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山田 武

偽善者と橙色の会談 その14



 少年──いや、タレインは選んだ、己が進むべき道を。
 たとえそれが『鍛冶師』に非ずとも、自分の進む先こそが『鍛冶師』であると信じて。


「──はい、これで施術完了です。君から植物加工のスキルは失われました」

「……たしかに、なんだか自分じゃないみたいです。こう、欠けているというか……」

「本来であれば、君という存在に決して欠かせないものですからね。そして、そこに今から別のものを埋め込んでいきます。慣れない感覚が続くでしょう……これが引き返す最後のチャンスですよ?」

「いえ、お願いします! 自分、決めたんです──普通の鍛冶もそうじゃない鍛冶も、両方やればいいんです! だからそのために必要なら、どんなことでもやります!」


 そう、タレインは『花』の加工から逃げたわけじゃなかった。
 植物加工と金属加工、双方をこなせるようになりたいと俺に告げたのだ。

 どんな選択であれ、俺はそれを叶えると決めていた……というわけでまずは金属加工をできるようにするため、性能が高過ぎる植物加工スキルをタレインから奪った。 

 先に植物加工から行わないのは、おそらく行った時点で『鍛冶師』としてタレインの未来が確定してしまうため……固有スキルの域に、才覚が達してしまうのだろう。


「タレイン、君はまず金属の……君が望むべき鍛冶をモノにしなければなりません。ですが、それは苦難の道となります。分かりやすいたとえをしましょう、君がこれから進むのは道ではありません──壁です」

「壁ですか?」

「そう、壁です。植物加工が整備された絨毯の道だとすれば、金属加工は本来想定していない進路、ゆえにそもそもとして侵入を許さぬように壁がそびえています。それを何とかするためには、荒療治が必要となります」


 それは俺にとっての、演技系スキルみたいなものだ。
 たとえ{感情}のスキル群の力を借りても、頂きに届いていない惨状だからな。

 少なくとも、それを分かっていてもなお俺には改善できていない。
 強い意志と弛まぬ努力が必要なのだ……現状で満足している俺には、到底無理だな。

 だが、タレインはそれを成し遂げなければならない。
 そのうえで、壁を砕いた先で再び植物加工に繋がる道を整える必要があった。

 どちらか一つであれば楽だったであろう。
 それでも、彼自身がそれを選んだ……眷属であれば俺がどうとでも支えられたが、今回彼をそうする気は無かった。


「でも、それが自分の理想の『鍛冶師』には必要なんですよね?」

「ええ。ただしこれは大前提、つまり始まりに過ぎません。運命に打ち勝つため、君はがむしゃらに壁を殴りつけるような苦行に挑むことになります……準備は良いですか?」

「大丈夫です! お師匠、よろしくお願いします!」

「……分かりました。それでは、第一段階と行きましょう」


 そして、タレインは才能が人並みとなった金属加工に挑む。
 山人族ドワーフの適性なのだろう、デバフとなっていた植物加工スキルを奪えばそうなった。

 だが、扱いが普通になっても作る品の質が上がるわけでは無い。
 そこから先へ進むため、今はただひたすらに修練あるのみだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 華都 ドワンフ


 そこは山人族たちの華都。
 決して小さくは無いけれど、華都としては最小を誇る花を基にした街並み。

 鉱石を生み出す花や超高温を放つ花などが存在するため、そこでは鍛冶を行うこともできていた……それでも『花』──魔花を加工する技術はそこまで発展していなかった。


「──ということですので、皆さんには今一度魔花の加工技術を学んでいただきます」

『…………』


 タレインが本来やるべきだったことを、俺が代わりにやることに。
 正史における偉業だったであろうが、当人的には要らないものだからな。

 山人族たちは俺の言っていることに驚いている……だけではない。
 そのうえソイツは何故か黒尽くめだし、おまけに山人族のように感じられるからだ。

 おまけに纏うそれは、本来タレインが纏っているはずの代物。
 世界にただ一つの『装華』、『鍛冶師』がその者と共に有るからだ。


「た、タレイン……なのか?」

「……彼は今、鍛冶をするために修練に励んでいます。私はその代理人、それだけに過ぎませんよ」


 彼らにとってタレインは、鍛冶の適性を持たない出来損ない。
 だがそれと同時に、『鍛冶師』の『装華』に選ばれた存在。

 そんな彼の代理人を名乗ったところで、何ができるのかと思う者も居るだろう。
 だが何かにはかつての継承者を思い、もしやと考える者も居るはずだ。


「皆さんがどのように思おうと、私はこれから魔花の加工を実演します。これまで、花の部分の加工をできた者は居ますか? いえ、居ないでしょう。それを可能にする腕の持ち主が、この中には居ないからです」

『…………』

「──それを可能としましょう。守護龍様はそれを望みました、『鍛冶師』の力は始まりに過ぎません。そして今、央都では守護龍様が降臨なされました。すぐに耳に入るはずです、真実であるとね」

『っ……!?』


 加工できる人数が増えれば、タレイン一人に掛かる負担は減るだろう。
 やるからにはとことん、望まれずともやっておく──それが偽善だからな。



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