AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と偽善魂魄 後篇
死者に大人気なアイの下を訪ね、いっしょに礼拝堂でお祈りをした。
これといった効果は無かったが、提案したニィナの勘を信じよう。
祈りを捧げ終えたアイに、俺はここを訪れた理由を説明した。
脆弱化した理由である“偽善魂魄”、そしてそれを使ったアルカとの戦いについて。
「……そうですか、そのようなことが。アルカさんという方も、メルス君と同じく逸脱した存在なのですね」
「俺がどうこうしていなくとも、いつかは辿り着いていただろうけどな。まあ、本気と言われたからにはそれに応えたかったんだ」
「なるほど、分かりました──では、メルス君はここに正座してください」
「…………はい」
頬を膨らませたアイは可愛い、そう思いつつも大人しく正座する。
ニィナは呆れたとばかりにこの場を離れ、設置されていた椅子でまったりするようだ。
淡々と、そして丁寧な口調で俺にお説教を行うアイ。
普段から、死者たちに似たようなことをしているのだろう……かなり身に染みる。
「眷属の皆さんの魂魄を、礼装という擬似的な器の中へ留めることで自身に上乗せすることができる……それが礼装の力でしたね。ですが今回、メルス君が用いた“偽善魂魄”は似て非なるもの」
「…………」
「自らの魂魄を纏う、たしかにそういった技術はございます。ただしそれは、限られた種族に伝わる秘儀のようなもの……少なくとも肉体を持つ種族が扱うものではありません」
「……まあ、だろうな」
礼装はアイの言う通り、眷属の魂魄を俺に定着させるために使うための物。
本来、俺とはまったく才覚が違う彼女たちの魂魄、その一片を借りるために必須だ。
まあ、後先のことを考えないで使うのであれば、直接宿すことも可能ではあるが。
……その代償は、“偽善魂魄”よりも重いものになるけども。
今回問題になっている魂魄を纏うという行為、それは創作物を参考にしたものだ。
そう、普通はやろうとはしない逸脱したもの、リスキーな技術とも言える。
「魂魄が表に出れば、その分だけスキルや魔法の性能は上がります。ですが無防備な魂魄が攻撃に晒されてしまい、傷つくことで精神や肉体に多大な影響を及ぼします。今のメルス君はまさにそんな状態ですよ」
「えっと、兄さんは大丈夫なの?」
「場合によっては、一生治せない傷となる場合もありますが……メルス君であれば、問題ないでしょう。それに、本当にダメそうであれば、私も手を施していましたよ」
「……あ、うん」
ニコリと笑うアイ、だがその目が笑っていないことに気づいたニィナ。
質問のために向けていた顔を、ツーっと別の方向へ逸らした。
「ともかく、しばらくは安静にしていた方が良いです。心身を癒すこと、それが魂魄の急速になることは間違いありませんので」
「……了解。やることが無いわけじゃないけど、そこは頼めばどうにかなるだろう。この状態、いつまで続くと思う?」
「そうですね──だいたい、一日ですね」
「……思ったより短いな」
てっきり数週間、悪くて数か月などと言われる覚悟で居たけども。
……それならそれで、ポーションやら魂魄に作用する魔法でも使おうと思ったけど。
「メルス君のことです、あまり時間を置こうとすれば強引にでも治そうとするでしょう。なので、一日反省しましたら私が処置をしようと思います」
「……へい」
「無茶は、いけませんよ?」
「──すみませんでした」
区切って告げるその言葉、そして笑顔の圧に負けて謝罪を述べる。
完全に行動を読まれていたな……うん、しばらくは封印だな。
「…………私のものをお使いになれば、問題なかったはずですよ」
聞こえてきた小さな声にはノーコメント。
アイの魂魄を借りた礼装だけでなく、眷属の礼装すべてが俺の“偽善魂魄”と違って特殊な力を秘めているからな。
純粋な性能の底上げではなく、彼女たちの才覚を間借りするようなもの。
今回、アルカが要求した『本気』とは違っていると判断していたからな。
なので眷属たちの魂魄ではなく、俺自身の魂魄を用いた。
……問題があろうとなかろうと、これまでの行い的に真摯に向き合いたかったから。
◆ □ ◆ □ ◆
明日、アイが治療してくれることがとりあえず決まった。
今日一日はこのまま安静にすれば、アイも許してくれるだろう。
話題は“偽善魂魄”からアルカのアバターに関する物へ。
どうやらこちらにも、アイは何やら物言いがあるらしい。
「メルスさん、たとえ<大罪>や<美徳>の力があろうとも、あまり過度の干渉はその者の身を滅ぼしてしまいます。それを努々、忘れてはいけませんよ?」
「……はい」
「事象の固定、あるいは定着。それに耐え得る力があると判断したのでしょう……ですがその認識が誤っていた場合、彼女は身に合わぬ衝動に晒され、内側から狂っていたのかもしれません──それこそ『侵蝕』のように」
祈念者の間でよく発生していた、固有スキルとの不適合から起きた『侵蝕』現象。
アルカの【源魔】モードは、最悪それを引き起こす余地があったらしい。
「……アルカなら、イケると思ったんだ」
「お二人の間柄を知りませんので、そう考えるに至るメルス君の判断は分かりかねます。客観的事実として、メルス君が彼女を危険に晒したことだけは確かです……これも反してしてください、めっですよ?」
「……本当、すみませんでした」
ここに来てから、頭を下げてばっかりだ。
だが全部、自分の行いによるもの……いろいろと考え直さないとな──まあもちろん、偽善を大前提にする意志は変わらんけども。
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