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山田 武

偽善者と魔王城潜入 その11



 再び解き放たれた[ブレスエット]。
 対策として、俺は魔力のいっさいを体内に押し込めることで強制吸引を防いだ。

 魔力運用技術の一つ『遮絶』。
 今回のようなケースや、あるいは探知を紛れさせるために使うのだが……これ、実はかなり諸刃の剣である。

 体内での循環は可能なので、いちおう身体強化などは可能だ。
 しかし、そのいっさいを外部へ広げていないので、魔力的な防御がいっさいできない。

 いかに肉体を鍛えても、絶対に逆らえない理があるのと同じ。
 ……創作物を見ているとなんとかなりそうな気もするが、たぶん俺じゃ無理だろうな。


「となると、私がやるべきなのは……回避系ネクロマンサーですね」

「かい……何?」

「回避系ネクロマンサー。要するに、防御をせずに避け続けながら戦うということです。ということで、さっそく行きますよ」

「……待って、なんで生きる?」


 口調が独特なので意味合いが変わって取れてしまうが、おそらく彼女はこう言いたいのだろう──どうして[ブレスエット]の影響下で普通に生きて声を出しているのかと。

 答えは単純、もうほぼ死んでるから。
 声の問題は『魔言』でクリア、命令の意思さえ籠めなければ比較的コスパはいい。

 そして、呼吸だが……もう諦めてスキルを外部から取り寄せた。
 割と使っている呼吸不要スキル、生物の枠組みから外れた能力で対応中だ。

 そんなこんなで、少なくとも空気を吸われても対応できる状態になっている。
 しかし、それでは[ブレスエット]は倒せないし、『封印者』にも届かない。


「──召還コール

「っ……!?」

「三人とも、お願いしますよ」


 現れたのは三体の『首無霊デュラハン』。
 だが、内に秘めたものが通常の個体とはまるで別物だ。

 二体は純粋に体内の魔力量が多く、長期的な戦闘を行える。
 そして、もう一体は──アンデッドであるのにも関わらず、聖気を秘めていた。


『『ウケタマワりました』』『!!』

「あの珠を破壊してください。ただし、あの空間を操る魔人族の女性が妨害してきますので、注意を──“死改糧工デッド・カスタム”。これで、ある程度の干渉は防げますよ」


 先ほど封印術も拝見したので、それをやや上回る程度の耐性を追加しておいた。
 もともと悪意産なので、高かったさまざまな耐性だが……これでもまだ不安だな。

 いちおう彼らには、願いシリーズの装備をいくつか渡してある。
 いや、もちろん複製版だぞ、かっぱらった品なんて…………ちょっとだけだ。


「ありえない、それはもう逸脱」

「死という不可逆な因果に抗うこの身に、この程度のことなど造作もありません。暫しの戯れに、どうかお付き合いください」


 取り出すのは『呪動器カースドウェポン』、当然この場で本来の性能を発揮することはできない。
 しかし、自由に飛び回らないただの呪いの武器としてならば、運用も可能だ。

 ただし、職業として死霊術師に就いていない俺に補正など無い。
 当然、呪われた武器など握れば相応の代償が求められるが──


(──『瘴操』)


 死霊術──スキルではない方──の一つ、瘴気を操る技術で強引に相殺。
 呪い以上の負の力を押し付けて、ある程度言うことを聞かせることができる。


「では、行きます!」

「無駄なこと……」


 デュラハンファミリーに[ブレスエット]は任せたので、俺が狙うのは『封印者』。
 触れなければ封印されない、というのは高望みだ……それでも確率を減らしていく。

 だが、剣を向けても無抵抗なことなどあるわけなく、転移であっさり距離を取られる。
 そのうえ、追いかける道筋にはいくつもの不可視の罠が仕掛けられていた。

 瞳に魔力を注げば、それらを可視化することができる。
 あとは呪いの剣を振り回し、強度を上回るレベルの斬撃を当てれば突破可能だ。


「! ……『死霊術師』?」

「ええ、死霊術師もやっております」

「なるほど、兼業」

「いえいえ、そんな恐れ多い。私はそのような苦行はごめんですよ」


 嘘は一つも言っていない、ただ職業の恩恵にあやかることなく複数のことをやっているだけ──そう、無職なだけだ。

 剣技もそれなりだと判断したからか、頭上や足元などに罠を張るようになってきた。
 しかし、俺も俺で今度は曲芸染みた動きで体を捻るなどして回避し、距離を縮める。

 それでも空間魔法で再び距離を取られ、改めて罠が再配置された。
 俺は体力を消耗するが、向こうは疲れないまま減った魔力もすぐに回復してしまう。


「やはり、空間魔法が厄介ですね……となれば──“災演之宴フェイザス”」


 俺が取り出したのは一冊の教典。
 中にはとある祈念者、そしてその果てに関する情報が記載されている。

 ドロップした個体の名は『偽りの厄災』。
 ある意味、ニィナの兄のような存在で──『偽善者メルス』を基に創り出された存在だ。

 そして、この『偽災黙示[フェイザス]』は、現実換算で一週間に一度だけ当時使っていた能力を再現できるというスキルを搭載している。

 その上位版である“災演之宴”。
 効果はシンプル──能力一つに加え、就いていた職業(の上位版含む)も一つ再現に含むことができるのだ。

 当然、この環境で選ぶのは──


「【闘王】、:擬似永久回路:」


 スキルを得たことで、留めなければいけなかった魔力も全開で戦えるように。
 すぐに『遮絶』を解除、身体強化を全身に巡らせて一気に加速。

 これまでとは比べ物にならない速度だったため、少しだけ対応が遅れた『封印者』。
 その隙を突くように、俺はもう使えない職業スキルを発動する。


「──“闘王への挑戦場バトルコロシアム”!」

「っ……!?」


 効果は至ってシンプル、勝敗が着くまで出られない結界を展開するというもの。
 その広さは僅か十メートル……これならば転移は意味を成さなくなる。

 ──さぁ、ここからが本番だ。



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