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山田 武

偽善者と橙色の会談 その11



 新弟子タレインの『装華:鍛冶師』の中に眠っていた聖光龍の魂を回収し、本体の中に押し込み“神聖蘇生リザレクション”を発動。

 すると、氷塊の中に眠っていた聖光龍の瞳が突如として見開かれ──こちらを睨む。


『汝は……何者であるか?』

「記憶が混雑しているのかもしれませんね。私はしがない傭兵ですよ。それより、貴方様が気にすべきなのは……彼なのでは?」

「……せ、聖光龍、様?」

『──。その力の波動、間違いないか』


 氷塊の中で激しく揺れ動く肉体、やがてそれは砕け……なかった。
 いやまあ、シュリュの劉気が混ざっている代物だからな、そう簡単には砕けないさ。


『…………これは、何とかならないか? この強大な竜の力、驚くことに守護龍である私にも破壊できないではないか』

「残念ながら。私めに、そのようなことはできませんね。威厳などはありますので、そのままでも大丈夫だと思いますよ」

『そうであるか……改めて、タレインよ。よくぞ私を体と引き合わせてくれた』

「そ、そんな……自分は何もしてないです。お師匠を信じただけです!」


 嬉しいことを言ってくれるタレイン、だが聖光龍の目は訝しんでいる。
 信頼や信用などされていないのだろう、俺が何をしたのかと疑っているわけだ。


『汝がか?』

「氷を解かすことはできませんが、命を蘇生することはできまして」

『……先ほどのアレは、やはり魔法か。この世界で、あれほどの魔法をまだ見ることができるとはな』

「……魔法? あの、魔術ではなく?」


 事情を知らないタレインからすれば、言い間違えたようにも思えるだろう。
 魔術と魔法、大まかに分類するなら利用しているシステムが違っている。

 だが、魔法という概念は存在しているし、ごく一部の『装華』ならば互換性もあった。
 それでもあまり高位の魔法は使えないようなので、『装華』には限界があるのだろう。

 だが守護龍である聖光龍は、かつて魔法が主流だった時代を知っているらしい。
 赤色の世界も主流は魔法だ、過去の橙色の世界では使えていたのだろう。


「いいですか、タレイン。魔法は実在していました、そして今もひっそりと使われています。しかし、それはあまり知られていないのです。君にも少しであれば、使えるようにする予定です」

「じ、自分がですか!?」

『──なんと、できるのか?』

「ええ。とはいえ、私とてただの人。誰にでも教えられるわけじゃありませんし、教える気もありません。熱意で私を負かした、タレインだからこそ、教えるのですよ」


 おっ、なんだか師匠っぽい。
 タレインは目を輝かせてくれている……その分、聖光龍の疑い度合いも上がった気もするけども。


「さて、まずは守護龍様であらせられる聖光龍様の問題を解決してしまいましょう。この場所がどこなのか、把握はできてますか?」

『……ここは華都プロテスリア、山人族の代表者たちに用意された部屋だな。『装華』や魔花など、今の世界の単語は山人族たちの行動により記憶している』

「なるほど、先ほどタレインが誰かに話しかけられていたように思えたのは、そのためでしたか。ならば話が早くて結構、結論だけ申しましょう──貴方に植え付けられていた例の『花』、それは私が回収しました」


  ◆   □   ◆   □   ◆


 現在、山人族ドワーフたちは歓喜に包まれている。
 守護龍である聖光龍が復活し、自分たちの前に肉体を持った形で現れたからだ。

 どうやら代々『鍛冶師』の『装華』使いが聖光龍の意思を聞いていたことを、代表者たちは知っていたようで……そのため、声を聞けないタレインにヤキモキしていたらしい。

 だが一発逆転、声どころか本体を復活させたことでタレインは株が急騰。
 今や人気者……しかし、当人はそれを嫌がり俺と部屋に戻って来ていた。


「本当によろしいのですか? 今の君は、英雄として扱われておりますよ」

「いいんです。お師匠が居なかったら、自分はダメな『鍛冶師』のままでしたから。それよりも、自分はお師匠からもっといろんなことを学びたいです!」

「そうですか、それは何よりです。師匠として、弟子である君に一番最初に教えること。何にしましょうか……魔法、戦闘技術、あるいは──鍛冶そのもの」

「鍛冶!! お師匠、鍛冶がいいです!」


 最初も俺の打ち上げた武器を見て、何かを得られるかもというアプローチだったし。
 純粋に鍛冶師として、成長することを彼は望んでいるようだな。

 俺としては、弟子にするからにはとことん教えられることは教えるつもりだ。
 彼が祈念者の万能の才を超えるレベルで、鍛冶技術を得られるかどうか……興味深い。

 彼は自身の求めたモノを得られるし、俺もまたその結果を知ることができる。
 大変【傲慢】と【嫉妬】に溺れた自論、それをタレインで試したかった。


「私は……君を利用しますよ? 心清らかな人間ではありませんので、打算塗れで君を育てます──それでもよろしいのですか?」

「……今まで自分に教えてくれた人は、自分に才能が無いと言っていました。そんな自分でも、本当に立派な鍛冶師になれますか?」

「──はい、間違いなく」

「なら、自分の答えは変わりません……お師匠、自分を利用してください! その対価として、自分を一人前の鍛冶師に!」


 そして、少年は自ら決断する。
 だからこそ、もう迷いはない……俺の弟子としてさまざまな実験を経て、彼は立派な鍛冶師になるだろう。



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