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山田 武

偽善者と迷宮内反乱 その16



 俺とナシェクの下に現れた、『不変の採取場』の魔臣ウォッツ。
 彼(無性)は戦う気満々だったが……俺にその気は無かった。


「なぜ、お応えしていただけないので? まさか、私程度では満足いただけないと?」

「そういうことじゃないさ。俺はたしかに、ウォッツに戦う力を与えた……だが、それ以外にもあるだろう? この場に相応しい、お前の力が」

「…………採取で、勝負を?」

「……すまん、採取系のスキルが全然育ってないからそれも無理だ。というか、誤魔化したけれど今の俺には勝つ術が無い。だからいちおう確認したんだ、『侵蝕』してないか」


 魔臣たちは誰も彼もが強い、迷宮の中でさまざまな経験を積んでいるからだ。
 対する俺もレベル自体はそれなりに上げていた……が、それは何度も下がっている。

 有用なスキルを得るため、縛りの一環でそういった取得方法にしていた。
 そのため、魔臣たちと真っ向からやり合えるような力を俺は持ち合わせていない。

 例外は、非常時における封印の解放──相手が『侵蝕』状態なら、それを止めるという大義名分でチートスキルが使えるのだ。


「『侵蝕』関係なら、力を解放して対抗することもできた……けど、ウォッツが素の状態で挑んでくるっていうなら、俺も相応の対応しかできない」

『……貴方という人は』

「いや、仕方ないだろう。外だとある程度縛りプレイをやっていけるけど、魔臣相手に対抗する力なんて最初から無いんだよ。ウォッツがまともだからこそ、俺はお前の誘いに応えることはできない」

「…………そう、ですか」


 俺がそう言ったからといって、ウォッツが闇堕ちし『侵蝕』を……なんてことは無い。
 その辺はやはりまともな心根の持ち主、そもそもの話──気づいていたことがある。


「なあウォッツ、本当に反乱をする気は最初から無いんだろう?」

「……」

『どういうことですか?』

「いや、今回の騒動に対してレンの対応がやけに早いなぁって……普通、手遅れなぐらいに遅れて対応するものだろうに。内通者の一人や二人、居ると思ってさ」


 残された迷宮はこことあと一つ。
 それまでの迷宮、そしてそこの魔臣たちはそれぞれ俺に思うところがあり、実際に程度はあれど反乱する意思を持っていた。

 その中には『侵蝕』の影響を受けている者も居たし、一枚岩……というわけでもない。
 だからこそ、その中にレンへ通ずる者も居るだろうなという予測を立てていた。

 そして、ウォッツは自らの意思で俺に挑むと告げている。
 俺の決めた『魔臣』という単語を知ったうえで、あえて挑む選択をしていた。


「改めて聞くが……俺をどうしたい?」

「──御見逸れしました。レン様より、内側にて情報収集をするよう命令を受けました。メルス様、先ほどまでの無礼をどうかお許しください」

「いや、全然構わないけども……ウォッツ、戦いたかったのは本当だよな?」

「そうですね。一度は成長したこの力、メルス様に知ってもらいたかったです」


 まあつまり、振る舞いのすべてが演技だったわけじゃないのだ。
 本音を交えたうえで、潜り込むために必要な演技をしていた。


「縛り中はさっき語った通り無理だが、それでもこの騒動が終わったらきちんと対応させてもらうよ。ただそうなると、採取場を少しの間休業にしないといけないな」

「! よ、よろしいのでしょうか?」

「ああ、俺も悪かったしな。それでウォッツが満足してくれるなら、俺もそれなりにやらせてもらうよ……さて、今回の騒動について話してもらえるか?」

「──畏まりました」


 ウォッツは首を垂れ、まるで騎士のように跪き──語りだす。
 そして、俺はようやくこの反乱に関する真の目的を知ることになった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 第四世界 迷宮『偽・世界樹』


 そこは巨大な大樹に守られた迷宮。
 偽りの世界樹、ユラルが本物を超えた世界樹にするとあの手この手で弄繰り回した特別な代物。

 ゆえに世界樹ができることすべてを、この偽・世界樹は行える。
 それは世界の内包、保有する迷宮の中で一番デカいのがこの迷宮だ。


「──すべての黒幕は、お前だったのか」

「黒幕ってほどじゃないんだがな。いやぁ、ただ賛同してくれた奴が多かったのはビックリだ。それでメルス様よぉ、挑むのか? それともウォッツみたいに言葉で止めるか?」

「同じことをやってもつまらないだろう? 本気は出さんし、これまでとスタンスは大して変えないつもり……だが、それでも戦いはやってみようと思う──それを望んでいるんだろう?」


 そんな迷宮に配属されていた一匹の狼。
 由来も何も無く、元は知性を持たないただの魔物だった──しかし俺とレンの手によって、今や守護者となるほどの実力を得た。

 これまでの魔臣と違い、この地の魔臣は同時に迷宮の守護者でもある。
 器用に狼の口で人族語を話し、俺の問いに答えてくれた。


「そう、それを待っていた! 全然戦ってくれなくなったからな!」

「──『ロカ』、それが答えか」

「ああ、その結果で決めさせてもらうぜ! 今の俺は簡単には負けないぞ?」


 ニヤリと笑っているのが何となく分かる。
 それでも、俺は──俺たちは戦う、探索者では手に余る強者を相手に。



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