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山田 武

偽善者と砂漠の旅 その10



 仮想空間『サイバーワールド(β)』で特訓中の少女、彼女を残し俺は外へ出た。
 そして、スキルの熟練度を磨くべく、空間魔法の習得を目指し魔法陣を描いている。


「ふぅ、ようやく描けた。空間魔法は術式が複雑だから大変だよ」


 詠唱をすれば発動する魔法のシステムを用いないため、魔法陣そのものが大変だ。
 そのうえで、属性の選別などをするため描く量が多くなってしまう。

 これが自身の有している魔力属性ならば、選別が不要なので術式も簡単なのだが。
 スキルを持っていると、スキルの補正で選別をしてもらえるぞ。


「それじゃあ発動──『空間座標ポイント』」


 座標を正確に特定することができる、これ単体ではあまり意味の無い魔法だ。
 実際には、これを他の空間魔法と組み合わせることが必要となる。

 だが、これ単体でも空間魔法の熟練度稼ぎにはちょうど良い。
 描いた魔法陣は複写スキルで増やし、何度も何度も発動させていく。

 それでも、空間魔法は習得難易度の高い魔法だからか、まったく習得できない。
 代わりに空間把握や魔力選別スキルなど、別のスキルを習得していた。


「うーん、どうしようかなー。ちょっと、難しいけど頑張ってみようっと」


 現在行っている動きを、一連の流れとして作業スキルで識別&記憶し、並列行動スキルで自動処理させる。

 そして、分割したことで空いた思考で新たに行うのは、新しい空間魔法の魔法陣化。
 一つでダメなら二つ、それでもダメなら更に増やしていくつもりだ。


「これも完成かな? ──『空間把握グラスプ』」


 ちょうどスキルとして習得できたもの、その魔法版を起動。
 差異がある二つの空間把握が周囲の情報を掴み、俺の脳に負荷を掛けていく。

 もちろん、二つ分の魔法を使ったとしてもすぐに空間魔法は習得できない。
 このまましばらく粘ろうと思ったが……脳裏に何者かの反応が収まった。


「むむっ、身力探知……は燃費が悪いし、今は──“魔力探知”」


 幸いにして、今の俺は空間魔法を複数展開している。
 それらを応用し、必要な箇所だけに微弱な探知の波動を送り込む。

 結果、武装した祈念者がこの近辺を徘徊していることが発覚。
 魔力を掴めるような強力な装備、つまりは戦闘時ガチの恰好で俺を追っているわけだな。

 斥候職は居ないようなので、逆探知は警戒しなくても良い……ということでもない。
 対処すれば一環の終わり、その方法すら考えなければならなかった。


『!!』

「みんな……でもごめんね、今回探している人たちは僕が精霊使いだって分かっているみたいだから。君たちが居ると、僕が居るかもしれないって思っちゃうから」


 まあ、アンユが一仕事した時にそれを捉えていた者が居たのかもしれない。
 そしてその情報は『舞姫』に伝わり、祈念者たちへも伝えられた。

 まだ戻るわけにはいかない。
 少女の現状を確認したところ、俺の望む成長まであと少しというところまで来ていた。


「意外と早かったねぇ……成長、やっぱり才能があるんだね、羨ましいなー」

『?』

「ううん、何でもない。それより、少しだけ手伝ってくれるかな? いいことを思いついたんだ」

『!』


 精霊たちに術式のイメージ、そして発動のタイミングを伝えて散開してもらう。
 それとほぼ同時、その動きを捉えた祈念者が叫びを上げる。


「居たぞ、ここに精霊使いの少年だ!」

「うわっ、不味……」

「何としてもここで捕まえるんだ、報酬は俺たちが手に入れる!」

「一つ目──エアル、“伝風ウィスパー”」


 風の下級精霊となったエアルにより、先ほどの声が街中に響き渡った。
 すぐに発生源を特定した祈念者たちが、この場に集まってくることだろう。


「二つ目──アクス、“雨降レイン”」

『!』

「三つ目──アイア、“封熱煙突アイスチムニー”」

『♪』


 重ねて、砂漠の上に突如立ち込める暗雲。
 そこからポツポツと降り注ぎだした雨に、住民たちが歓喜の声を上げる。

 彼らの無自覚な妨害により、集まってきていた祈念者たちは道を通ることができない。
 そして、屋根の上を登ろうとしていた者たちも──突然生えた氷の煙突に驚き止まる。

 周囲の熱を吸収し、煙を噴き出すという不思議な煙突。
 これにより、砂漠の熱をグングン奪い煙がこの場を覆っていく。

 ひと際高い建物の上でそれを眺めていた俺は、一人この状況に笑みを浮かべる。
 時間稼ぎは充分に出来た、ついでにこの状況なら空間魔法の練習にちょうど良い。


「ふふっ、これで良し。あとはこのまま逃げ切るだけ──」

「──逃がすわけないでしょ?」

「っ……!?」


 危機感知、そして天啓スキルが発動。
 指示に従い体を動かすと、つい先ほどまで頭部があった場所に剣閃が奔る。


「あっぶないなー。もう、今ので死んでたらどうしてたの?」

「蘇生薬を使ってあげるわ、もちろん全身を拘束した後でね」

「……お姉さんが『舞姫』、で間違いないよね? というか、違ってたら嫌なんだけど」

「ええ。付け加えるなら、あの子の姉でもあるわ──どこに居るか早く教えるなら、四肢切断だけで許してあげるわ」


 腕と足を切り落とされて、いったいどこをどう許すというのだろうか。
 思念感知スキルが告げている、妹の心配をすると同時に俺を殺す気が満々だと。

 ……まだ時間が足りない。
 しかし、抵抗しようにもそれをするだけの実力が今の俺には備わっていなかった。


「あの時と違って、今回は助けてもらえるからいいよね?」

「何を言って……っ!」

「ニー、手伝って。守りたい相手が居る」

《ええ、それがマスターの望みならば》


 足の装備が切り替わり、灰色のレインブーツが装着される。
 その存在感に気付いたのか、『舞姫』の表情がこちらを警戒したものに。


「貴方……いったい何者?」

「うーん──シスコン嫌い、かな? 一方的な愛情の押し付けって、嫌われると思うよ」

「……殺す」


 雨が降る中、凄まじい速度で加速する。
 俺はただそれを、ジッと立ったまま見つめているだけ。



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