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山田 武

偽善者と橙色の会談 その10



 いつも通りというか……『鍛冶師』の少年が俺に弟子入りした。
 何かしらの問題を抱えているようなので、それを解決することが一先ずの課題だ。

 だが、課題を解決するよりも先にやらねばならないことがある。
 それを済ませるために、俺は少年へあることを指示した。


「それじゃあ…………」

「じ、自分のことは、お師匠の好きなように呼んでください!」

「では、タレインと。弟子となった以上、他の方と分けておきたいですので。タレイン、『装華』は使えますね?」

「! は、はい……『開花』!」


 少年は一瞬暗い顔を浮かべたが、それでも意を決して『装華』を展開する。
 手にしていた『種思』は少年の意に応え、自らを花開いていく。


「……これは」

「うぅ……自分は、落ち零れですから。お師匠の期待には、沿えないかもしれません」


 展開されたソレは、オーバーオールとでも例えるべきなのだろうか。
 タレインの身を苦しくない形で包む……しかし、それ以上の何物でもない。

 服としての機能はしているし、動きやすさも確保されているだろう。
 だが『装華』特有の花に関する意匠がいっさい施されていなかった。


「失礼ですが……これまでの『鍛冶師』の方は、花を伴っていたのですか?」

「? い、いえ、そうじゃなくて……今までの『鍛冶師』の人は、もっと凄いんです!」


 どうやら、過去の『鍛冶師』の『装華』はタレインのソレより高性能だったとのこと。
 差はあれど、そのすべてが彼らの鍛冶師としての力量に比例していたらしい。

 だからこそ、本人的には自らの『鍛冶師』の姿は才能の無さの比例だと考えている。
 再びギーに触ってもらい、模倣──情報の解析を行うことに。


「……なるほど、一つ分かりました」

「? 何が、ですか?」

「どうやら君の『装華』は、無限の可能性を秘めているようです。今は未完の大器、そしてその一部を魅せることが、私にはできるようです」


 ようやく本題に入れそうだと、“停滞穴アイテムケース”の魔術によってある物を取り出す。
 巨大な氷塊──そしてその中身を見て、タレインは驚愕した。


「えっ、なんで……!?」

「聖光龍ブライト、あるいは守護龍様。その肉体です……後ほど山人族の方々にお譲りすることになるのですが、まずは君にお見せしなければなりませんでした」

「ど、どうして自分に?」

「この氷塊に、触れてみてください……それですべてが分かるはずです」


 タレインがゆっくりと近づき、氷塊に触れようとしている。
 俺はそのほんの数秒の間に、加速した思考の中で眷属からの情報を再見していく。

 この世界が生み出した、奪われたシステムの代理品──それが『装華』。
 中には『選ばれし者』の力を秘めた、花の名を冠しない『装華』がいくつか存在する。

 ……がしかし、『鍛冶師』はそれとはまったく異なるシステムで運用されていた。
 最初は『花』側の仕込みかと思ったが、それも違っていたようで。

 思考速度を少し落とすと、ちょうど氷塊に触れていた。
 そしてそれと同時に、聖光龍の肉体が呼応して光り輝く瞬間を目撃する。


「うわっ! お、お師匠!?」

「大丈夫です。私を、信じられますか?」

「! ……わ、分かりました! 自分、お師匠を信じます!」

「良い返事です。すぐに終わるはずです、そのままでいてください」


 やはり、間違いはなかった。
 そう、『花』の仕込みではない……が、何らかの存在による意図的な干渉によって創り上げられた『装華』なのだ。

 そして、その存在こそ──聖光龍。
 かつてもっとも親しかった山人族に対し、彼の存在は自らの意志を……遺志を託し、最後の戦いに挑んだ。

 結果はご存じの通り、敗北した聖光龍は哀れな傀儡と化していた。
 だがそれを討伐したとき、『鍛冶師』がその場に居れば──このようになるわけだ。


「わわっ、頭に声が! ……えっ、お師匠には内緒? 嫌です! ………………なら、あとでちゃんとお師匠には言います、でも他の人には言いません!」


 おそらく、タレインの脳裏で語り掛けているのは聖光龍の意思そのもの。
 肉体と同期したことで、失われていた物を取り戻したわけだ。

 そしてこれからは、二人で二人三脚。
 力を合わせて『鍛冶師』として成り上がっていく……なんて物語もあっただろう──ここで横槍を入れるのが偽善者スタイル。


「──“奪魂掌ソウルテイカー”」

『グゥアアアアアアアアアアアッ!!』

「お、お師匠……なんで?」

「おそらくコレは、君にこう持ち掛けてきたことでしょう。君を支えると……ですが、それは師匠である私の役目ですので──貴方には貴方で、やることがありますよ」


 コレ、とは俺が手にした魂魄。
 正確には魂と擬似的な魄の雑ざり物。
 肉体の情報と本来の意思が合わさり生まれていたものを、俺は肉体に捻じ込んだ。

 聖光龍にも何らかの考えがあったのかもしれないが、それは過程を踏んで初めて成し得るであろうこと……わざわざそれに、弟子をつき合わせる必要などない。


「いいですか、タレイン。これも、そしてこれから行われることも今は君だけの秘密にしておいてくださいね」

「は、はい!」

「良い子です──“神聖蘇生リザレクション”」


 そして、俺は神聖魔法を発動。
 氷塊の中で閉じられていた龍の瞳が、ギョロリと再び開かれるのだった。



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