AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と供血狩り その07



 先んじて帝城へ潜入していたメィと、連絡がついた。
 なんだかんだ、妖女姿になっていた俺は彼女とお互いに得た情報を報告し合う。


『──以上。今は楽団に紛れて、血の保持者の動向を窺っている。使い魔は使っていないけど、使う方が良い?』

「判断はそっちに任せるよ。感知能力が高い人は、たぶん気づく可能性もあるだろうし。その辺のリスクについて、それを考えるのは私じゃなくてメィでしょう?」

『……。なら、陽動をお願いする』

「むむむ……うーん、いいかな? うん、いいことを思いついたよ」


 なんだろう、分体のはずのメィがとても嫌そうな顔を浮かべた気がする。
 しかし提案をしたのは彼女から、だからだろうかかなり悩んでいた。

 実際、俺も声を掛けられずとも彼女の分体に気づいたし、実力者であれば可能である。
 スキル無しだと少々難しいかもしれない、それでも不可能というわけじゃないのだ。


『……私のせいで、被害が』

「なんか酷いこと考えてない?」

『それを考えているのはメルの方』

「むー。そこまで言うなんて酷いよ──けどまあ、否定はしないけどね」


 必要であれば容赦なく殺る。
 それが俺のスタンスだし、今回は必要な割り切りだろう。

 なんせ祈念者たちが混ざっている。
 彼らとの戦いで躊躇えば、死ぬことも覚悟した特攻──『KAMIKAZE』を容赦なく行ってくるからだ。

 死を恐れない蛮勇であり愚行、だが彼らが行えば結果的に英断となるだろう。
 また、再生力の高い吸血鬼も今回は混ざっているからな、迷えばこちらが殺される。


「じゃあ、陽動は私に任せてね。それなりに時間は稼げるだろうから、メィはその間に行動するってことで。あっ、内容は知らない方がいいから教えないよ」

『どうして?』

「勘の鋭い人が、メィの動きを把握しているかもしれないからだよ。知っていると、私が行動したときに驚けないから、教えておかない方がいいかなって」

『……なるほど』


 それこそ、希少な虚偽感知に似た技能が使える者が居るかもしれない。
 スキルなら問われない限りバレないが、それが感性によるものならば厄介だ。

 探偵シェリンのように観察に基づいたものならば、行動の機微からそれを見抜く。
 そして、周囲には捕縛を可能とする実力者たち……うん、逃亡は難しいだろうな。


「それじゃあ、すぐに始めるよ。メィは周囲の反応に合わせてね」

『ん、了解』


 連絡を終えると、彼女の分体は俺の影へと沈んでいく。
 必要に応じて、俺の近況を把握することができるはずだ。


「じゃあ、始めようか──“祝絶禍界アンチブレス”」


 黒く染まった十字架を握り締め、帝城中へ届くように祈りを捧げる。
 その効果は加護の停止、それは実力者にこそ通用する弱体化の魔法。

 結びつきの強い祈念者の[メニュー]や、運営神とつるんでいる皇帝の祝福などには通用しないだろう……だがそれ以外、中途半端な目印程度であれば恩恵を無効化できる。


「目立つ魔法だから、発生源である私の居場所はすぐに分かる……ふふふっ、そろそろ再起動かな──“神聖武具ディバインウェポン”」


 十字架の色を再び黒から白に切り替え、祈りを捧げながら魔法を発動。
 淡い光が空から降り注ぐと、十字架が神々しい力を纏う。

 それは簡易神器化を可能にする魔法。
 絶対に壊れない……のはさすがに無理だけども、神器ということで属性などの相性勝負であれば圧倒できるようになる。

 実力者どもは、基本的にそれに見合うだけの装備を持っているからな。
 入り口で会った【亡殉之盾】も、かなり性能の高い盾を装備していた。


「おっ、来た来た……はーい、皆さーん! さっきの黒い波動はここから出たよー!」

「女の子……いや、ロリババアか?」

「ぶっぶー、不正解! もう、私はそんなに御歳は召して無いんだからね!」

「あ、ああ……それは悪いことを「──あ、あぁああああ!!」ど、どうした!?」


 叫んだのは俺ではなく、話しかけてきた側に居た祈念者。
 どうやら原因追及のため派遣され、俺を調べようとしていたらしいが……哀れな。

 圧倒的実力差、そして眷属の過保護。
 それらによって鑑定や解析などのスキルは通用せず、逆に仕掛けた代償を支払わされることになる。

 悲鳴を上げたその者は、白目を剥いて気絶してしまった。
 しばらくはそのままだろう……俺がその原因と決めつけた彼らは、武器を構えた。


「おい、いったい何をした!?」

「鑑定したら、魔物でもヘイト値が高くなるよね? 要はそれと同じ。不快な視線を感じたから、少しだけ分からせたんだよ」

「わ、分からせた……?」

「そうそう──クソ雑魚おにーさんにも分かるように教えてあげると、呪いみたいなものだよ。強くも無いのに、私の秘密を暴こうとするのが悪いんだよ、ザーコザーコ♪」


 俺の姿は妖女だが、魂魄偽装がさらに異なる姿に認識を歪めている。
 だからだろう、彼らにとって今の俺はとても生意気なガキに見えているに違いない。

 ぶつぶつと「分からせてやる」とか言っているし、意図的に解放している畏怖嫌厭の邪縛も働いているに違いない……さて、分からされるのはどっちかな?



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