AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と現な夢 その11



 リリム……否、リリーにはリリーなりに悩みがあるようで。
 だからこそ、リフィリングから話を聞いていた俺にそれを打ち明けてくれた。

 偽善者とは悩みに応える者。
 方法はともかく、偽善対象が望む結果を出すために支える決意が必要だ……そう思った矢先の話。


「一つ、確認させてほしい」

「あっ?」

「俺……どうしてここに居るんだ?」

「おいおい、記憶を失ったふりをして逃げようったってそうはいかねぇぞ。お前はあの女の連れで、俺様の邪魔をした。だからそれをするだけの資格があるのか、俺様直々に見てやろうってんじゃねぇか」


 とまあ、大まかに起きた事情を説明するのであればそんな感じだ。
 俺とリリーが街を歩いていたら、彼女の美貌に惹かれた男が居ただけの話。

 ……問題はそれがただの男ではなく、多くの夢魔を侍らせた存在だったこと。
 そして何より、かつては【好色英雄】として名を馳せた英霊だったことだ。

 そう、一度見かけた英霊に再び遭遇し、今度はバッチリとリリーを見られてしまった。
 かつての職業でお察しの通り、俺と専属契約していようとお構いなしのご様子。

 ……リリーは力を行使してどうにかしてくれようとしたが、そこは断っておいた。
 弱体化している俺ではあるが、それでも男としての意地を見せたかったからな。


「いいか、勝負内容は──ナンパだ」

「……はっ?」

「いいか? どっちがより男として魅力的なのか調べるには、これが好都合って……っておい、どこに行こうとしている!?」

「いや、女性を取り合っている……っていう表現も嫌だが、そんな状況でそれをやろうとするお前の頭が心配だ。悪いが、俺は彼女と居られればそれでいいんだ。この場で他の女性に手を出すつもりはない」


 ……眷属にこれ以上説教の理由を増やされるのも嫌なので、絶対に。
 そんな理由があっての発言だったが、神妙な顔で頷かれる。


「チッ、そういうタイプかお前は……まあいいや、じゃあ方法は選ばせてやるよ」

「……そもそも面倒だから、もう諦めてくれないか? あんまり言いたくはないが、もうたくさんの夢魔の方々が居るだろう?」

「ハッ、足りるわけないだろう。俺は死ぬ前百人の嫁が居た男だぞ! だから口説けるイイ女は全部口説く! 人だろうが夢魔だろうが関係ない! それが俺のポリシーだ!」

「知るか。これも本当に……どうしても言いたくは無かったが、他人に自分の都合を押し付けるなよな」


 うっ、心に刺さるブーメラン。
 眷属たちが居れば、絶対に『おまいう』と冷ややかな目を向けられる発言だ。

 しかしまあ、百人か……ある意味俺の先輩に相当するヤツだったらしい。
 ちゃんと『嫁』と称している辺りは、俺的に評価できると思うんだがな。


「はっきり言うぞ、俺は弱い。だから大抵の勝負は勝つ自信が無い。ついでに言うと口もそこまで回らんから、最初の勝負だって勝ち目が見えん。だから何もせず、このまま逃げたい……それが本音だ」

「そこまではっきり言うか、普通? だがその含みのある言い方、ちゃんと代案を考えてやがるな」

「どうせ俺が帰ったら、それはそれで彼女に迷惑を掛けるんだろう? だから、勝負自体は受けざるを得ない……一騎打ちだ、ただし代理の」

「あん? ……代理の?」


 これだけは使いたくなかった。
 だがまあ、話の流れで上手くいけばこちらとしても好都合……この場に居る全員、不思議そうにしているので説明を続けよう。


「リリーさん、外部から人を意図的に招くことはできるか?」

「は、はい。ただ、その呼びたい方が、熟睡している必要があります。そのため、睡眠を必要としない種族の方などは呼び出せませんが……大丈夫ですか?」

「ああ、それは問題ない──で、お互いに頼れる相手に戦ってもらう。それで決着をつければいいだろう」

「…………おいおい、こういうときに女に頼るってのはあんまりつまんねぇ選択だな。俺様だって、自分が欲深いことは分かってるんだぜ? だからこそ、俺様自身の選択でやっているんだぞ」


 聞けば聞くほど、普段の俺と振る舞いが似ているようで。
 だからこそ分かる、俺だって立場が違えば同じ選択をしていただろう。


「本当に困ったとき、頼ってこそ信頼関係があるってもんだ。少なくとも俺は、これ以外の提案をするつもりはない。嫌なら……じゃないな、自信が無いなら引いてくれよ」

「…………お前、本当に挑発するのが上手いな。才能あるぜ、扇動者のな」

「褒めてもらわなくて結構、じゃあ場所はあそこで──行くまでに準備は整える。そっちも決めておいてくれ」

「まさか、俺様がこんな勝負を受けることになるとはな……まあいいさ、俺様の女がどれだけイイ女なのか、教えてやるいい機会だ。楽しみにしてな、イイ女が勢揃いだ!」


 そう言って、夢魔たちを引き連れてヤツは闘技場へと向かう。
 残されたのは俺とリリーもまた、闘技場へ向かわねばならない。


「メルスさん……大丈夫ですか?」

「まあ、俺は何もしていないしな。それよりも、誰を呼ぶかだ……そもそも、来れるかどうか分からんし。さて、どうしたものか」


 うちの眷属、普段の俺と同じく睡眠不要スキルを使うことが多いし。
 何より、俺の状況が分からないということで寝ていない者も居るだろう。

 子供たちなら寝ているだろうが……うん、この勝負に招くのはちょっとな。
 とりあえず、呼び出せるかどうかだけの確認はしておかなければ。



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