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山田 武

偽善者と橙色の会談 その06



 山人族ドワーフに伝わる代々の言い伝え。
 世界は一つの大地の基、多くの種族が共に生きていた……その中には『扉』を守護する守護龍が存在し、山人は彼と仲が良かった。

 ともに酒を愛する者として、他種族よりも好ましい関係を結んでいる。
 だからこそ、守護龍はその最期──他でもない山人族に託した。

『私は勝ち目のない戦いに挑む。この身は奪われようと、『扉』は守護する……故に汝らに託そう。いつか訪れるそのとき、私が私を取り戻し、かつての世界を取り戻すために』

 そして華都へ移ってからも、山人たちは守護龍を探し続けている。
 ──守護龍の遺志は、今なお彼らと共に在るのだから。

  □   ◆   □   ◆   □

 眼前に鎮座する氷塊の中身、未知の形状をした魔花……その正体に山人族は気づいた。
 決して忘れることなく、代々引き継いできた山人族にとってもっとも重要な記録。

「──『聖光龍』ブライト様、この世界をかつて守ってくださった御方じゃ!」

 その名を知る者は、この世界でも山人族を除けばごく僅かだろう。
 情報は限りなく秘匿され、森人の華都に存在する蔵書の迷宮にも記載されていない。

 それを龍が、そして『花』が望んだがゆえに起きた事象。
 世界における高位の影響力によって、情報は隠匿されたのだ。

「──なるほど、鍵は山人族でしたか」

『ッ!?』

「ええ、これは興味深い。そうなると、少し予定を変える必要が生まれましたね」

「な、貴様……守護龍様をどこに!?」

 彼らが目を離した一瞬、その隙に叫びをあげた山人のすぐ隣に現れたナニカ。
 そしてさらにその隣に現れた氷塊──それは、黒い穴へ呑み込まれて消えていった。

「まず、訂正を。私どもの目的は、貴方がたと同じ。華都を襲う魔花を、排除したまでに過ぎません」

「は、排除だt──」

「落ち着いてください。ええ、お静かに願います。説明はまだ続きますよ」

 自分がどう思われているのか、それを理解しようともせずに話すナニカに怒鳴ろうとした山人……だがその首元には、いつの間にか双剣が突きつけられている。

 一本ずつ剣を構える子供たち、その見えないはずの目から、鋭い眼光が放たれていた。
 その殺気に震え、山人……そしてこの場のすべての者たちが動きを止める。

「重ねて告げましょう、私どもの目的はあくまで魔花の排除です。しかし……どうやら、ただの魔花というわけでは無いみたいです。さて、そこの山人族の御方──おいくらにしますか?」

「…………はっ?」

「ですから、おいくらかとお尋ねしているのです。私どもが封殺し、確保した貴重な魔花です。それを無償で、というのはいささか問題ではありませんか?」

「う、うぐぅ……」

 異論は認めない、双剣が今なお向けられている意味を理解した。
 周囲の者たちも、行動のいっさいを認めないという威圧に押されて動けずにいる。

「さてさて、先遣部隊の皆さん。間もなく主力の方々がご到着するでしょう。それまでに私はお暇しますので、メッセンジャーとしてのお仕事をお任せしたいのです」

「…………」

「もちろん、無償とは言いません。どうやら先ほどの魔花は、山人族の方々にとって大変価値のある物でしょうし……そうですね、よろしければお譲りしますよ? もちろん、ただでとは言いませんが」

 指を鳴らされ、剣が首元から離れたことで発言が許されたことを理解した。
 だが同時に、下手なことを言えば再び突きつけられることも分かっている。

「……儂には、大した権限は無い」

「でしょうね。ですが、守護龍様という先ほどの魔花、その価値を知る山人族の方々であれば、必ず交渉の場に現れる。そうではありませんか?」

「……うむ」

「でしたら──こちらを。我が傭兵団を招待する際、ご必要でしたら。特殊な魔術で、私どもへ連絡が可能です。ああ、調べようとしたら壊れますのでご注意を。守護龍様、要らないというのであれば別ですが」

 一枚の手紙を放り投げると、風が山人の下へそれを届けた。
 風はそのまま三人を包み込むと、宙へと浮かび上がらせる。

「それでは、また会いましょう。もし、山人族以外の方々がその場に居れば──交渉は決裂、ということで」

「ま、待──」

「ごきげんよう!」

 瞬間、眩い光が放たれ視界は奪われた。
 再び見えるようになったとき、宙に居たはずの三人はいつの間にか姿を消している。

「むぅ……すぐにお伝えするしかあるまい。悪いが他種族の方々、このことは儂らだけで解決させてもらう」

「なっ、アレだけのことをされて、我々には黙って引き下がれと!?」

「守護龍様の事柄は、儂ら山人族にとって何よりも優先されるべきこと。謝罪はいくらでも後日しよう、じゃがこの件は儂らだけで解決すべきこと──邪魔するのであれば、全山人が相手になると思え」

 剣を向けられていた時とは違う、熟練の戦士特有の威圧が放たれる。
 だが、この場の者たちは先遣部隊、相応の実力を全員が有していた。

「──お前たち、何をしている?」

 それでも、威圧は時間稼ぎと状況の変化を伝えるには充分。
 主力部隊の中でも、先んじて現れた男──『魔王』アンフォーンが降り立つ。

「先ほどの力の波動といい……いったい、何があったというのだ」

 そして彼らは、先ほどまでの出来事を知ることになる。


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