AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と新人イベント その09



 イベント終了後、交換できるようになるアイテムを確認してみた。
 好感度が上がるというアイテムは、いろいろと問題があると思う。


「おっと、連絡か……」


 便利過ぎる[メール]機能によって、PK連中に差し向けていた暗殺者たちの情報を纏めたモノが届いた。

 ……いちおう言っておくと、割と不便なところも多いのがこれの不都合な点だ。
 そりゃあ[メール]と[ウィスパー]があるだけで、通信技術が一気に狂うからな。

 実際には、機人族云々や空間魔法などでそこまで変化は無かったものの。
 何より、[メール]の内容が漏れないわけじゃないんだよな。


「ええっと、襲撃は最終日っと。なら、しばらくはディーもお預けだな。それに、魔物の種類は……うわっ、幅広いなマジで」


 ボッ……ソロ経験が長めな俺は、独りでぶつぶつと[メール]内容に突っ込んでいく。
 傍から見て不審者その者だろうが……ある意味、似たような奴は多くいるのでセーフ。

 どうやらPK連中にも、面倒な能力の持ち主などが居るようで。
 魔物による殺害、いわゆるMPKに更なる手を加えているらしい。

 たとえば連れてくる魔物、本来ならばある程度フィールドに合わせなければならない。
 だがどうしたことか、すでに掻き集めている魔物はかなり種類に富んでいるとのこと。

 単純にぶつけるだけでなく、他の方法……生贄の材料にも使う可能性はある。
 だが、それならばわざわざ地形に合わない魔物でも良いはずだ。


「ありそうだな、なんかそういう感じの固有スキルとか、職業みたいなの……あと、遺製具って可能性も有るのか」


 第一候補は固有スキル、魔物に関する強い想いがあれば発現する可能性は高かった。
 だがこちらはまったくの未知、情報を集めようにも視ないと分からない。

 そして第二候補の職業、いちおう魔物を誘因する職業は存在する。
 その中でも、他者に擦り付けることを目的とした職業……可能性はゼロじゃない。

 第三候補は遺製具、ただしこれは補助的な要素でありメインでは無いだろう
 元より、遺製具は獲得者にアジャストしているので、必要とするモノのみとなる。

 つまり、遺製具自体が魔物を誘因する要素なのではなく、固有スキルか職業の力をより強めるアイテムとして遺製具が使われる……といった形だ。


「まあ、いずれにせよ。魔物自体は大量に流れ込んでくるわけか……うーん、普通なら防衛に回った方がいいんだろうけど」


 そこで脳裏に浮かぶのは、刹那的な余興。
 倫理的に問題だらけだが、たしかに成果は見られるだろうアクション──つまり、PK側に手を貸すという方法だ。

 創作物のダークヒーローなら、あっさりとやりかねない方法だろう。
 しかしながら、俺は偽善者であって悪役は目指していない……だからこそ悩む。


「正直、どっちでもいいんだよな。正義面して悪を成敗するでも、犯罪者面して無垢な連中を掻っ捌くでも。まあ、自由民が巻き込まれているならそれを救う一択だけど」


 絶対の蘇生手段を持たない彼らは、ゲーム感覚で人を殺すPKにとって格好の的だ。
 殺してしまえば蘇らず、証拠を隠滅すれば復讐される可能性も低いからな。

 死霊魔法やら交霊術やらで、そういう者たちが復讐の機会を得る可能性はある。
 だが、通りすがりでそんな特殊な力を持つ者が現れる可能性もまた低い。


「どっちか……うーん、両方は無しだし。もういっそのこと──うん、毎度お馴染みの第三陣営かな?」


 陣営イベントしかり、よくやっている新たな派閥としての介入。
 そしてこれは、暇を持て余す眷属を楽しませるいい機会にもなる。


「装備は弱体化系にしてもらうとして、スキルも多少縛りを入れればいいか。うん、考えれば考えるほどテンションが上がってきた。よーし、楽しんでいこうか!」


 なお、楽しむのはあくまで俺と眷属。
 他のことをいっさい考えていない辺り、やはり創作物の主人公などには向いていないなと思うところ。

 彼らのような壮絶な人生を送って……いないとは思うし、別に構わないだろう。
 ごくありふれた生活しかしていない凡人には、中途半端な生き方しかできないわけだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 後で責められるのを恐れたチキンハートな俺は、ホウレンソウをしっかりと行う。
 念話を送った先は、こういうときに大抵は何とかしてくれるナックルだ。


《──はい、というわけで俺はお前たちVSPKの戦いに第三勢力として混ざる。だから精々、頑張ってくれ》

【いろいろとツッコみたいことはある……だが一つだけ──全滅するぞ、俺たちが】

《事前に死亡後の蘇生が可能な状態にしておくから、まあ頑張ってくれ。そもそも、このイベントだと死んでも増えることはあっても減ることは無いだろう?》

【いやまあ、そうだけども……どうせなら、こっち側でやってくれればいいだろうに。お前の教え子とか、どうするんだよ】


 期待通り、文句は言いつつもほぼ受け入れてくれようとしている。
 教え子云々は……うん、彼女たちを心配してくれているのだろう。


《だからこそだろう? いっそのこと、お前たちも全力で挑んでみるか? アルカも最近俺に本気を出せって挑んできたし、試す機会だと思ってさ》

【……むう、たしかに一理あるか】

《デメリットは皆無、高みを知って伸びる奴はさらに伸びる。そして何より──俺に泊まる気が無い、受け入れてこれからの対策を練る方がイイと思うぞ》

【お前な…………ハァ、まあいつものことだからな。分かった、それとなくPKのことも含めて情報を回しておく。言っておくが、くれぐれもバレないようにしてくれよ。いろいろと面倒ごとになるからな】


 そう連絡を交わし、念話を切った。
 そして、再び念話を繋ぐ──連絡先はもちろん、眷属たち。


「さぁ、お祭り騒ぎを始めようぜ」



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