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山田 武

偽善者と供血狩り その18



 帝国軍を追い込んだら、皇帝陛下が残ったペフリの血をナニカに打ち込んだ。
 懐に納められていたソレは、血を取り込み激しく脈打っている。

 最初に見た際、それは仕舞えるほどに圧縮された球体の形をしていた。
 だが今はどうだろう、彼の手元を離れだんだんと歪な形で膨らんでいる。


「ねぇ、コーテーヘーカ……それは?」

「かつて、この国で研究されていた怪物……その種だ。代々引き継いできたものだが、俺には不要なものでな。こういったときに、処分しておこうと思う」

「! お前……!」

「どうした、口調が変わっているぞ。過去の残骸と足を引っ張る厄介物、同時に使い捨てるいい機会だ──どうやら、アタリを引き出せたようだ」


 ソレが何なのか、今の俺には理解することができない。
 だがペフリの血を取り込み、少しずつ人の形になろうとするソレが危険だと分かった。

 同時に、その頭上にノイズのような物が生まれたかと思うと、俺やメィが認識できる形で文字が表記されていく……こちらの世界のモノで、そんな仕様なのはただ一つ。


「──血魅、冐……霊?」

「『血魅冐霊[ペウラヌ]』……どこからどう見ても、固有種になっているよね」

「大変惜しいところではあるが、それは貴様らにくれてやろう。ある程度法則は理解できた、後はどうとでもなるだろう──『空刃』よ、やれ」

「待て!」


 傍に居た最後の騎士が、その刃を振るう。
 するとその先に生まれる空間の裂け目──ティルの“渡取ワタリドリ”のように、空間移動を行える力を有しているようだ。

 叫んではみたものの、今から追いかけようと届かないことは分かっている。
 それでも諦めたくない俺は、十字架を横に持ち替えた。


「なら、これで!」

「──無駄なことを」


 今までこの場では用いていなかった、銃としての十字架の運用。
 だがそれは、あっさりと『空刃』と呼ばれた騎士に防がれた。

 そして再び刃が振るわれると、俺たちと新たに生まれた[ペウラヌ]以外のすべてが裂け目に呑まれ──この場から消える。


「……メル、どうする?」


 彼女的に、いくら何でも固有種にたった二人で挑むのは危険だと思ったのだろう。
 いちおうでも今の雇用主は俺、判断を仰いだわけだな。


「うーん、正直このまま野放しにすれば、それだけでこの国に被害は及ぼせるんだけど。それはさすがに、事件に関係のない人たちが被害を受け過ぎるからね……癪だけど、倒すしかないか──メィお姉ちゃんが!」

「…………はっ?」


 だが、俺の考えはまったく別にあった。
 今の俺は超スペック、縛りさえ緩めればありとあらゆることが可能だ……戦闘中に情報の解析さえすれば、再現もできるしな。

 なので今後のことも考え、メィの強化を図ることにした。
 特典は必ず彼女にアジャストするし、手に入れておいて困ることは無いだろう。

 まだ肉体の構築が完璧ではないようで、時間はそれなりにある。
 メィをしっかりと説得して、やる気を出してもらわねば。


「……正気?」

「だいぶ変質したから、使われた分の血はもう作れるようになったと思うし。私がアレに求めるものって、もう何もないんだよね。だから、今回の報酬はアレってことで……どうかな?」

「メル、普通は倒せないよ?」

「普通じゃないからね。うん、非常識なのは理解している……でも、そもそも固有種を倒すってこと自体、非常識じゃない?」


 過去、祈念者が訪れる前は、それを単独で行えるのは『超越者』だけだった。
 今は死に戻り前提、そして高レベルの祈念者によってそれなりの頻度で成されている。

 つまり自由民でそれを行う者など、そんな状況に追い込まれた者のみ。
 文字通り、生きるか死ぬかの命懸けの挑戦となっていた。

 だが、メィは一人ではない。
 あらゆることができる力を、回復やその他の支援にのみ集中させる予定の俺が居るのだから、失敗をする方が困難だろう。


「それに、メィお姉ちゃんには力が必ず必要になるんでしょ? なら、遅いか早いかの問題だよ。私が居るうちに、手に入れて慣らした方がいいんじゃない?」

「…………ハァ、雇い主の命令だから仕方がない」

「うんうん、それでいいよ♪ それじゃあ、私はあんまり活躍しないように調整しながら支援するから、メィお姉ちゃんは自由にやりたいように動いて。何か要望があれば、すぐに手伝うよ」


 特典を得られるのは、基本的に一人だけ。
 俺が手に入れる意味はまったく無いので、その権利がメィに行くよう、振る舞いを調整しなければならない。

 AFOは後方の支援職にも優しく、貢献していれば彼らが選ばれる場合もある。
 単に一番ダメージを与えた、というだけで判断されないのが裏目に出ていた。

 なので俺が魔法で殺すのは論外だし、物凄い支援を施す……というのもアウトだ。
 あくまでもメィを主力とし、[ペウラヌ]の討伐をしなければいけない。


「とりあえず、縛りをもう少し緩めにしておいて──“恒常治癒リジェネレート”、“持久不疲タフネス”っと。これぐらいなら、まだ大丈夫だと思うよ。それじゃあ、頑張ってみよう♪」


 たった二人での固有種討伐。
 今回の騒動における最後の戦いが、幕を開くのだった。



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