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山田 武

偽善者と供血狩り その04



 十字架使い(?)の縛りプレイで、帝城の警備をしていた祈念者を退けた。
 このことはすでに、帝城内部に報告が行っていることだろう……むしろ好都合だ。

 圧倒的な能力値レベルさが、いかなる相手であろうと純粋な力負けを許さない。
 あとはチートともいうべき固有能力に、どう対応していくだけか。

 そういった点も加味し、先んじてメィを派遣しているのだ。
 俺が暴れて彼女が血を回収する、そのために必要な物は事前に提供してある。


「……というわけだ。主の御名の下に……以下省略、とにかく全員寝てろ──“聖寧リポーズ”」


 俺を次に待ち構えていたのは、それなりに質の良い装備に身を包んだ自由民の兵士。
 一度死ねば確実な蘇生があるわけではない彼らを、俺は殺すつもりはない。

 十字架を握り締めて発動させたのは、聖なる光を以って安寧やすらぎを生み出す魔法。
 要するに対象を眠らせる……それなりに抵抗するが、やはり超スペックには敵わない。


「状態異常に対する耐性はそれなりにあるみたいだが、やっぱり無効レベルまで上げておいてもらわないとな」


 聖属性の魔法なので、単純なデバフと違い少々の浄化や微回復など隠れた恩恵がある。
 そのため睡眠耐性以外、たとえばデバフに対しての耐性などは機能しない。

 それが聖属性の厄介な点。
 魔物や魔族ならばそれを害あるものとして無意識で拒めるが、逆に人族……特に自由民はそれを受け入れてしまう。


「だからこそ、聖属性だろうとお構いなしに余計なモノは拒むお前らは面倒なんだよな」

「これは……全員寝ている、のか? 周囲を警戒しろ!」

「周囲って、おいおい。俺一人じゃできないから伏兵が居るとでも? 勘弁してくれよ、そういう的外れな台詞セリフ。もっとあるだろ、こう『貴様……何者だ!』とかさ」

「なら言ってやる、貴様……何者だ」


 低い声音で確かめてくる祈念者。
 情報は集めてあるので、相手が何者なのかこちらは分かっている。


「ハァ、分かってないな。敵に名を尋ねるときはまず自分から名乗るものだ、テンプレの台詞を返されるぞ。そう思わないか、クラン『専防共』のリーダーさん」

「……光栄なこった。お前みたいな強そうなヤツに、名前を覚えてもらえているとはな。そうだ、俺は──ぐっ」

「ぐっ、か? よろしくな、俺は……まあ名乗るわけないよな。守秘義務守秘義務っと」


 会話の途中で十字架の横側を握り、銃の要領で魔弾を射出する。
 わざわざ知っている情報を、いちいち確認するのも面倒だし。

 何よりせっかくの隙なのだ、突かない方が損ではなかろうか。
 彼のクランメンバーが俺を卑怯者だと罵る中、彼だけは悪態を吐かずに沈黙していた。


「お前らがどう言おうと、リーダーさんは分かっているみたいじゃねぇか。勝てばいいんだよ、勝てば。文句があるなら、それを言うだけの実力があることを証明してくれよ」


 それなりに力は持っているのだが、残念なことに『ようとう』は姿を現さない。
 ならばその程度なのだろう、俺も十字架を用いた縛りのみで彼らと戦おう。

 名前で分かると思うが、『専防共』はメンバー全員が防御を得意とするクランだ。
 ただし、その防御方法は十人十色、盾で防ぐ者も居れば武器や魔法で防ぐ者も居る。

 中でもリーダーはかなりの凄腕で、ありとあらゆる手段で味方にいっさいのダメージを通さない『守護者』と呼ばれているらしい。
 ……『選ばれし者』ではないけどな。


「じゃあ、まずは──“聖獣ホーリービースト”でテストしてやるよ!」


 先ほど同様に無数のバフを施し、一度倒しても蘇る厄介な魔法生命体を無数に創る。
 それを彼らへ解き放つと、さっそく防御しながらカウンターを行いだす。

 拳で弾いたり体で受け止めたり、魔道具を展開する者なども居た。
 そんな中彼らのリーダーは、換装スキルで出したと思われる大盾を地面に叩きつける。

 挑発的な効果があったのか、“聖獣”たちは彼の下へ……行くと見せかけ、そのまま途中で軌道を変えてメンバーを襲う。


「なっ……リーダーの“挑覆発破”が効かないなんて! くっ……がはっ!」

「……なあ、お前バカか? 世の中に絶対は無いし、俺は強いって言ったはずだよな? ならなんで突破される可能性を考えない、だからお前は対処できなかった」


 何人かはとっさに対応していたのだが、やはり絶対的な信頼とは裏を返せば隙となる。
 何をやったのかは簡単、魔法の操作を自動ではなく手動に切り替えたのだ。

 十字架という触媒がある以上、それも簡単に行える。
 思念を十字架が増幅し、魔力の線を通して聖獣たちを動かす。

 分かる人には分かる高等テクニック。
 一体だけならまだしも、四足歩行の獣の動きを完璧に再現し、戦闘まで可能にしているわけだからな。

 余らせた聖獣たちを実力者の排除に向かわせるが、強い者は強いからこそ残っているわけで……反撃の数は減ったものの、今なお健在である。

 そして、無視されたリーダー。
 あえて放置していたのだが、それを理解したのかついに動き出す。


「──“移痛転換”」


 それは彼の職業──【亡殉之盾】の能力。
 効果は味方と認識している存在が受ける、ダメージすべての置換。

 あくまでも、『彼』が反応しないのは、最近グルメになり過ぎて『選ばれし者』という極上の相手しか感知しないから……彼が居ると知れば、間違いなく力を振るっただろう。

 それだけの力をリーダーは有している。
 はてさて、ここからどうやって帝城へ向かえばよいのやら。



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