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山田 武

偽善者と迷宮内反乱 その07



 凶楽の花園


 人魚のローラと共に、この『凶楽の花園』に住まう知性の高い魔物に会いに来た。
 だが迷宮の仕様を変える一度限りの権限を使い、難易度を勝手に上げていたようだ。

 彼女の協力もあって、襲い掛かって来る魔物たちを退けている。
 だが、目的は魔物の討伐でも迷宮の攻略でもない、故に俺たちは在る場所へ向かう。


「アイツ……ハナはここの管理人をやってくれてはいるが、守護者自体は別の魔物が務めている。そして、ハナが居るのは──」

「……これは」

「なっ、入り口の方が綺麗だろう? 他にもそういういい場所はある。だが、頑なでな。ここから動かないんだよ」


 魔物たちの妨害も、途中から止まった。
 それはひとえに、彼女がこの場に争いを持ち込みたく無かったから……周囲を木々に囲まれた広場、その中心に彼女は居る。

 当時の俺は実験感覚で、一輪の花をそこに生成して埋めた。
 迷宮のシステム、そして俺の魔法でその花は弄繰り回され──魔物と化す。


「間違いなく、ハナは本来の在り様を捻じ曲げられて生まれた存在だ。先天的に知性が与えられたローラたちと違って、後天的に植物に自我が目覚めるか……その実験だったんだから──恨まれていてもおかしくないんだ」


 自我ノ芽、蕾、花というスキル。
 それらは武具っ娘たちが持っていたモノなのだが、どうしてそれらの単語が使われたのかと疑問に思った当時の俺。

 そして、レンと話し合って実験的に、花に自我を植え付けようということになった。
 ハナは今まで存在していなかった、まったく新種の魔物である。

 創作物だと、そういう生まれの存在が創造主に反旗を翻す話はテンプレだろう。
 なので今日という日が来ることを、俺はある意味覚悟していた……つもりだった。


「──いいえ、恨んでなどおりません。偉大なるお方、我が支配者。この価値無き命に意味を見出してくださった貴方様を、どうして恨むことができますでしょうか……!」

「……ハナ」


 だが、俺の覚悟は否定される。
 広場の中心に咲いた紫色の花、そこから現れた半透明な美女。

 魔改造の結果、精神生命体としての存在を確立したハナ。
 種族も花型の魔物では無く、花に宿る妖精として認識されていた。

 深緑の髪を燦燦と照り付ける日の光に煌かせ、紫色の瞳でジッとこちらを見てくる。
 そこにはいっさいの嘘が無く、心から俺への感謝を告げているようだった。


「ただ一つ、苦言を申すのであれば……この私こそを、一番に選んでほしかったです。そこの人魚ではなく、この私を」

「うふふっ、ハナさん。あとからどのように言おうと、私が最初に選ばれた事実は変わりませんよ。ですので、どれだけ言っていただいても構いません──事実は変わりません」

「…………貴方様、どうかご命令を──このふざけたことを語る魚に裁きをと」

「あら、猫被りは良いのですか? いえ、そういえばこの迷宮の中のことはすべて把握されておられましたね。盗聴なんてなんとはしたない、私とメルス様の二人っきりのお話でしたのに」


 うん、俺でも分かるほど二人の間に火花が迸っているよ。
 自分の感覚では問題無いと思っても、創作物の知識がアウトだと警鐘を鳴らしている。


「えー、あーこほんっ。二人とも、まずは距離を取ってくれ……攻撃も妨害も止めて、俺が間になるように立つんだぞ」

「「…………」」


 俺の指示に従い、大人しく動く二人。
 ただし隙を窺い、お互いに何らかの嫌がらせをしようとしている……俺が間に居るからこそ、それができないでいるだけ。


「ふぅ……悪かった、本当なら俺が分裂でもして同時に行けば良かったんだ」

「そ、そのようなこと!」
「そ、そうです! 貴方様のお手を煩わせることなど!」

「事実だ。それをしなかったのは、俺の怠慢だ。一番目をローラの居る『生命の秘海』にしたのも、二番目をハナの居るここにしたのも俺だからな……それも含めて後で全員に謝る、だから今だけは協力してくれないか?」

「「…………」」


 二人は目を合わせ、ようやくぶつけていた火花を収めてくれた。
 正直、今の俺には止められない……二人の実力は相当なものだからな。

 これから先、彼女たちのような魔物に会えば会うほど彼らはより強い想いを昂らせて俺へ迫ってくるだろう──それを諌めるためには、彼女たちの協力が必須だった。


「メルス様、次はどちらへ?」

「今度こそ『採取場』へ行こうか。二人はどこか、行っておきたい場所はあるか?」

「メルス様がお望みとあらば」
「……。は、はい、それがよろしいかと」

「いや、ハナ。懸念があるなら言っておいてほしい、どこかの迷宮が危険なレベルで強化されるなら、それはそれで対処しなければならないし」


 自由民たちはともかく、祈念者たちが言うことを聞かずに勝手に迷宮へ侵入する可能性はかなり高い……最初に『王者の一本道』へ入れたのは、それを愚行と認識させるため。

 それでも、それ以上のメリットを勝手に見出し動く連中は居ないとは言い切れない。
 そしてそれが、氾濫ではなく反乱中の迷宮だった時……悪化する可能性もある。

 故に、ハナの意見は重要なモノだった。
 俺にはある意味前科がある、こうして教えてくれた場所に行くのがいいかもしれない。

 ──そうして、次の目的地が決まった。



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