが条件だ。他は基本的にそのままにしてある。黒幕がここまで熱く語ってくれたんだ、応えてあげるが世の情けってな」

「っしゃあ! いやぁ、そういってもらえて何よりだ! ……俺もラヴみたいに、約束を果たした方がいいか?」

「…………イくぞ!」

「おう、よく分かんないが来い!」


 細かい話をされる前に、俺は勢いよくロカへと突っ込む。
 能力値は低いけれど、代わりに身力を操作して擬似的な身体強化を行う。

 片手を空け、もう片方の手で握り締めるのは聖なる輝きと邪なる瘴気を纏う剣。
 銘は『勇魔杖剣[レヴェラス]』、ミシェルの力の一端が注がれた武器だ。


「[ドラグリュウレ]──“破転攻”!」


 重ねるように詠う遺製具レリックの銘。
 頭上に現れた笠が瞬時に分解され、代わりに俺の背中から光状の翼が広げられる。

 眷属のうち、竜に属する三人の協力で造られた人造ユニーク種。
 その個体がドロップした遺製具、『破天笠[ドラグリュウレ]』。

 低燃費な代わりに使用で必要となる膨大な量の光は、すでにチャージ済み。
 展開した光の翼が、俺の意思に合わせ──黒く染まる。


「──“劉展粒羽ドラグリュウレ・焉武”!」

「! いいぜいいぜ、盛り上がってくる! 俺もやってやるよ──“過剰溜込オーバーチャージ”!」


 限界以上に身力値を溜める、ただそれだけの【忍耐】の能力。
 先ほど『侵蝕』を引き出してから、効果が発動したはずなので今は溜まっていない。

 ……それでも宣言したからには、何かしら企みがあるのだろう。
 展開した黒い翼を意思で操作し、空を飛び対策を練るのだった。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品