AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と砂漠の旅 その01


 S5W12 大砂海


 眷属たちによるシ刑執行を乗り越え、晴れて免罪となった俺。
 今頃、何をしているだろうか英霊たち……そう快く思えるぐらいにスッキリしていた。

 それもそのはず、なんせ昨日は幼女たちとお泊り会だったからな。
 パジャマパーティーのその光景は、俺の記憶の中に永久保存……ってキモイか。

 まあ、ともかく今の俺は心身ともに充実しているわけだな。
 それもそれで表現がアレなんだが、他に表しようがないので諦めよう。


「──それにしても熱いなぁ、みんなが居なかったら危なかったかもね」

『!』


 現在、俺は少年の姿である場所に居る。
 どこまでも続く果てしない砂漠、メタ的なことを言ってしまうと周囲九つのフィールドが同じく砂状なエリアだ。

 かつて、キメラ云々でチャルがここを訪れたが、今回は縛りの旅でここに来ている。
 そのお供は契約を交わした微精霊たち、そして──


『♪』

「うん、ディーもよろしくね」


 頼れるスライムの元ユニーク種。
 かつて『進退流転[ディヴァース]』だった個体を呼び出す、遺製具『流転呼珠』を媒介に召喚されたいわゆる従魔ディーだ。

 強力過ぎる遺製具、その代償はパーティー枠の使用禁止。
 そのため、ソロで活動しているのだが……精霊はその枠外で呼び出せるので問題ない。

 ただし、微精霊と言えども魔力で構築された存在を呼び続けるのは一苦労。
 そのうえ、ディーを呼んだ代わりに魔力の総量を半減されたが……そちらも対応済み。

 常時『無吸』と魔力回復系スキルを発動することで、回復量が維持費を上回っている。
 加えて、ディーが『恒癒粘体リジェネレートスライム』という自然回復力を高める魔物になっていた。

 希少過ぎて絶滅したとされる種だが、迷宮経由で因子を獲得し、進化できるように経験値を振っておいたのだ。


「うーん、やっぱり暑い。というか、熱いでもいい気がしてきた」


 気温的な問題は、暑耐性でもどうにかなるのだが……熱気によって温められた砂への対処は、そちらではなく熱耐性や火耐性などが担当となる。

 本来ならそうはならない。
 だが、ここではそんな理不尽が成り立っている──それこそが、理となっている。

 それこそが、このフィールド──天然迷宮である『大砂海』の特徴だからだ。
 暑い、そして熱い環境だからこそ、広大なこの地を他国に奪われないでいる。


「目指すは陽炎都市、行き場の無い者たちが集まる果ての地。そして、金さえあればどんな物でも手に入る……Z商店の自由大陸支社がある場所なんだよね」


 だからだろうか、陽炎都市ではあらゆるアイテムが手に入るとされている。
 始まりは間違いなく彼の商店だろうが、今では大陸中に広まるほどの知られぶりだ。

 街自体が、そうして多くのアイテムを集められる仕組みを構築できたのだろう。
 周りの環境はともかく、祈念者たちが集まるような場所になっている。


「まっ、とりあえずそこに辿り着かないといけないんだけど……どこにあるんだろうね」

『?』

「陽炎都市、陽炎が発生する都市って意味もあるんだけど……それ以上に、陽炎の中に入らないと都市に行けないんだよ。虚像であるはずの陽炎こそ、本物に繋がる……これも迷宮だからなんだろうね」


 都市が発生……という表現もおかしいが、入場できるのは中央だけだ。
 今は外苑に居るので、まずはそちらへ向かう必要がある。


「うん、精霊のみんな、力を貸してね」

『!』

「それじゃあ……うん、エアルにお願いしようかな──“風歩行ウィンドウォーク”」

『!!』


 風の微精霊に魔力、そして魔法構築に必要なイメージを渡して発動してもらう。
 自身で行使するよりも、適性が高い精霊に使ってもらう方が性能が高くなる。

 この時、魔力を渡して口頭で指示をするだけでも、まあ発動自体は可能だ。
 しかし、そこに人が使う制御術式を加えることで、より効率的な発動が可能になる。

 俺が足を一歩前に踏み出すと、熱気により生み出されている風を捉え──踏み込む。
 そのまま一歩ずつ前に進んでいけば、あっという間に空を歩いていた。

 宙に足場を生み出す魔法やスキルと違い、すでにあるモノを使っているので燃費が良いのだ……見栄を張ってはいるが、相殺しているだけでそこまで余裕は無いからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 大砂海の魔物は、基本的に砂漠を渡る者を感知して襲い掛かって来る。
 そのため、上空を悠々と闊歩する俺は彼らの包囲網に引っ掛かりづらい。

 空を飛ぶ魔物やそれを狙う魔物には見つかるが、少なくとも砂の上を歩く震動で感知する魔物などからは、襲われなくて済む……一番厄介なのは、そういう系統だからな。


「砂漠と言えば、やっぱりワーム系が定番かな? こう、ビョーンッて飛び出して襲い掛かって来るんだ」

『!』

「あはは、危ないって? うん、だからこうして歩いているんだよ。チャルがね、魔獣個体をここで見つけているんだ。だからこうして、警戒しているんだよ」


 魔獣は知性を持つことができてもなお、獣であることを選んだ魔の存在。
 彼らが自らその選択をしたのであれば、俺が偽善としてすべきことも無いだろう。

 この砂漠に居るであろう個体に関しては、祈念者に任せておく。
 それ関連の[クエスト]もあるだろうし、自由民との関係性も良くなるはずだからな。



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