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山田 武

偽善者と憤怒の赤 前篇



 第三世界 迷宮『闘王技場』


 GM03ことアオイに、彼女たちへ依頼しているアバター作りの近況を尋ねた。
 まだまだ改善の余地ありと報告を聞いた後は、まったりとティータイムを過ごす。

 ──なんてことをしていたのが、つい先刻だったというのに。


「くっ、どうしてこんなことに……」

「──どうしてこんなことに? はっ、自業自得以外の何物でもないじゃない。大人しく白状すれば、死にかけで勘弁してあげるわ」

「半殺しどころか九割ぐらい殺されるっていうのに、抗わないわけ無いだろう!」

「だから、その抗いそのものが無駄ってことが分からないのかしら? ──責任、取りなさいよね」


 赤、吸血鬼の血のような赤ではなく、燃え盛る炎のような赤。
 それは彼女──アルカが宿す激情が、それほどまでに苛烈であることを物語っている。

 世界にただ一つ、さまざまな条件で無限に進化する特別な杖を握り締めた彼女は、その【憤怒】を知らしめんとばかりに無数の魔法で俺を殺そうとしていた。

 ──だが、この場に居るのは俺と彼女だけでは無い。
 むしろ、他の者が居るからこそ俺の状況は危機的なものだった。


「あ、あの……!」

「ペルちゃんは悪くないよ……うん、これは師匠が悪いんだから」

「お兄ちゃん……」
「弁護はできないかしら」


 今回の事件(?)、の当事者はペルソナ。
 内容はちょうど今行っているアバターに関すること──まあ、その話をある理由で集めた祈念者眷属たちに話したのだ。

 呼んだ理由はともかく、話題はなんやかんやで流れての偶然。
 ……だが問題は、嘘を見抜く能力を持つユウが居たことだった。


「変態を断罪する、正当な行いよね?」

「待て待て、ノーカンノーカンだって! いきなりここに転移しやがって! ちくせう、なんで今日予約してるんだよ!」


 誰でも使えるようにしている闘王技場は、そのためいろいろと工夫をしている。
 その一つが予約システム、先に場所を確保しておけばのびのび使えるわけだ。

 ただし、ある程度俺の世界で使えるポイントが溜まっていないと無理だけども。
 ……アルカとユウは、うちの迷宮によく来るから荒稼ぎしているのだ。

 予約していると、その舞台に限り普段はできない外部からの直接転移が可能になる。
 油断していた俺は、アルカに他のメンバーと共に強制的にここへ連れ出されたのだ。


「こうなったら、“空間移ムー──ッ!?」

「『不可逆の一方通行』、わざわざ逃がすわけないでしょ? どうしても行きたいなら、まずは死ぬことね──『滅魔墜星』!」

「だから、死ぬのがお断りだって言っているだろうが──“新星命爆ビックバン”!」
《──“空間転送アスポーツ”》


 そうして現在、【憤怒】の『侵蝕』を意識して制御するチート娘を相手に、断罪から逃れるべく必死に頑張っている。

 事前にユウが『仲裁罪錠[メディカフ]』で俺を縛り、『アルカが満足するまで眷属を守らないといけない罪』とやらを俺に突きつけ、この場に居ることを強制していた。

 空から降ってくる隕石を、超新星爆発級の火力で強引に破壊。
 本来なら代償として死ぬはずだが、その爆発のみを上手く隕石に逸らしてみた。


「……チッ、死を前提とした魔法でやり過ごせたと思ったのに」

「さすがは禁忌魔法と言ったところかしら。いつかは私自身の手で生み出してみせるわ」

「それ、代償次第じゃ死ぬからな? あんまり無茶はしない方がいいぞ」


 うちには魔法の創造をスキルとして可能とする武具っ娘が居るので、そのメリットとデメリットがよく分かっているつもりだ。

 アルカは【賢者】の職業能力でオリジナル魔法を開発しているが、どちらも根本的な部分は同じ。

 特に、グーの担当する分野はまさに話題となっている禁忌魔法の創造。
 だからこそ、彼女自身から開発の苦労話を聴いていた俺はアルカへ忠言する。


「あら、心配してくれるの? お生憎様、私は──」

「当たり前だろ? まあアレだ、口ではいろいろと言うけど、なんだかんだ結構な長い付き合いだしな。努力しているのも分かっているからこそ、危ないことはなるべく避けてもらいたいんだよ」

「ッ……、…………」

「死なれても困る……みたいなのは祈念者に言ってもしょうがないか。でも、禁忌魔法の計画はきちんとな。最悪、グーにアドバイスしてもらうよう頼んで……っておーい、なんで後ろ向いて──とわっ!?」


 いつの間にか顔を逸らしていた彼女、だが話しかけた瞬間に思考詠唱で展開したと思われる大量の魔法が降り注いだ。


「……ねぇ、今のって素かな?」
「どうかしら……アレだけ集めているんだから、違うかもしれないわよ」

「ねえ、ペルお姉ちゃん、どうしてアルカお姉ちゃんは顔も赤いのかな?」
「…………な、なんでだろうねぇ」


 なんて会話が耳に入ってきた。
 それはアルカも同じなのだろう、先ほどとは比べ物にならない量の魔法が今度は彼女たちに向けられる。


「ちょ、お前ら黙っててぇええええええ──“次元固定フィックス”!」


 罪状的に、絶対に守らなければならないので次元魔法で彼女たちの前面に壁を構築してどうにか魔法を防ぐ。

 猛烈な魔法が土煙を生み、舞台のいっさいが誰からも見えなくなる。
 ──アルカはそんな中で、俺の下へ接近していた。



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