AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と橙色の会談 その01



 ???

 そこはかつて、人々が繁栄の限りを尽くしていた場所だった。
 今では人ひとりとして居ない荒廃……否、豊饒の大地に、突如亀裂が走る。

 ──『聖■龍』、起動完了しました。

 地の底から現れたのは、橙色の龍。
 聖なるオーラが周囲を満たし、植物たちは活性化を促され急激に成長していく。

 だが、龍自体に生を思わせる物は何一つとして無い。
 空虚な瞳、ズタボロな体、何より体の九割がたを覆い尽くす花々が酷く歪だった。

 ──目標地点、設定完了。
 ──目的行動、組込完了。

 ──『聖■龍』の操作を開始します。

 その龍はかつて、この世界を守護していた存在の成れの果て。
 人々を、そして世界の扉を守るために果敢に挑み──敗れ去った。

 生きる屍と化したその龍は、虚ろな眼で上空を見上げる。
 常人では見えないその先には、多くの巨大な華々が集まろうとしていた。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 華都サフランワー


 俺、そしてクエラムは現在、獣人たちの住まう華都にてその瞬間を眺めていた。
 今日この日、ついに華都が集まり、しばらくの間連結することになる。


「……メルス、己で良かったのか?」

「クエラムで良かったとか、クエラムだから良かったとかじゃなくてな、他の場所だと俺単体で必要とされていないんだよ。シュリュの所で、従者として認められているぐらいかな? まあ、それも今日で終わりだろう」

「己は嬉しいぞ。どんな理由であれ、共にメルスと居られるのだからな。少しばかり、他の者たちには悪いと思うが……それ以上に、幸せだ」

「ぐはっ……!」


 さ、さすがはクエラム、ヒロイン力の高い台詞を素で言ってきやがる!
 全然気にしていないが、元は男というか雄だったのに……くっ、やりおる。

 突然吐血(の演技を)する俺に驚き、看病みたいなことをしてくれる辺りも高評価。
 ……一時期ここで暮らした時も思ったが、クエラムは本当にダメ男製造機なんだよな。


「と、ともかく……ああ、もう大丈夫だ。見ての通り、あそこに見える華都に居るお偉い様がたが中央の華都に集まることになる。俺もクエラムも、御付きに任命されているから問題なく入れるぞ」

「うむ、そう考えると少し恐ろしいな。メルスの手の者が、ほとんどの華都に居るではないか」

「ほとんど、と言っても四つだけ。種族で住まう二つの華都、そして中央の華都には何もできていない。影響力という点じゃ、そこまで行き届いてないと思うぞ」


 なお、二つには山人族と自由世界だと稀有な花人族が、そして中央の華都には多種多様な種族が住んでいるとのこと。

 花人族とはイベントで見た花精族と違い、霊体化を種族性質として有さない種族だ。
 まあ要するに花をどこかに咲かせており、人族として生きる花精族というわけだな。

 そして中央の華都、おそらくは『橙王』の『装華』の持ち主が居るだろう。
 それがこの世界の『魔王』同様か、赤色の世界の『赤王』と同じかは知らないけども。

 この歪に整えられた橙色の世界で、正常に『橙王』が存在している方がおかしい。
 ……真面目だったら真面目だったで、それはそれで問題だらけなんだが。


「保険として、ここサフランワーから全華都に転移門を渡してもらう予定だし。他三つの華都にも、さまざまな形で何かを提供する。そうなれば、向こうも動くんじゃないか?」

「……敵か」

「カカを失墜させ、赤色の世界に邪神をばら撒き、こっちの世界の神も封じて利用していたどこかの神様。ソイツの手下である花も、まだ何かするだろうしなぁ。まあ、それでこそ偽善のやり甲斐があるんだけども」


 偽善なので、グッドエンドではなく目指すはハッピーエンドだ。
 ただし、手順通りにやって被害が生まれるのもアレなので、過程は全部無視だが。

 獣人族には転移と魔力貯蓄、森人族には今以上に科学の知識を、そして普人族と魔人族には──と準備は着々と進んでいる。

 それらを開示し、他の種族に提供させることで計画は次の段階へ。
 追い詰められた者ほど、思考を誘導しやすい相手は居ないからな。


「ところでメルス、本当に何もせずにこのまま乗り込むのか?」

「ん? いやー、華都で対策することは特に無いと思ってさ。向こうが居るのは間違いなく下の大地だし、警戒は監視ぐらいにして少しは気を緩めようって感じだな」

「むっ、それは本当か?」

「ああ、クエラムともいっしょの時間が取れるだろう……間違いなく他の眷属も来るだろうし、ずっとってわけにはいかないが」


 俺の行動って、その気になれば二十四時間観察し放題だし。
 俺が本当に隠したいと思うこと以外、プライバシーは無いに等しいのだ。

 そんな奴が誰かとデートをすれば、当然丸分かりなわけで……。
 なんだかんだ、全員とそれぞれ時間を設けることになるだろう──もちろん本望です!


「まっ、それもこれも全部は向こうに行ってからの話だ。いちおう今の俺は生産者って立場だから、バトル物は専門外だ……期待しているぞ、クエラム」

「! うむ、任せてくれ! たとえ家族が相手でも、数分は持たせてみせよう!」

「……数分持たせられるだけ、本当に尊敬するよ、マジで」


 うん、数分あれば逃げられるし、眷属を追加で派遣することもできる。
 さすがはクエラム、縛り中でも余裕があって頼もしい限りだ。



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