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山田 武

偽善者とデート撮影 その05



 第三世界 迷宮『天箱庭』


 そこは和風のイメージを基に構築した、俺の造った迷宮の中でもかなり特殊な場所。
 なぜならそこは、迷宮の中に複数の派生迷宮が存在しているからだ。

 太陽の紋章、月の紋章、そして嵐の紋章などが刻まれた祭壇に探索者は向かう。
 そこで祈りを捧げることで、派生迷宮へ入ることができる。


「まあ、それ以外のものにもしっかりと目を向けてもらいたいけどな。どうだ、良い景色だと思わないか?」

「──我が主よ、この光景が我が主の世界には広がっているのですか?」

「……ああ、いや。もう少し、近代化が進んでいるかな。けど、桜並木は今もあるぞ。桜が咲いたら眷属たちといっしょに、花見をしてみるのもいいかもしれないな」


 和風ということで、古都や江戸のイメージが混雑したなんちゃって和風な場所だ。
 だが一部は建築物を置かずに自然物にするなどして、風流を味わうことができる。

 そしてその中には、俺が現実で覚えている光景も含まれているわけで……。 
 彼女──リョクとそんな景色を眺めつつ、俺たちは祭壇へと向かっていた。


「ところでリョク、どうして着物なんだ? いや、似合ってるぞ。いつもの勇者っぽい格好もかっこいいけど、なんというか……妖艶みたいな感じで」

「そ、そうですか……先日、我が主がミントと共に井島へ向かった際、着物姿を褒めておりましたので……その、羨ましくて」

「うぐっ……か、可愛くもあるなおい」


 鬼灯柄の着物を身に纏っているの彼女なのだが、少々上の部分がはだけている。
 どう肌が出て……開けているかは、俺の感想からお察ししてもらいたい。

 そんな見た目とは裏腹に、リョクの着物を着ている理由とのギャップに萌えた。
 どうにかリセットされそうな想いをギリギリで留め、目的地へと急ぐ。


「ここだ、今日はこの先に行くんだ」

「どの紋章の場所でもない。我が主、この先には何が?」


 探索者たちが向かう三つの紋章が奉られた祭壇とは違い、そこにはただポツンと小さな賽銭箱が置かれているだけ。

 だがそこにこそ、この迷宮を築き上げた真なる目的が存在した。
 ここもまた、他の祭壇と同様に祈りを捧げることで派生迷宮へ向かうことができる。


「まあ、論より証拠だ。何でもいいから祈ってみてくれ、そうしたら先へ繋がる」

「な、何でもですか?」

「その願いが叶うかはともかくとして、神に祈りを報告するための場所だからな。誓いを立てるとでも思って、祈ってみればいい。願いは自分自身で叶えるものだからな」

「……分かりました」


 意を決した表情をするリョク。
 彼女のことだ、国民を想う何かを願ってくれているのかもしれない。

 あるいは……なんて思いつつ、その想像を掻き消して俺もまた真摯に祈る彼女の隣で、同じように手を合わせて眼を閉じる。

 すると、空間がぐにゃりと歪み──俺たちの姿はこの場から消え去った。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 派生迷宮──神宴迷宮『八百万』


 そこは何もない真っ新な空間。
 色という概念を持たず、物という概念が存在しない空虚な場所。

 だがそれは同時に、何もかもを受け入れる無地であり素地であることを意味する。
 神宴迷宮『八百万』、そこは神々を降臨させるための神域だった。


「こ、ここは……」

「神様が来れる場所、そう思ってくれればいい。今回ここに連れてきたのは……まあ、思い出作りの一環だな」

「神が……降臨なされるのですか?」

「おう。リオンの友神以外の運営神、それにクソ女神はシャットアウトしたあるが。他の神はだいたい来れるようにしてあるから、縁があれば降臨するはずだ」


 ただし、運営神にバレないよう細工しているため、闇雲に接続しようとしても決してここへは辿り着かないだろうけども。

 リオンやその友神、そしてカカ。
 それにGM姉妹たちには、ここへ降臨するための道標のようなものを渡してあるので、その気になれば来ることができるはずだ。

 神の降臨とはそれなりに条件が厳しく、場の準備やら降りるための器やらが必要になるので面倒極まりない。

 だが神域に認定された場所ならば、そういう前準備をほとんどせずに、神本来の姿で来ることができる……まあ、それを人族が見て耐えられるかどうかは別として。

 俺だけなら{感情}がどうとでもしてくれるだろうが、眷属は特定の人物を除き、やはり長時間は耐えられないだろう。


「実際の所、降臨できるからといって神がここに来ることはまだ無いだろうな。運営神のやらかしで、今は活動停止中の奴らがほとんどなわけだし。いちおう、もう一つのあてもあるんだけどな」

「我が主、そのあてとは?」

「地球の神様。だから迷宮も和風だし、祭壇経由で来れるようにしたんだ。でもまあ、それこそ来るための手段が無いから、そこは神殿の聖職者や異世界組に任せているぞ」


 転移者や転生者は、かなりの確率で元の世界から加護を授かっている。
 実際、アイリスやカナタ、それに赤色の世界に転移した姉弟もそうだった。

 時折何らかの形で祈ってもらい、その際に何か無いかを調べてもらっている。
 俺の持つ称号『神々の注目』からして、その行いが無意味でないことを証明していた。


「とまあ、そのうちここは神との交流の場になるわけだな。今はただの何もない場所、それこそ俺とお前だけの」

「……あ、あの!」

「皆まで言うな。ロマンもムードも何にもない場所だが、その分ストレートに想いを告げるにはちょうどいい……ここは神域だ、言うことも全部神に誓って本当だと言える」


 ……多少の覗きはあるかもしれないが、それはまあ今更な話。
 ここから、俺が攻める番……といきたかったのだが、リョクが詰め寄ってくる。


「願いは叶えるものではなく、己自身で叶えるもの。ここに来る前、我が主はそう申しておりましたね?

「ま、まあ、言った……な」

「我の願いは『我が主、メルス様と共に在り続ける』こと。ならば、その願いを成就させるためにも、我はいっそう努力を──!?」

「だから皆まで言うな。俺の願いは、『大切な者と共に在り続ける』こと。俺だって、その努力は欠かしていないと思うぞ?」


 そして、俺たちはお互いを見つめ合い──この先はそれこそ、会員かみのみぞ知るってな。



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