AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と迷宮内反乱 その10



 寒さに負けず、『吹き荒ぶ凍雪原』を探索している。
 この地に居るであろう知性の高い魔物は、リソースの分配まで行っていた。

 単純な話、保有するリソースの量が多ければ多いほどその存在は強い。
 能力値、スキル、魔物であれば特殊な能力など……その分配先で強さが変わる。

 途中から現れるようになった魔物は、主に能力値へリソースが割り振られていた。
 直接戦ったことで、その辺はある程度理解できる。

 スキルや特殊な能力に割り振らなかったのは、おそらくというか間違いなく、必要となるリソース量が多いから。

 簡易なモノならともかく、ローラやハナを相手取るには相応のモノが必要となる。
 ──そして、これまでがそうだったからと言って、用意されていないわけでは無い。


「──『灼炎の、天、剣』!」

『────ッ!!』


 寒さを凌いでいた鎧──『純無の天鎧』を一瞬のみ解除し、炎の聖剣を振るう。
 その途端、弱体化した耐性では耐えられない凍える冷気が全身を突き刺す。

 炎の出力を増して寒さに対抗し、再び鎧を身に纏い元の状態に。
 周囲に魔物が居ないことを確認し……二人の下へ向かった。


「二人とも、大丈夫か?」

「はい……申し訳ございません」
「まさか、ここまで対抗してくるとは」

「ナシェクが居てくれたお陰で助かったな。こっちが直接炎系の攻撃を有していない、そう思っていたみたいだしな」

「「…………」」


 ナシェクを鎧として使わせてもらい、魔法で攻撃していたからこそ。
 向こう側が用意した策は、ローラとハナに対するもの。

 ハナの生み出し植物の影響を防ぎ、ローラの歌や音波攻撃も無効化していた。
 耐性にかなりのリソースを振っていて、二人の攻撃は通らない。

 だからこそ、多少の寒さを堪えて聖剣で俺が倒すことに。
 魔法耐性はしっかり持っていたようだが、聖なる炎はあっさりと魔物を焼き尽くした。


「耐性を強める、それを極めれば無効化の域に達するからな……まさか、ここでナシェクが切り札になるとはな」

『魔物に聖属性の耐性を付与するのは、かなり困難でしょう。無効化というのであれば、それもかなり……』

「つまりアレだな、聖属性のナシェク様におすがりするのが一番ってことか」

『端的に言ってしまえば、その通りですね』


 そういえば、迷宮機構システムでスキルを付与しようとしたら聖属性はそれなりに高かったな。
 適性を持たないもの、そして持つことができないものを付与しているわけだし。


「せいぜいが、火属性に対する耐性でどうにかするぐらいだけど……ナシェクが相手だとそれも無駄だよな」

『ふっ、ようやく私の実力を理解したようですね。これからは、より一層私への献身を行うことです』

「そんなことしてた覚えが無いんだが……まあ、重宝させてもらうよ」

「「…………」」


 だからこそ、ミコト先輩の残滓を見つける必要があるんだよな。
 彼女の言う献身とは違うだろうが、俺が考え得る最高のやり方だろう。

 さて、陰でこそこそと話しているローラとハナ、何だか疑念が強まっているな。
 ……とりあえず、弁解でもしておいた方がいいかもしれない。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 迷宮『吹き荒ぶ凍雪原』 最奥


 本来、この迷宮を守護するのは凍竜という冷気を纏う竜だ。
 やはり、竜がボスというのは定番なので迷宮には竜系の守護者が多く配置されている。

 最奥と言っても雪原の奥、ただその先に迷宮核が鎮座する小さな洞窟があるだけの地。
 そこには守護者である凍竜──そして、一人の女性が立っていた。


「『セツ』、迎えに来たぞ」

「……のに」

「ん? すまんが吹雪で──」

「三番目なのに! どうして、どうして私は一番目なのでは無いのですか!? ローラ様よりも、ハナ様よりもお役に立てます!」

「「…………」」


 酷く辛そうに、目からは熱い……じゃなくて冷たい雪を零す女性。
 彼女はセツ、種族は『深雪女王・天魔種』という特別なもの。

 何より、瞳を爛々と緑色に輝かせる姿はまさに【嫉妬】の『侵蝕』。
 白銀に染まっている髪も、時折緑色を混ぜたメッシュのようになっている。

 俺が普段会うときは、ここまででは無いのだが……今回は我慢の限界のようだ。
 今の俺は、ローラとハナのようにジト目を浮かべているのだろうか。

 なお、守護者である竜は体を丸くして寝ている状態だ。
 煩そうに目を顰めているので、支配まではされていないのかもしれない。


「まずは会話を……って、たぶん聞いてくれないよな──『落ち着け』」

「!」

「魔言は効くか……セツ、これからきちんと説明する。だから、まずは心を抑えてくれ」

「は、はい……も、申し訳ありません」


 深呼吸などをさせていると、だんだんと髪の色も銀一色に戻っていく。
 そのままゆっくりと……最終的に、片眼が銀色になったところで彼女は落ち着いた。


「ふぅ……失礼いたしました。旦那様にあのような姿を見せてしまうとは……」

「いや、構わない。それよりも一つ確認するぞ、今のセツに敵意はあるか?」

「……あるにはあります。ですが、衝動に駆られるようなことはありません。本当に、重ね重ねご迷惑を……」

「いや、工夫を凝らされていてとても良かった。さすがはセツだな」

「いえ、そんな……!」


 それからしばらく、セツを宥めることに注力する俺……ローラとハナのジト目が元の状態になっていることを心から願う。

 しかし、三ヶ所目からもう『侵蝕』込みになるのか……この迷宮巡礼、一番最後が本当に怖いよ。



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