AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と東の南釧 その02



 今回、ミントと共に訪れた井島の南釧。
 こっそり自由大陸と貿易をしている場所なのだが……問題は東都の実験だ。

 かつて俺が訪れた際、東都の主が行っていた禁忌──死者の操作。
 死霊術師が闇魔法や瘴気を操るのと違い、その方法は死体を道具として動かすだけ。

 その道のプロであるネロによると、本来のアンデッドが持つ[ステータス]的恩恵にあやかることができないため、本来のアンデッドよりも壊れやすいようだ。

 だがその分、非常に簡単に用意できる。
 適性を持たずとも、紙を一枚持っているだけでできてしまう──“使屍”という符術が東都では開発されていた。

 主な目的は祈念者への対策。
 死んでも蘇る軍勢に対し、すでに死んでいる道具を酷使することで対抗する……倫理的にはアウトだが、仕方のない方法だった。


「──そういうこともあってな、いずれはその実験も発展する。ネロの見解は正しかっただろうが……いつだって人は、いい意味でも悪い意味でも歩み続ける生き物なんだ」

『そうなんだ……じゃ、じゃあ、すごく危ないんじゃないの?』

「ミントは優しいな……間違いなく危ないだろうが、それがいつになるのか分からないからこそ、今この時に来たんだ。何かあったそのときは、ミントに頼らせてもらうぞ」

『うん! パパは絶対、わたしが守るんだからね!』


 やはりうちの娘はマジ天使!
 それ以上はあっても、それ以下など決して存在しない。

 冗談抜きにしても、ミントの隙を突いて俺に致命傷を与えることは極めて難しい。
 眷属ならあるいは……といったところだろうが、それでも感知はされるだろうな。

 迷宮の守護者にして暗殺者、相手を見つけ出しそのうえで殺すという相反する行動を可能にしている彼女だからこそ、うちの眷属でも随一の感知能力を持っているのだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ここ南釧に集まっている、井島の品々を巡り調べていく。
 すでに三ヶ所+αを観ているが、そこの名産品などが混ざっている。

 中央であり、四つの島々を繋ぐ十字路型の迷宮『鎖刻の回廊』を有する獅剋こそ、本来一番品が集まるのだが……向こうには、迷宮産のアイテムが揃っているからな。

 その分、自由大陸と貿易を行っている南釧に集中しているようだ。
 ……こっそりと、向こう側の商品も混ぜられているようだし。


「……ん?」

『パパぁ、アレって……』

「まあ、そういうことだろうな」


 俺とミントが見つけたもの、それは道行く人々の足を止めて行われる──演説。
 内容は鎖国の解禁、自由大陸との貿易に関するものだった。

 片側には刀を、もう片方には銃……ではなく魔道具の杖を差した着物の男性。
 彼が声高々に主張する言葉に、人々は引き込まれていた。


『なんて言ってるのかな?』

「あー、ちょっと訛ってるからな。まあ要するにだ、今のままじゃ向こうの優れた技術に対抗できなくなるから、早いうちにそれらを知っておこう……みたいなことを言っているみたいだな」


 現代における鎖国は、たしか幕府が独占して貿易を行うとかなんとか……まあ、海外では革命なども行われていたし、政権を守るためのやり方だったのだろう。

 それを黒船来航で台無しにされたが、こちらの世界ではそういったことが無かった。
 ……アメリカ大陸に該当する場所が、そもそもあるのかどうかまだ不明だが。

 今回の鎖国、その決定的な理由は他でもない祈念者たち。
 死んでも蘇る連中が、この国に蔓延ったときに備えたのが東都の主の主張だ。

 四つの島の中で、東都がもっとも力を有している理由……いろいろとあるのだが、やはり一番強いのが最たる理由だろう。


「今はまだ、机上の空論だな。ただ声を出しているだけだ、実際に行動に移している東都のお偉い様の方がリードしているぞ」

『パパは……どっちの応援をするの?』

「んー、どっちもかな。本当に関わっていくのは祈念者だし、俺が偽善として手を出せば一気に問題は解決するだろうけど……それだとつまらないだろう? 何より、上の人の意見に流される人たちが大変だ」


 俺の偽善はそういう人々にこそ、行うべきものだ。
 屍を操る東都も、開国のために何かを準備している南釧も犠牲を是としている。

 どちらかに加担し、急速に進展させるとその煽りを受ける者が確実に現れてしまう。
 彼らを守るため、そして無関係な第三者にしないためにも、時間が必要なのだ。


「それにな、みんな祈念者が殺しても勝手に蘇る存在だってのは知っているんだ。そのうえでどう対応するのか、この国の人たちはそれを悩んでいる。なのに祈念者な俺が手を出したら、認識が変わっちゃうだろう」

『パパは受け入れてほしくないの?』

「俺が祈念者の代表というわけでも、責任を取れる存在でもないんだ。俺たちの評価を正当にしてもらうためにも、今は可能な限り見ているつもりだ……もちろん、何もしないわけじゃないけどな」

『パパぁ!』


 運営神が手を出す、あるいは悪意を持った祈念者が意図的に暴れるなど……そういうことをするなら、俺も偽善者として人々を守るためにこっそり干渉しよう。

 何もなければ、俺はただ島を巡っているだけの遊び人になれる。
 だがなんでだろう……いつもそれが果たされることは、全然無いんだよな。



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