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山田 武

偽善者と橙色の会談 その19



 聖光龍に告げた裏切り者の存在。
 無意識であろうとも、情報が漏れてしまえばこちらの陣営──つまり人族側が不利になるのは自明の理。

 そして、悪意を持って裏切る者よりも無自覚の裏切り者の方が厄介だ。
 こちらの世界での判別方法も使いづらく、それゆえ見つけるのに苦労するだろう。

 眷属が調べ上げた結果、俺たちが干渉をあまりしていない場所──つまり央都か花人族の華都に居ると推察されている。

 なお、山人族の方も疑っていたが、それはギーがサクッと調査を済ませてくれた。
 守護龍様こと聖光龍の復活で盛り上がっていたので、調べやすかったらしい。


「央都、そして華都リスラム。『橙王』、あるいは『聖女』。この中に、裏切り者が居るはずです』」

『むぅ……なんということであるか。どちらも平和な世であれば重要となる資格であるというのに。無意識とはいえ、裏切りを行ているとは』

「『聖女』は神の声を聴き、『橙王』は人魔関係なくすべての者たちを統制する存在でしたね。たしかに、平和な世であれば彼らの力は大変役立ったでしょうね……だからこそ、『花』も目を向けたのかもしれません」


 今の世界が必要とするのは、『花』と戦うために必要となる『勇者』や『魔王』だ。
 回復に必要な『聖女』や、すべての民へ同時に支持を行える『橙王』もたしかに凄い。

 だが、『花』との戦いに終わりをもたらす存在として、『勇者』と『魔王』は象徴的な面でも信じられているだろう……戦闘力という面で、強さを証明しているからな。

 それでも、世界が平和になれば『聖女』や『橙王』が大活躍だ。
 戦いで傷ついた人々は癒され、大地の復興作業も統制されて行われるだろう。

 そして何より、彼らは条件次第でその他の『選ばれし者』より堕としやすい。
 すでにその条件を『花』は満たしている、だからこそなんだろうな。


「聖光龍さん、一つご提案が」

『……なんであるか?』

「仮に無意識の裏切り者であれば、それを止めることができるはずです。そのためには、聖光龍さんの力が必要となります。どうか、お力添えを」

『うむ、そういうことならば。忌々しきあ奴らに一泡吹かせられるのであれば、私も全力で協力しようではないか!』


 まあ、今まで体を奪われていた人もとい龍だからな。
 俺たちはあることを話し合い、そして別々の場所へ再び向かう。

 ──すでにやるべきことは話した、あとはそれ通りに動けばいいだけだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「魔導解放──“深淵なる真焔”」


 あれから、俺は放火魔になっていた。
 傭兵の姿として採用した『造花[守式]』で身を包み、膨大な魔力を垂れ流しながら全力で魔導を放つ。

 魔導“深淵なる真焔”、それは根源すらも燃やし尽くす深にして神なる炎。
 何よりそれは、カカの火を模したもの──火への畏敬はカカへの畏敬となるだろう。


「ふははははっ、燃えろ燃えろ! この世界では合法です! だって、人様に迷惑を掛けるどころか感謝されるのですから!」


 ノリノリで火を広げ、地平線の彼方までその燎原を作り上げていく。
 魔花、そして『花』も抵抗しているが、神の炎を模した魔導が一瞬で燃やしていた。

 実際のところ、普通に火を放っても耐性を持っている『花』には無意味に等しい。
 優秀な魔術師が依頼で時々火を放つが、数日もすればまた生えてきてしまう。

 それほど再生力の高い連中なので、諦められているのだが……今回俺が火を放った場所は、今後一切植物が生える余地が無くなる。

 まあ、なのでこの世界で生きていくのであれば、放火だけで充分に食っていけるはず。
 ──が、俺の偽善がその程度で満たされるわけもないので、更なる火を広げていった。


「アン、状況は?」

《華都から見ても派手派手しく、広範囲が燃やされていますね。さすがはメルス様、放火魔としての素質があるのかもしれません》

「……これでも、多少は【傲慢】にならないと罪悪感とか湧くんだからな。まあ、後悔とかは全然無いけど」

《さすがはメルス様です。その調子で、可能な限り燃やしていってください》


 眷属たちが決めてくれたプランに従い、俺はただ暴れるだけでいい。
 そしてそれは華都から目に見えて映り、俺の傭兵団稼業の良い宣伝となる。

 これまで何をしても無駄だった『花』を、文字通り燃やし尽くすことができるのだ。
 その需要は計り知れない、これからさまざまな形でアプローチがあるだろう。

 ……まあ、その辺は眷属たちに何とか対応してもらうとしよう。
 できなくもないが、結局何らかの形で眷属にヘルプを求めるだろうからな。


「それで、容疑者たちの反応は?」

《共に好印象です。純粋に、『花』が減りつつある現状を受け入れていますね》

「どちらであっても、やはり無意識の裏切り者で間違いなかったか。まあ、それならそれで、やりようがあるからいいけど。炙り出しの方、頼んだぞ」

《畏まりました、メルス様もお気を付けくださいね》


 やり過ぎるとドン引きされるので、範囲はとりあえず央都と接続された華都群の下部辺りに留めている。

 どうせこれらの行動は、『花』たちに大々的に発覚していることだろう。
 そりゃあ知覚範囲が一瞬で減り、交信もできなくなるのだから分かりやすいはず。

 ──さぁ、場は整えたのだ、そろそろわかりやすい反応をしてくれよ。



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