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山田 武

偽善者と魔王城潜入 その05



 虚声の眠る地 一層


 奥に眠るネームド種以上の魔物を求め、探索を始めた俺と【魔王】四天王の『回廊』。
 音や空気に迷宮特有の干渉が入ったここにおいて、それらを用いた探知は扱いづらい。


「………………召還コール


 召喚サモン、ではなく召還コール
 必要な材料を揃えて簡易的に呼び出すのではなく、すでに製作済みのアンデッドをこの場に呼び起こす。

 本来であればこっそり触れている魔本を経由し、一瞬で行えるであろう事象。
 だが今回は監視の目があるので、それっぽい詠唱と意味ありげな単語を唱えている。

 そうして現界したのは、小さな動物たち。
 ただし、すべてが生気を宿した瞳をしておらず、濁り切った瞳でこちらを見ている。


「ひぃっ!」

「ご安心を。彼らは私に従順ですので。よろしければ、お触りになりますか? 私のアンデッドたちは、世間一般の死霊術師と違い生前を可能な限り再現しておりますよ」


 犬やら猫やら鼠やら、さまざまな動物が居たが今回は兎を派遣してみた。
 少々怯えていた『回廊』だが、恐る恐る毛皮に触れ……目を輝かせる。


「や、柔らかぁい」

「歪な肉体に、健全な魂は宿りません。であれば、より魂が安定して定着するよう、肉体の方を調整すれば良いだけです。要するに、彼らが仕事をしやすいよう、配慮することもまた一流の死霊術師には重要なのです」

「へぇー、そうなんですね」


 話半分といった様子で、兎を愛でることに集中している『回廊』。
 ……その気になれば感覚の共有もできるのだが、その辺は自重しておこう。


「それでは皆さん、各自この場所を走ってください。階段を見つけたら、一度戻ってくるように」


 俺の命によって、囮になっている兎以外の動物たちは迷宮の中を駆け抜けていく。
 彼らの移動情報は[マップ]に表示され、迷宮全体の構造を知る手助けになる。

 音や空気は阻害できても、死霊術師の擬似的な魂の繋がりは断てないらしい。
 ならば数の力をごり押しして、さっさと攻略していこうではないか。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 二層


 階段を伝い、二層へ辿り着いた俺たち。
 再びアンデッドたちを向かわせ、地図を凄まじい勢いで埋めていく。

 もちろん、迷宮には付き物の魔物たちが出現して道を阻んだ。
 この迷宮で現れる魔物は、主にアンデッド系の魔物たちだった。

 なので俺が死霊魔法を施すと、さして苦労せず従属することで戦闘をスキップできる。
 お陰で負担は増すばかり……と『回廊』は心配したが、俺は笑顔でこう答えた。


「──ご安心を。特別な技法で、負担をおさえてありますので。位階ランクの高いアンデッドを使役することでもない限り、何百体でも従えることができますよ」

「す、凄いですね……」

「それにしても、事前に『回廊』様が教えてくださった情報通りですね。まさか、徐々に空気が薄くなっていくとは……たしかに、減少していますね」


 それより、と話題を広げられては困るので迷宮に関する話を振る。
 どうやらここ、高所とは逆で下に行けば行くほど呼吸がしづらくなるとのこと。

 気圧あたりも変化しているのか、高山病に似た症状もあるらしい。
 だからこそ、二層に入る前に魔道具を渡され……そうだったのだが、丁重に断った。

 それでも現在、俺も『回廊』も呼吸確保のアイテムを身に着けて二層を進んでいる。
 自分で用意したそれは……なんというか、妙に脈動していた。


「あ、あの……それって」

「何か?」

「…………い、いえ、何でもありません」


 生体魔道具、とも呼ぶべき寄生型のアイテム(首飾り)を俺は装備していた。
 利点は装備制限などを無視できる点、ただし通常の魔道具よりも身力を奪っていく。

 しかし、アンデッドであれば死霊術師としてある程度の制御をすることができる。
 呪われたアイテムな分、そのリスクさえどうにかできればメリットもあるからな。


「それにしても……」

「ど、どうかしましたか?」

「この迷宮の最深部には、いったい何が眠っているのか……少し興味が湧きましたね。単にアンデッド、というわけではないでしょうし。はて、何かご存じありませんか?」

「…………いえ、分かりません」


 絶対に知ってるな、これ。
 情報の共有が肝心だろうに、あるいは……知らない状態で対応させ、そのときの様子もチェックするとかだろうか。

 それ以外にも企みはあるだろうし、決して注意を怠ってはいけない。
 だからこそ、俺も『回廊』にバレないように準備を整えている。

 今頃、それは一階層で胎動しているはず。
 最初はしていた無かった共有によると、監視は全員二階層に来ている……そう、やはり一人じゃなかったわけだ。

 だからこそ、誰も居ないその場所で動物たちが準備を済ませている。
 彼らは体内に仕込まれた血を用い、無数の陣を構築していく。


「……さて、出番はあるのやら」

「?」

「いえ、こちらの話です。それよりも、三階層を見つけました。そちらへ向かいましょうか。…………………………召還」


 呼び出したのは、真っ黒な骨の兵士たち。
 種族名は『邪骨イビルスケルトン』、通常の動骨スケルトンに比べて数十倍の性能を有している。

 そんな彼らを呼んだのは、この先で待ち受けるであろう階層主フロアマスターを倒すため。
 一階層は動物の死体で寄って集れば倒せたが、さすがに同じ手は無理だろうし。

 数体の邪骨を階層主の部屋に向かわせて、サクッとボス戦を開始──そして討伐。
 俺たちは何の苦も無く、第三階層へ足を踏み入れるのだった。



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