AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とキャリアチェック その09
チート魔法の一つ、[メニュー]権能再現魔法の一部“自動詠唱《スペル》”により、花子に勝利した。
この魔法、禁忌魔法だろうが儀式が必要な大魔法だろうが対応しているからな。
どれだけ長い詠唱でも、それを一瞬で済ませてくれる……うん、チートである。
さて、試合を終えて部屋を出たが……ここで肉体の方が限界を迎えた。
膝から、なんて生易しいものでは無く、一瞬で顔は床と触れ合うことに。
「……メル」
「…………」
《あー、口も動かないみたい》
「とりあえず、運びますね──よいしょっ」
傍から見れば、お姉さんに運ばれる妹みたいな図になるのだろうか。
現実は……いや止めよう、中の人なんていないのだから。
そうして運搬されるのは、なんとクラーレの部──
「……メル、結界を解除してください」
《絶対に嫌!》
「もう、仕方ありませんね……医務室が用意されていて良かったです」
自分で設計しているので、こういう時にこそ必要な場所を俺は知っていた。
というか、それこそ医務室は修練場の近くに配置してあっただろうに。
回りくどい寄り道をしながらも、一時的に搬送された医務室。
ござる(仮)&花子(仮)に待機してもらうよう伝えてもらい、部屋で安静にする。
いつものことながら、自壊耐性を超えるレベルで肉体を壊してこうなっただけのこと。
今も内側で治癒が進んでいるのだが、時間経過だけでは納得できない少女が一人。
「メル……大丈夫、なんですよね?」
「あ、あー。うん、この通り喋れるくらいには元気になったよ。ますたー、アレは使う気でいるのかな? なら、まだ止めた方が良いと思う……本当に辛いよ?」
クラーレの固有スキル【万能克復】。
それはありとあらゆる『傷』を、癒すことができる彼女だけの力。
ただしそんな奇跡染みた力には、相応の代償が存在する。
発動すれば、彼女はその重傷度合いに生じた苦痛を味わわなければならないのだ。
正確には能力の処理に掛かる演算負荷、要は頭の中で起きる幻痛とも言えるような代物なのだが……人が驚いただけで心臓が止まって死ぬように、イメージ上の痛みもヤバい。
そんな痛みを乗り越えられれば、彼女は死者蘇生すら成し得てしまう。
……なので、彼女から人の尊厳を奪えば、全自動蘇生機すら作れてしまうわけだな。
さすがに悲劇的過ぎる超絶バッドエンド過ぎるし、見方によっては彼女一人の犠牲であらゆる生命体におけるハッピーエンドになりそうなので──俺はここにいる。
一人のために、世界に犠牲を強いている現状こそまさに偽善そのもの。
まあそもそも、彼女が居たら死に関する偽善ができなくなる……うん、そのためだ。
「やっぱり……! メル、そんな重傷を隠しているんですね!」
「あ、これはその言葉の綾で……そ、そう、これは昔膝に矢を受けた──」
「そんな言い訳は要りません。というより、さすがにわたしでも聞き覚えがありますよ、その言葉は」
「うぐっ……き、気を付けます」
よろしい、と笑みを浮かべたクラーレによる治療が開始される。
光・聖・回復魔法に加え、【慈愛】スキルもレンタルされているからな。
外傷・内傷、そして魂魄に関わる部分と俺の損傷部位に合わせて、丁寧に魔法を施す。
これもまた、【万能克復】の負荷を緩和するために取れる、策の一つだった。
損耗度が低ければ、その分だけ知覚しなければならない箇所も減る。
なので時間があるならば、先に軽傷などはポーションで治してからの方が良い。
……とここまで語ったが、今回は普通に回復系の魔法だけで留めてもらった。
ついでに筋肉の超再生を促すため、そちらの方はほとんどそのままに。
燃費は悪いが、通常以上に代謝を上げれば肉体の活性化を促せる。
そこに精霊術『無吸』を合わせれば、さらに効率よく体を癒すことができた。
「っ、ふぅ……もう大丈夫みたい。ありがとうね、ますたー」
「いえ。あの、メル……メルはわたしに、どうなってほしいですか?」
「うーん、難しい質問だね。先に言っておくけど、ますたーに関心が無いって意味じゃないからね──たとえどうなろうと、私は私の信念のままに動くから。ますたーはますたーの、自分のやりたいようにやってほしい」
彼女の意思を尊重し、何もしない。
その選択はある意味もっとも残酷とも言えるだろう……しかし、それ以外に俺が取るべき道は無かった。
「ますたーの道はますたー自身で決めるものだから。私の言うことで、ますたーの選べる道を狭めたくはないんだ。けど、どんな道だろうと私はますたーが、クラーレが望んでくれる限りはいっしょに居たいかな?」
「……いっしょに、居てくれるのですか? わ、わたしたちは、いつもメルに──」
「ここは何でも自由な世界だからね。そうだねぇ……ますたーが自由を求めなくなるまでなら、いっしょに居ようかな? だから、今はゆっくりと──『おやすみ』」
「…………ふぁい」
そう言って、ベッドから下りる。
彼女も回復作業で疲れていたのだろう、そのままベッドに倒れ込んだ。
その顔はほっとしたようなもので……俺は部屋を静かに去るのだった。
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