AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と迷宮内反乱 その03



 多くの祈念者が、メルスに連れられて別の場所へ向かっていく。
 俺にはそれを止める権利は無い……一度死ねば、懲りて戻ってくるだろう。

「……まったく、バカな奴らだ」

「あの、よろしいのですか?」

「構わん。メルスもアレで、マシな迷宮を進めてくれた。ある意味好都合だ、反抗的な奴らが挙って従順になってくれるわけだしな」

「……あの、本当によろしいので?」

 秘書役を務めてくれているアヤメが、再三確認を取ってくる。
 あの迷宮には、俺とごく一部──アイツの眷属になった祈念者しか行っていないしな。

「これからアイツらが行く迷宮は、ただ真っすぐ進むだけで迷宮の深奥まで辿り着ける」

「……魔物や罠の類は?」

「まっ、つまりはそういうことだ。メルス曰く『コンセプトは【傲慢】たれ、ただ前に進むその姿に王たる資質を見せよ』とかなんとか言っていた。あらゆる妨害を無視して、進めるだけの実力が必要なわけだな」

「それ、メルスさん基準の話ですよね?」

 アヤメも実力の一端は知っているので、もう遠目にしか見えない祈念者たちに憐憫の視線を向けている……アイツ、自分がモブとか考えているから、常識がおかしいんだよな。

 いちおうでも、祈念者の中でも指折りの実力者とされている俺だが、それでも道半ばで挫折してリタイアした……祈念者で中を自由に進めるのは、アイツの眷属ぐらいだろう。

 アイツの求める理想の王、それが何なのかは分からないが……高望みし過ぎである。
 おそらく、アイツ自身がこの世界で王様になっているからハードルが上がったのだ。

 自分でもできること、だが抱えている問題がいくつもある。
 ならば真に優れた王とは……なんて、バカなことを考えたのだろう。

「──あの、脱落者が戻って来たようです」

「……予想より早いな。たぶん、バカなルートを選んだな」

「……一本道では?」

「知らん。曰く、『王様にもいろいろと種類が居るだろう?』だそうだ。普通のも酷いんだが、別ルートはもっと酷い。まっ、その分道は短いらしいんだがな」

 王道ルートとやらがそれなりに長く、おそらく顔色を真っ青にして戻ってきた祈念者が選んだのは覇王ルート……どうしてそれを選べたのか、皆目見当がつかない。

「アヤメ、メンバーにカウンセリングをさせてやってくれ。信頼を買って、こき使うぞ」

「……ハァ、分かりました」

「あと、情報収集の方を忘れないでくれ。あの時はダメだったが、今度こそ──」

「分かりました……ですが、ハクアキおくさんにもきちんとご報告いたしますので」

 そう言って、彼女はこの場から……あっ、ちょっ待──!

  ◆   □   ◆   □   ◆

 第四世界 王者の一本道


 最高難易度をお好みだった祈念者を、案内してみた。
 そこには無数に分岐した、それぞれが独立した一本道が並んでいる。

 道の前にはそれぞれ、『王道』や『魔王』といった文字が表記されており、それに因んだ内容が用意されていた。


《──主様マイマスター、全滅を確認しました》

「よし、これで反抗的な奴は消えたな。あとで変な場所に入られても困るし、大人しくしてもらわないと」


 第四世界である迷宮都市。
 その多くは俺の実験場であり、もしもに備えた特殊な施設……非公開な部分も多く、探られると大変面倒だった。

 なので、ややナックルに反抗的だった連中の荒っぽい躾を済ませたわけだ。 
 ……まさか、自ら率先して覇王ルートを選ぶ奴が居るとは思わなかったが。

 そこに待つのは、眷属ですら警戒するような魔物たちがうじゃうじゃと。
 覇王らしく、圧倒的な力で捻じ伏せることができなければ先へは進めない。

 元より、彼らにそんな覇業を期待しているわけなど無く。
 とっとと挫折して引き返し、ナックルの言うことを聞く従順な兵に成り給え。


「さて、ナックルには連絡……しなくてもいい気がするな。よし、このまま迷宮に突入しようじゃないか。問題は、どこから行くかってところだよなー」


 今回、俺が向かうのは氾濫……ではなく反乱を起こした魔物たちの住まう迷宮。
 美徳/大罪の迷宮ほどでは無くとも、それなりに難易度の高い迷宮ばかりだ。

 迷宮は無数に存在し、基本的に一つに付き一体の魔物が配置されている。
 ……はてさて、いったいどこから向かえばいいのやら。


「こればかりは、アイツら自身に聞くわけにはいかないもんな……絶対、行った順番でアイツら揉めるだろうし」


 かつての俺が、いろいろと彼らの主張を聞き入れた結果、定期的に彼らは言葉を交わすことができる……うん、良かれと思ったことがあとで揉め事を引き起こすんだよな。

 なので、まずはどこに行くのか。
 なお、移動距離などは無駄……転移で行けば一瞬で済むのだから、それを理由のすることはでき、ない──


「いや、今は縛り中だもんな。そうだ、それなら逆手に取って──」


 あることを閃いた俺は、さっそく準備。
 現夢世界で纏った塗料シリーズ、そして今回はしっかりと忘れずにそれ以外にもアイテムを揃えて準備は万端。

 縛り状態だからこそ、弱い俺だからこそできること。
 ……大義名分はできた、さっそく迷宮へ向かおう!



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