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山田 武

偽善者と迷宮内反乱 その09



 三つ目に訪れた迷宮『吹き荒ぶ凍雪原』。
 どれだけ寒さに耐性を持っていても、時間経過で必ず凍傷に陥ってしまうような極寒の迷宮に来ていた。

 ナシェクに許可を貰い、『純無の天鎧』を着装する俺。
 ……なぜかその時、不穏なことを語っているローラとハナには注意せねば。

 チート装備を身に纏った結果、『快適』効果との相乗でより寒さに強くなった。
 事象を拒絶する鎧が、一定時間経過による寒さ系統の耐性弱体化を弾いているのだ。


『正規の契約者では無く、適性もそこまででは無い以上そう長くは持たないでしょうね』

「耐性を育てたいから、それは好都合だ。それよりも……どう思う?」

『この状況ですか? それとも──彼女たちのことですか?』


 さて、俺とナシェクをジッと観察している二対の双眸。
 何やら疑いの視線を向けている、ローラとハナたち。

 その理由が本当にさっぱりなのだが、強化された聴覚から『間違いない』だの『監視』といった不穏な単語を確認している。

 着装してからそれなりに時間が経っているのだが、疑いがまったく晴れない。
 おそらく、ナシェクと共に居るという状態そのものに、不信感があるのだろう。

 ローラと会い、ハナに会うその間。
 要は『凶楽の花園』に居る間は、ナシェクという聖具をそこまで使っていなかった。
 だからこそ、何も言わなかったのだろう。

 しかし今はバッチリ鎧として使っており、相談などもしている。
 彼女たちが言葉を交わす時間を、と勝手に配慮したのが仇になったらしい。

 ただまあ、ナシェクにお世話になっているのもまた事実。
 かつ、俺は彼女を再び本来の担い手転移者ミコトに会わせることもできていない。

 ……すでに彼女は死んでいるが、その残滓がまだこの世界には残っている。
 生と死の『超越種』、アイ公認の情報なのでいつかはと張り切っていた。


「とりあえず、状況の方で。二人の方は……まあ、時間が何とかしてくれるだろう」

『そうですか。鎧を使っている以上、肉体的苦痛は防いでみせましょう』

「……その精神的苦痛は非対応なところ、改善の予定は?」

『まったくありませんね。あの娘に適した聖具ですし、あの娘は何というか……精神的にタフでしたので』


 前に聞いた話によると、召喚に巻き込まれてこちらに来た彼女。
 聖女を呼ぶための召喚で、しかも彼女は本当に聖女としての資質を持っていなかった。

 いろいろと厳しい状況下でも、彼女は足掻きに足掻いて聖人として成り上がる。
 ……その辺の詳細は教えてくれなかったものの、かなりの苦行だったに違いない。


『っと、そうでした。状況についてでした。たしか、迷宮の権限を一度限り利用できるとのことでしたね? 具体的に、どのようなことが可能なのですか? 私の与えられた知識には、迷宮の仕組みはございませんので』

「あ、ああ……そうだな、まずは魔物の配置や行動の変化。これはローラやハナがやっていたヤツだ。他には新たに何かを配置する、あるいはリソースの再分配とかかな」

『……。それですね、リソースの再分配。貴方たちがここを訪れることを察し、余計な魔物を意図的に削除。確保したリソースを必要なモノに回したのでしょう』

「なるほど、それでか……たしかに、ここは長時間居るだけで耐性が下がるし、そこを突くようなモノにだけ注力すればいいのか」


 普通なら時間稼ぎに魔物を並べておくのかもしれないが、俺だけでなくローラやハナが居ることでそれは意味を成さない……本当、後になるほど迷宮が厄介になっていくな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ナシェクの予測は的中、奥に行くにつれて姿を現した魔物たち。
 リソースを分配され、強化された個体は強くかなり苦戦することに。


「──『雪吸華』!」


 ハナが種をどこからともなく取り出し、周囲にばら撒く。
 するとその部分の雪が溶けだし、代わりに白い花々が咲いていった。

 花の名は『雪吸華』。
 迷宮のシステムで呼び出せる寒い地域の花に、これまたさまざまな加工を行った特別な代物だ。

 彼女もまた、ユラルと同じように保有する植物を取り出して操るスタイル。
 ただ、少しだけ違うのは──


「──“移植”!」


 雪の上に咲いた花々が、光の泡に包まれるとそのまま彼女の下へ。
 白い花そのものを腕に宿すと、急激な勢いで周囲の冷気を吸い込んでいく。

 冷気を奪われたことで、多くの魔物たちが一気に弱体化。
 たとえ魔物として強かろうと、その強さを発揮する環境を失えば総崩れだ。

 ハナはただ咲かせるだけでなく、それを自ら纏うことで武器としても使う。
 相手がそれを破壊するのは困難だし、身体強化で性能を強化できる。

 ローラが歌で支援し、俺もまたナシェクの恩恵にあやかり攻撃を。
 今は鎧になってもらっているので、魔法を武器に場を駆け巡っていった。


「ふぅ……一息吐けそうだな。みんな、少し休むとしよう」

「はい、そうしましょう。しかし……なかなかに強いですね」

「ああ、そうだな。それだけここリソースを裂いている……ってことならいいんだが。まだまだ強くなりそうなんだよな」


 最初に出てこなかった魔物のことを考えると、おそらくは……うん、まだまだ気は緩められないな。



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