AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とキャリアチェック その02



 少女が魔女の王を目指すようなので、応援することにしたメル(ス)です。
 その目的が何であれ、彼女にとっても前に進むための糧となるはずだ。


「ただいま戻り、まし……た……」

「──あっ、ますたーお帰り。今、ちょうど新しいお菓子ができたところなんだ。どう、いっしょにみんなで食べようよ」

「メル……!」

「あはは、そんなに驚かなくてもいいと思うけどな。それよりみんな、本当に頑張っているみたいだね……歓心感心♪」


 トレイの上に載せた焼き上がったお菓子を盛りつけ、テーブルの上に並べる。
 少女たちは我先にと奪い合い、美味しそうに頬張っていた。


「花子ちゃんも、はいこれ」

「…………」

「ことこの姿、それにお菓子作りの時は何も企んでいないよ? そうだね……ご褒美タイムとでも思って、とりあえず食べてよ」

「…………美味しい」


 現在、『月の乙女』と共に行動している俺担当の新人三人組。
 その一人、現在【強欲】の眷属結晶を怪盗から守っている花子(仮)にお菓子を渡す。

 今のところ、結晶は彼女が持っている。
 ……そういう機能も組み込んでいるので、場所は分かるんだよな。

 怪盗、今頃何やっているのかな……なんてことを思っていると、ある程度食べて満足したのか理性を取り戻したクラーレがこちらを見て質問してくる。


「はっ、ところでメル、結局のところどうしてここに居るのですか?」

「近況報告、かな? みんながどういう風に成長したのか気になっちゃって。ますたーとシガンお姉ちゃんは固有スキルについても言及したけど、他のみんなも新しい力とかで愛とか思い出とか……いろいろあるかもだし」


 まあ、[ステータス]を見てしまえばある意味目的はすぐに果たせてしまうのだが。
 しかし、そんな味気ないことをするほど俺も愚かではない。

 プーチが【魔女王】を目指すように、他の少女たちも何かしらの目的を持って奮闘しているのだろう……話せる限りでいいので、俺は自分に無い物を知りたかった。


「せっかくだし、少しイベント要素でも足そうか──よし、一番興味を引いた話をしてくれた人には、『武具の卵』をあげる!」


  ◆   □   ◆   □   ◆


 武具の卵。
 それはかつて、アルカに授けたあらゆる可能性を秘めたアイテム。

 持ち主の行動に合わせて孵化し、そしてやがて求める理想の形になる。
 結果として、アルカはあらゆる魔法を使う可能性を手に入れていた。

 さて、そんなアイテムをどうしてここで取り出したのか。
 創る際、武具っ娘たちの成長スキルを組み込むのだが……これがもう大変で。

 お陰で一つ生み出すのにも、思いっきり時間が掛かる始末。
 しかも、なぜか自由民の眷属には使えない仕様……理由は不明だが。

 ともあれ、そうしてあまり使われなくなったため、第一世界で景品として使っていたのだが……まあ、ストックもいくつかあるのでこちらでも景品を用意したわけだ。


「……みんな、いろいろと頑張っているみたいだね」


 とりあえず、クラーレを除く戦闘班の初期メンバーから聞き終えての感想がこれだ。
 どうやら全員、超級か極級の職業に就けないか挑戦しているらしい。

 シガンは固有スキル【未来先撃】を活かせる職業が無いか、探しているようだ。
 具体的な職業はまだ決まっていないようだが……剣系の職業は派生が多いからな。

 逆に、プーチは聞いていた通り【魔女王】志望だし、もともと豪快に魔法を破壊していたコパンなどは【魔壊王】という魔法破壊の特化職業にそのまま進もうとしている。

 タンクのディオンやトリックスターのノエルは、少々悩んでいたようだが……他のメンバーが職業を決めるまで、システム面での強化よりは技巧的な面での成長を望んでいた。

 そして、最後にクラーレなのだが……彼女が一番の悩みを抱えていたらしい。
 自身の固有スキル【万能克復】、そして眷属としてのスキル【慈愛】。

 ある意味、これ以上無いほどに恵まれているからこそ与えられた選択肢も多い。
 ……眷属だからか、導きの影響で就職条件が緩和されている影響もあるだろうけど。


「──要はますたーは、自分のスタイルで悩みがあるわけだね。後方での支援特化、今みたいに武器もある程度持つ自衛タイプ、そして……今までにない、ソロでもやっていけるようなスタイルで」

「すでに、相談はしているのですが……実は超級職の就職条件は満たしているようなのです。ただ、少々選びづらくて」

「……うん、内容については聞かないけど。けど、ますたーのその深刻そうな顔を見てると、本当に難しい選択なんだって分かるよ」


 こればかりは仕方なく、未来眼と鑑定眼を応用して覗き視てみることに。
 それによると、とりあえず俺が捉えられた道は二つだ──王道か邪道か。


「これは、ますたーの職業とは関係なく言うことだけど……」

「?」

「とりあえず、【慈愛の○○】って職業が出ても選ばない方がいいよ」

「!?」


 王道でも邪道でもない、こればかりは眷属ゆえに出現してしまったものだしな。
 なので、とりあえず彼女の中に浮かんでいた選択肢からは外させておいた。


「ますたーがそれ以外で選んでいる道、そのどっちがいいか私には分からない。でも、それがますたーのこれからを大きく分けることだけは分かるよ」

「メル……」

「だから、これだけは言っておくよ。どんな選択肢を選んでも、私は自分を曲げないしますたーの意思を尊重する……でもそれはそれとして、ますたーのためとうそぶいて偽善は必ずやる……そうなったら、諦めてね」

「…………ぷっ。なんですか、それではわたしが選ぶ意味はあるのですか?」


 今はこうして、冗談半分で話を終わらせた方がいいだろう。
 だが、いずれ彼女は本当に選択を迫られるだろう……そのとき、何を選択するのやら。



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