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山田 武

偽善者と魔王城潜入 その13



 魔力を高めて拳で殴る、なんて脳筋スタイルを始めた死霊術師です。
 外部で空気を吸引していた原因は停止し、残るは狭い空間に隔離した『封印者』のみ。

 だが、忘れてはいけない。
 厄介なのは万全の状態の敵ではない、優位であったのみ関わらず追い込まれ、なりふり構っていられなくなった状態の時だ。


「──『限定解除』」


 それは、『息生消鎮[ブレスエット]』を解放したときにも聞いた単語だ。
 しかし、機能停止状態にある今、たとえ制限を解いても意味は無いはず。

 そして何より、もう解除してあるのだから再び限定的に解除する意味は無い。
 つまり使うのは[ブレスエット]に非ず、対象は──自分自身。

 その予想を裏付けるように、溢れ出す膨大な量の魔力。
 総量であれば、俺の方が多いだろう……がしかし、展開されている魔法の数が異常だ。


「魔力の多さでは負ける。だけど、この瞬間的な量は上。まだ、終わってない」

「っ……そうこなくては」


 瞬間的な量とはつまり、一度の魔法でどれだけ魔力を注げるかということ。
 数だけかと思いきや、魔眼状態にした眼が捉えた魔法の魔力量はかなりのものだった。

 降参はしないが、短期決戦で終わらせようという算段なのだろう。
 場を縮めているからこそ、攻撃は局地的なものでいい……集中攻撃できるわけだ。

 対する俺は魔法を使えない状態なので、スキルを用いない運用技術で対応を要される。
 身体強化の『強靭』、体内で留めて気配を消す『遮絶』、言霊を宿す『魔言』。

 他にも精霊の性質を再現する精霊術や、先ほども使った瘴気を用いた死霊術もある。
 魔法が無くてもやれることは多い、たとえ魔法スキルが使えずとも戦えはするのだ。


「では、行きます!」

「させない」


 次々と放たれる空間魔法による攻撃。
 その性質上、当たればそのダメージは物理抵抗を無効化して俺に致命的なまでの死傷を及ぼすだろう。

 話は変わるが、人は無意識的に攻撃へ抵抗するべく身力を操っている。
 物理も魔力も問わず行うため、最悪一発で生命力も含めて一気に減るわけだが。

 そんな反射的行動──『防撃』を再現し、限定的に制御したのが『纏皮』。
 身力をそのまま皮膚に纏わせ、あらゆる攻撃を減衰させられるようにしている。

 今回であれば完全な魔力現象である空間魔法なので、魔力を張るだけで充分だ。
 体外に出さなければ魔力の放出量など関係ない、最大量まで魔力を張って突っ込む。


「渾身の──」

「っ……!?」

「右ストレーーート!」


 空間を越えて回避したのだが、ただ後方に退避しただけだったのが不味かった。
 正拳突きの要領で拳を引くと、風圧が物凄い速度で『封印者』の下へ。

 一度跳んだからか、すぐには逃げられず防御する暇もない。
 結果、結界に激しく体を打ち付け──そのまま『封印者』は気絶した。


「……まあ、普通こうなるよな」


 祈念者はともかく、魔法の腕をあそこまで高めているのだ。
 当然、職業もそれに準じたものだろう……そうなると、能力値もそちらに傾く。

 魔力への抵抗は高まっても、肉体の強度の方は常人よりもやや強い程度に収まるはず。
 身体強化はしていたが、それでも生み出された風圧そのものは完全な物理現象。

 それに吹き飛ばされ、結界へ衝突。
 結界も壁という意味ではただの物理、結果として『封印者』はその一撃で意識を失う重傷を喰らったわけだな。


「うちの連中は魔法使いでも、なんだかんだそっち方面も鍛えているからな……アリィぐらいだよな、封印されてた中でそこまで高くなかったの」


 学者だったリュシルはフィールドワークもしてたし、ネロは『英勇』と戦っていた。
 そういった体を動かすことをしていたからか、低いわけでは無かったのだ。

 その点、アリィは固有スキルで異端視されていたタイプなので、そこまで戦闘という行為をしていたわけでもなく、結果としてあまり肉体強度の方は高くなかった。

 まあ、眷属になったら俺の能力値を一部引き継げるため、今はそこまで低くないが。
 ……ある意味、俺が一番弱いのかもしれないな。


 閑話休題ワラえないな


 デュラハンたちに感謝の意を述べ、送還などをして時間を潰していると……『封印者』が目を覚ました。

 というより、意識はもっと早く覚醒していたのだろう──だからこそ、自身の置かれた状況にもそこまで驚いていない。


「……骨の、鎖」

「ああ、起きたようですね。大変申し訳ありませんが、逃走を防ぐため一時的に拘束させていただいています。ちょうどいいサンプルもございましたので、魔力吸引の方を機能として組み込ませていただきました」

「…………それで?」

「ええ、改めて交渉を。こういってはなんですが、あまり私は人に好まれるような振る舞いはできません。行動で示せ、アレは私には向きません。なので、ゆっくり時間を掛けて理解してもらいますよ」


 うん、間違いなく悪役だな。
 これが物語なら、絶対に主人公っぽい人が助けに来るだろうが……それはない。

 というか、来ても普通に捻じ伏せる。
 今の俺は死霊術師、正々堂々と相手をしてやる必要なんてないからな……さて、交渉はちゃんと上手くいくかな?



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