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山田 武

偽善者と魔王城潜入 その02



 死霊術師ガイスト。
 嘘か本当か、かつての魔王【不死魔王】の後継者を自称し、高度な死霊術を知らしめている謎の魔族。

 その正体を知る者は、魔族の中には存在しない……アンデッド、そして人族の中には一人ずついるのだが。


「──なるほどな。ミア、ディオが頑張ってくれたお陰で、こんな高待遇がされるまでにガイストの名が轟いていたのか」


 死んでも困らない死霊軍団、その需要はそれなりにあったようで。
 俺が居ない間も、魂魄を偽装してガイスト役を二人が演じて活躍していた。

 どうやら、国を亡ぼす……なんてことはさすがにしていないものの、超級職を持つ自由民を追い返したり、それなりに強い祈念者を殺したりしていたそうだ。

 俺が二人に厳命したこと、それは自由民に限り丁重な扱いをすること。
 蘇る祈念者は容赦なく、むしろ魔王軍だとアピールするように苛烈にやってもらった。


「けど、自由民を逃がして。それを不審に思われたりはしなかったのか?」

「初めは反感を買っていましたが、それ以上に力を示せば何も言わなくなりました。何より、ある日通達が来たからです」

「通達って……まさか」

「はい──【魔王】からです」


 曰く、『目的さえ果たせれば、その内容の貴賤は問わない』とのこと。
 そこまでアグレッシブに、人族を滅ぼす気は無いのかもしれないな。

 いやまあ、実際のところは分からないが、別に強いてくるなら逃亡すればいいし。
 少々【傲慢】だが、どういった契約を課せられようと解除できるからな。

 ともあれ、死霊術師ガイストは任務におけるある程度の裁量権を得た。
 ガイストが侵攻する際、事前に避難勧告をしてから襲うようになっているらしい。

 そのうえで攻めるのだが、強盗や強姦などもいっさい禁止。
 ……というか、後者に関してはそういう部署を派遣してもらっているそうだ。


「そんな部署あるんだな」

「……ええ、あります」

「なら、一度挨拶に……って、冗談だから。その目は止めてくれ」

「「失礼しました」」


 二人(+どうでもいい二人)の視線はともかく、三大欲求の内二つはちゃんとフォローがされているようだ。

 睡眠欲、そしてついでに物欲に関しては、自分たちでどうにかするしかない。
 そんなホワイト魔王カンパニーで、彗星の如く現れた死霊部署。

 その統括であるガイスト課長は、上役にも大変高評価になっているそうで。
 とりあえず、この部屋についてはそんな説明で納得できた。


「それで、わざわざ俺を呼んだってことは、そんな裁量権を与えられている二人で対処しがたい状況に陥っているってことだな。先に結論だけ訊きたい、俺はこれから何をすればいいんだ?」

「「…………」」

「説明しづらいか? じゃあ──騎士、代わりに頼む」


 何やら言い含むミラ、ディオの代わりにいちおうだが雇用している騎士に言わせる。
 俺を好ましく思っていないこの者ならば、正直に教えてくれるはずだ。


「────だ」

「……ん? すまない、もう一度」

「──謁見だ、【魔王】と」

「…………もう一度、は無理か」


 一瞬、耳を疑うレベルの情報を突きつけられてしまった。
 なるほど、それで二人は申し訳なさそうな顔をしているわけだ。

 ここは魔王城、そしてすでにここに来てから何日が経っている模様。
 ……そりゃあ城の主に、挨拶ぐらいしておかないといけないよな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ホワイト企業(仮)な【魔王】社長は、いつも忙しく出張をしていたらしい。
 だがそれでも、日を調整してもらってその面会日を用意してもらったようだ。


「ところで、【魔──」

「「──男です」」

「お、おう……即答か」

「「メルス様には劣りますが、世間一般的にはイケメンです」」


 チッ、男か……最近、魔者連中など会う奴がイケメンばかりなんだよな。
 もちろん、ミアもディオも俺が一からカスタマイズしたから美少女だ。

 彼女たちと居るだけでも、そりゃあ幸せになるけども。
 しかし、人の【色欲】は簡単には満たされない……どれだけ見ても困らないしな。

 まあ、【魔王】については諦めるとして、四天王や例の部署に期待をしよう。
 そこも男だったら……うん、本当にここ、辞めようかな?


「まずは、準備をしようか──ほいっと」


 指を鳴らし、その姿を一度設定した者へ。
 同時に因子を注入し、ただ姿を偽るよりも高い変身を行う。

 死霊術師ガイストは魔族の男。
 普段の俺は外見上、普人なのでその見た目だけで本来の姿と一致させることは難しい。

 何より、<畏怖嫌厭>の呪いすら因子を上手く使えば一時的に無効化可能だ。
 ……なぜかそのときは、因子のお陰かこの美男美女だらけの世界に合った容姿になる。


「……ここまで化けるとは」

「これも俺……いや、私の能力の一つです。これは他者にも使うことができますが……お一つ、いかがでしょうか?」

「遠慮しておく。人の身を止めたいとは、一度として思ったことが無いからな」

「そうですか。一つ付け加えておくのであれば、これは不可逆の能力ではありません。変装や変身、必要に駆られればいつでも言ってくださいね……さて、この口調がガイストのもので合っていますか?」


 事情を知るこの場の者たちで、かつて演じていた死霊術師を思い出しておく。
 うん、これで対応可能だ……さて、謁見までにやるべきことを済ませておこう。



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