AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と新人イベント その03



 ???


 新人三人をその気にさせ、イベントへ本格的に参加させた。
 一方、俺は俺で彼女たちの指導者として成すべきことを成そうと──


「──していたらカッコイイんだけどなぁ。さて、いろいろと頑張りますか」

『♪』

「ははっ、そうだな。お前が居ないと今回の縛りもできなかったか。だからこそ、期待しているぞ、ディー」


 容姿は普段のままに、能力値やスキルには不自由を設けた初期状態の縛りプレイ。
 ただ全能な状態でやっても意味が無いと、舐めプをしながら俺は目的を遂行する。

 ディー、『進退流転』を冠したかつてのユニーク種の残滓。
 その真名を解き放つとき、その姿はまったく異なるモノとなる。


「ディー、行くぞ──“専変瞞化ディヴァース”」

『!!』


 大砂海では使わなかった、ディーの必殺技とも呼べる技。
 一日一回のみ発動可能なこの技は、あらゆる条件を無視した変身能力を可能とする。

 元より、因子やら経験値やら行動累積などによって不可能な一部の種族への変身。
 しかしこの一時に限り、因子を取り込んだ存在であれば何にでもなれる。

 不定形だったスライムボディが歪み、黒く染まり人の形を模していく。
 そして、その黒い人型に生える翼──それはまるで天使のようだった。


『!!』

「ディー──“呑影触罪”」


 それはユニーク種、『護法天影[ロウシャジャル]』の持つ固有能力。
 罪を裁くために創られた、人造のユニーク種の能力をディーが代理で発動させる。

 俺の居るこの空間──ただ暗く、呼吸もできない闇の中でナニカが蠢く。
 そしてそれは、上空に存在する小さな通気口を通じて地表へと向かう。


「さーて、釣れるかな……っとさっそく」

『──うわぁあああああああ!!』

「大量大量。その調子でじゃんじゃんやってくれ、魔力は好きなだけ持っていってくれていいからな」

『★♪』


 この状態のディーは、普段よりも感情表現が豊かになっている。
 その嬉しさが技にまで反映されたせいか、落ちてくる人々が激しく揺れていた。

 落ちてくる者たちはこの真空領域に引きずり込まれ、藻掻き苦しんでいる。
 俺はその光景をただ眺め──理性的な者を即座に射殺していた。


「呼吸ができるアイテムなんて、いくらでもあるもんな……させるわけないだろう。予想はしてたぞ、息をしないでこっそり殺すのは定番だしな」


 構えるのは赤く、そして青い拳銃。
 燃え盛る炎を凍てつく氷で閉じ込める、そういったデザインが施された逸品だ。

 銃の名は『矛盾熱獣[マルコシアス]』。
 かつてユウやアルカによって討伐され、レイドラリーイベントで再現されたその個体を討伐したことで獲得した代物だ。

 当時はイベントのドロップ品である宝珠が落ちたのだが、個体の複製などは眷属の手に掛かれば容易く……いろいろな実験も兼ね、復活させて再度討伐した際の品でもある。 

 放つ弾丸は炎と氷、二種類の熱を帯びて対象を撃ち貫く。
 片方のみ、あるいは両方の属性の効果も同時に発生する厄介な仕様だ。


「PK、犯罪者に容赦をする必要なんて無いからな。思いっきり殺して業績を積んでくれると俺も嬉しい」

『★♪』

「──さぁ、殺し尽くそうぞ。始まりの街に居るすべての犯罪系祈念者を」


  ◆   □   ◆   □   ◆


 蔓延る悪を断罪する。
 なんて厨二臭い口実はともかくとして、俺は嬉々としてPK狩りを行っていた。

 事前にリヴェルを介して依頼し、多くの連中を始まりの街に誘き寄せている。
 そして、そんな始まりの街全体にディーが領域を展開して彼らを下に引っ張っていた。

 条件を設定できるため、祈念者の業値が一定以下の連中を指定。
 結果、入れ食い状態で釣れる犯罪者たちを俺たちは殺しまくっている。


「──“祈賤失墜”、“再回粒帰”」


 二つのオリジナル魔法を唱えると、死して還元されるはずだった彼らの肉体が強制的にこの場に戻される。

 死に戻りで逃げることも許されず、今頃恨めし気に睨んでいるだろう。
 積み重なる死体を眺め、ボーっとしてから小さく一言。


「……ダサッ」


 魂魄眼を使わずとも、俺の周りで祈念者たちが蠢いているのが何となく分かる。
 魔法の効果が切れれば、あるいは強制的な[ログアウト]を起こせれば戻れるだろう。

 だが、ほとんどの者に強制[ログアウト]はできず、俺の煽りに引っ掛かる。
 だからだろう、霊感スキルを使っていないのも関わらず、何となく悪寒がしていた。


「まっ、悪寒を引き起こすだけで特段何もできない哀れな連中だけどな。ディー、やってしまえ──“法務矢行”」

『!!』


 俺の周囲に放たれる光の矢。
 いっさい害をもたらさないその攻撃が通過するたび、体がどんどん軽くなっていく。

 眼には見えていないが、おそらくその攻撃で祈念者の霊体が破壊されている。
 そして、何も無い空間に強制送還され、しばらく待機させられていることだろう。

 こういった情報もまた、祈念者の魂魄について解析したネロが調べ尽くしている。
 そこでは一定時間が過ぎるまで、決して自発的な[ログアウト]はできない。


「うーん、これで間引きは充分だね。よし、それじゃあディー、ご苦労様」

『★♪』


 しばらくは能力を使えないため、ディーには送還されてもらう。
 始まりの街の掃除は終わった、俺のやるべきことも終了だな。



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