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山田 武

偽善者と供血狩り その16



 ようやく解禁した経典の力。
 そして、畳みかけるように使った聖魔法の力もあって吸血鬼化した者たちから集めたペフリの血も八割弱となった。

 後ろで聖職者らしく十字架を握り締め、状況を把握する。
 こちらの損耗はほとんどなく、対する帝国軍(仮)は皇帝陛下と騎士&貴族で十一人。

 皇帝陛下を守るように二人、そして八人の騎士&貴族が点在している。
 メィはブラッドポーションのお陰で、身力的にもコンディション的にもまだ大丈夫。

 なお、残された吸血鬼化した者たちの数はおそらく五人。
 先ほどから行っている聖属性の魔法に、彼らだけが過敏に反応しているからだ。


「ふんふんふ~ん♪ クッソ雑魚~、おっ兄さん~♪」


 適当な歌詞を交えて奏でるのは、魔を滅するための歌──“聖歌”。
 本来の仕様ではなく、聖気で『魔言』を行うことで代用しているパチモンである。

 だがチートスペックな体とチートアイテムの相乗効果もあり、そんな誰からも受け入れられないような歌であっても、吸血鬼化した者たちにとっては効果覿面。

 更なる聖属性による退魔の力が、彼らを蝕み立つことすら危うくする。
 帝国の自由民は総じてレベルも高いが、だからと言って決して無敵ではない。

 このままじわじわと嬲っていけば、安定して勝てただろうが……そうはさせてくれないのが世の常である。


「『立て、親愛なる帝国民よ。あらゆる逆境に耐え、その内に秘めた牙を突き立てよ』」

『ハッ!』

「……って、うわぁ。最悪だね」

「……数が足りない」


 皇帝の権限によって、命令が下される。
 先ほどまで苦しそうだった吸血鬼化した者たちも、今ではすっかり敵意剥き出しでこちらを睨んでいた。

 だが、問題はそれだけではない。
 対象となったのは帝国民、つまり騎士や貴族だけではない……この場に居るすべての帝国の民が、無理やり立ち上がらされたのだ。

 彼らは虚ろな意識の中、刷り込まれた命令のために動く駒となった。
 そういう使い方も想定されるからこそ、命令権には数が制限されていたのだ。


「ふむふむ、そっちがそう来るなら私たちもこうするよ──“認識錯乱コンフュージョン”」
《──“血幻ブラッドイリュージョン”》

「血の幻」


 鼻歌で“聖歌”は維持したまま、並列した思考で行う魔法の展開。
 メィには血を媒介にした幻覚を展開してもらい、俺は十字架を黒く染めて魔法を発動。

 その結果、動き出していた帝国民たちは周囲の者たちと取っ組み合いを始める。
 命令の回数をケチってくれたお陰で、できたことだな。

 やり方は簡単、具体的な攻撃対象が無かったので“認識錯乱”でそこを捏造。
 適当な像を“血幻”で見せれば、彼らは幻影に対して攻撃を行うわけだ。

 一先ず対処できたが、元より立ち上がっていた騎士や貴族には通じていない。
 彼らは純粋にバフが施され、耐性なども強化されているからな。


「だからここからは、一気に仕掛けていこうかな──“神聖槍ディバインランス”!」
《──“無限血鎖ディ・エヌ・エー”、“染血ブラッドダイ”》

「血の鎖」


 十字架は白へ、そして放つのはより聖性を高めた無数の槍。
 同時にメィが発動したように見せかけ、どこまでも伸びる血の鎖を展開する。

 膂力や優れた武器で対応しようとするが、鎖は触れた途端に血の粉を散らす。
 気づいた時にはもう遅い、同時に仕込んでおいた“染血”の効果が発揮される。


「これは……毒か!」

「ちょっと違うけど、まあ似たようなものだからギリギリ正解ってことで。特別な物だから、たとえ万能薬を飲んだところで治らないと思うよ」

「……チッ、本当か」


 血の中に大量の一酸化炭素を混ぜ、体内に染み渡らせるという悪辣なやり口。
 吸血鬼化した者たちの場合、これが通常以上に効いてしまう。

 実際、前に出ていた八人中五人が完全に動けなくなった。
 どうにか下がらせようにも、自分たちも身動きが取れない。

 なので再び[血涙]を構え、彼らから血を奪い戦闘不能状態にしようとする。


「『絞り出──」

「『虚刃』よ」

「させっ──!?」

「命に従い、阻止させてもらおうか」


 だがそれを阻むように、後ろで皇帝陛下の傍に控えていた一人が動き出す。
 メィを弾き、血の人形たちを一蹴して、無数に伸びていた[血涙]の切っ先を弾いた。

 その間にスキルでも使ったのか、どうにか立ち直った者たちが後方へ。
 吸血鬼化した者たちも同時に連れていったため、吸血はあえなく失敗に終わる。


「ふーん、やってくれたねお兄さん」

「それが命であるからな」

「そっか、じゃあ仕方ないね……正々堂々、ここからはやらせてもらうよ♪」

「ほう、修道女なのは見かけだけか」


 十字架の持ち手を変え、先端から光の刃を生み出す。
 武技はいっさい使えないのだが、今だからこそできることもある。


「──“強化ビルドアップ”、“祝福ブレッシング”、“速度強化スピードアップ”、“闘争ファイティング”、“活力バイタライズ”、“神祈伊吹ディバインブレス”」

「ふむ、聖職者らしい選択だ。今まではなぜ使わずにいた?」

「うーん、まあなんとなく? その方がいいかなって──“快復点光リペアライト”、“聖光周癒エクストラリペア”」


 聖属性の支援魔法を施したうえ、【聖者】が扱う固有魔法、快復系統の魔法で自分を常駐的に癒す。

 普段なら肉体破壊レベルで暴れ、それを癒すというやり方に用いているが……今回は特別、万全のスペックを有効的に使うための補助としてこれらを利用する。


「名を名乗るか?」

「ううん、いいよ。私はあくまで悪者、正義の騎士さんは名乗る価値を見出せない……そういうことでいいでしょ」

「相対する場所が違えば、名乗ることもあっただろうに……『虚刃』、この二つ名を覚えて眠るが良い」


 そして、俺たちはぶつかり合う。
 一太刀目──俺の腕は宙を舞った。



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