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山田 武

偽善者と砂漠の旅 その19



 ──歌い、踊り、舞う。

 彼女が演目を繰り広げるとき、そこには誰も居ない。
 孤独のステージ、楽器も後方で踊る者も、あらゆる盛り立て役が不要だった。

 かつては共に並ぶ者も居たが、才覚を伸ばすにつれて誰もついて来れなくなる。
 結果、彼女は誰を頼るでもなく、今の今まで妹を守り続けてきた。

 ──そんな最愛の少女は言う、これからは自分も彼女を守りたいと。

 気持ちはとても嬉しい。
 号泣し、抱きしめ、感謝の言葉を伝えた。
 ……だが、それでもその主張だけはきっぱりと断った──はずだ。

 寂しげにしながらも、決して彼女の言葉に逆らわなかった少女はもういない。
 頼り、頼られ、共に在ることの意味を学んだ少女の意思はとても頑なだった。

 そこまで言うのであれば、そう渋々折れざるを得ない。
 もし危険があれば、すぐにでも連れ去りまた安住の地を探せばよいのだから。

 ……それこそ、少年の語り、騙ったような場所があるのであれば。
 自分らしくない思考は、あっさりと振り払われる──眼前の現状、その壮絶さにより。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 少女の身の安全を保障し、どうにか前線へ赴くことを許可させた。
 Zが用意してくれた人手と共に、俺たちは大砂海で暴れる[ディザント]の下へ。


「それじゃあ、出発進行!」


 全員を乗せるための魔道具も、Zが用意してくれた。
 俺も持っている魔法の絨毯っぽい魔道具だが、こちらは大人数が載れる大型版だ。

 そこに予めチャージされていた魔力が消費され、浮かび上がった絨毯を操作。
 重力に反し、そのまま風の流れに乗って大砂海を翔けていく。


「みんな、しっかり掴まっててね……お願い・・・できるかな?」

「うん──『風の精霊さん、お願い』!」


 俺が声を掛けると、少女は周囲に呼びかけるように何も無い宙へと語り掛ける。
 すると、強まっていた風の圧が弱まり、何もしていないのに速度が上がっていく。


「……ねぇ、お姉さん。もし、精霊と対話する力が手に入るなら欲しい?」

「あの娘はとても楽しそうだけど……別に、どうしてもってほどじゃないわね」

「もしも、この娘と──」

「──オチは分かったから、これ以上は言わなくても結構よ。よく祈念者の連中が言っているから、嫌でも分かるわ……反吐が出る」


 基本的に、祈念者たちはマナーとしてゲーム的な単語を自由民には語らない。
 だが、中にはあえて悪態を吐くようにそれらを語る連中も居る。

 未来眼は使っていない、だがフーラとフーリに類似した状況から推測できた。
 妹の才能、それは本来姉へと引き継がれるために存在していたのだろう。

 集中するため、一人離れた場所で精霊と語らう少女。
 彼女はその姿をじっくりと眺め、吐き捨てるように口ずさむ。


「そんな未来があるのなら、私は私自身を殺すべきね。あの娘を犠牲にした世界を、許容するだなんてどうかしている……」

「僕も、僕の家族を犠牲にする未来は嫌だけどね。ただ、生きてって懇願されているはずだから、だいぶ悩むだろうけどね。いずれにせよ、今のお姉さんには関係ない話だよ」

「…………そうだといいわ」


 少女が風精霊たちを空で集めれば集めるほど、絨毯の速度は加速していく。
 やがて、エリアを跨いで[ディザント]が暴れている区画へと。

 ──その姿を見て、少女は再び精霊たちへと語り掛けるのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 少女は『サイバーワールド(β)』を用いて、強くなるために修行をしている。
 精霊との親和性があると分かったため、実はシャルに会わせるなどもしていた。

 結果、精霊たちが好む魔力を意図的に制御できるようになっている。
 レベルもしっかりと上げており、今の少女は【友愛精霊使者】だった。

 俺の『導き』ではなく、カナの『友愛導』だったのは向き不向きの結果なのだろう。
 彼女と出会っていなければ、また異なる運命を掴み取っていたのかもしれないな。


「──“友精誠捧”!」


 それは、かつてカナも使っていた能力に酷似した少女だけの力。
 周囲を漂っていた精霊たちは、能力の波動に触れると少女の指示に従う。

 ある個体は戦闘中の祈念者を助け、ある個体は[ディザント]の妨害を、またある個体は地形自体を操作したり……さまざまな事象に手を加え、戦況を大きく変えていく。

 一つひとつであれば、大したことではないかもしれない。
 だが、それらをすべて、かつ同時に引き起こした時の効果は絶大だった。

 カナの場合、友愛を以って接した相手と一つとなり力を発揮する。
 だが少女の場合、その友愛によって集めた精霊たちを他者へ振る舞っていた。


「むむっ、これは凄いね……お姉さんも、負けてられないんじゃないかな?」

「はっ、なんて安い挑発……けど、たしかにその通りね。私にも精霊の支援が入っているのは……いっしょにやりたいってことね」

「…………それは違うと思うけど」


 単純に、敵味方の判別を大雑把にしていたから対象に含まっているだけだと思う。
 俺も、そして雇った人手の方たちにもしっかりと支援が入っているし。


「それでもよ! 見てなさい、私たちのデュエット。これが初デビューよ!」


 そうして、彼女もまた祈念者や[ディザント]に影響を及ぼしていく。
 歌い、踊り、そして舞い──そのすべては少女と分かち合うために。



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