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山田 武

偽善者と妖術修練 中篇



 心の籠もっていない応援を受けながら、絶賛妖術の習練中。
 リンカによるスパルタ教育は、体で覚えるやり方です。


「次、基本。“妖化”」

「たしかにそれっぽいけど、じゃあなんでそれからやらなかっとわぁ!」

「既存、妖術。不要、故」


 すでにいくつか、鬼と妖狐の妖術をおさらいしてからの基礎学習。
 しかし、リンカ曰く他の妖術を使うには必要になるんだとか。

 妖術は基本的に、妖怪たち固有の妖気を用いて発動している。
 俺は今まで精気を直接妖気に変換、妖術として使っていたが……他では難しいようだ。

 それができていたのは、あくまでもリョクとグーが恩恵で補助してくれていたから。
 リンカの恩恵は全妖怪に対応しているためか、その方法での補助は無理らしい。


「“妖化”、使用。妖気、活性」

「……つまり、リンカの恩恵も一時的に活性化すると?」

「肯定。挑戦、開始」

「その前に、いくつか確認したいんだが。理詰め派じゃないけど、ちょっとな」


 嫌がりもせず、リンカは問いに答える。
 どうやら“妖化”は全妖怪共通の能力で、妖怪としての性質を強化する妖術らしい。

 獣人が持つ獣化同様、その身に宿る性質によって異なる力を発揮するとのこと。
 鬼系統の妖怪なら基本的には膂力が増し、妖狐系統の妖怪なら主に幻術系統が強まる。

 ただし、獣人が獣化スキルを覚えているように、妖怪であれば妖化スキルを持つ。
 妖術として“妖化”を使うのは、それを覚えていない幼体や半妖怪などらしい。

 スキルと妖術、その違いはシステム補正がどこまで及ぶかだ。
 レベルで成長する分、性能の強化幅はスキルだ……しかし緻密な調整は妖術とのこと。

 もちろん、同時に併用すればその利点を合わせることができるんだとか。
 ……消費が増えるので、あまり使われないらしいが。


「質問、以上?」

「ああ、これで充分だ。待たせてすまない、“妖化”を教えてくれ」

「了承」


 スキルとして妖化をリョクとグーは保有しているが、それは鬼と妖狐に合わせた形の妖化なため、ズルはできない。

 最初はその二種族の“妖化”で慣らし、各種族に合わせた“妖化”を行うとのこと。
 まずはリンカが行い、それを視て自分でできるようにする……見取り稽古である。


「否定」

「痛ッ!」

「否定、否定、否定、否定……」

「ちょ、待っ……説明、してくれ!」


 スパルタなリンカ先生のご指導の下、まずは鬼の“妖化”を習得。
 ……次に挑む妖狐の“妖化”は、まあ耳と尻尾に誘惑されて更に時間が掛かったが。

 もちろん、鬼っ娘なリンカもそれはそれでなかなかに萌えたけども。
 そちらの衝動は、せいぜい──二、三十回怒られればちゃんと収まったよ。


「…………遅延」

「ず、ずびばぜん」

「次、妖怪……選択」

「うーん、そうだな……天狗、天狗にしてくれないか?」


 思い出すのは、妖界で遭遇したある天狗。
 今頃、何しているのかな……まあ、そうして本物を見ているからこそ、他の妖怪に比べて意欲が湧いたのだ。


「了承。手本──“妖化”」

「おおっ、天狗っ娘も──」

「──“病魔風ヤマカゼ”」

「萌ぇええええ!」


 萌え文化に興奮したわけじゃ……いや、していたけども、意図した絶叫ではなく、脅しとして吹いた病の風から逃げただけだ。

 鼻も伸びておらず、顔も真っ赤と言うわけでは無いが……ほんのりと頬が赤くなり、背中からは鳶の羽が生えている。

 俺のイメージ的に、カラス天狗という単語からてっきりカラスの羽が生えるものと認識していたが……リンカ曰く、個体差のようなものらしい。


「闇属性、あるいは邪に染まった天狗は黒羽なのか。そういえば、荒神だったな」


 俺の出会った天狗の妖怪──天魔雄あまのさくは、正式に言えば天狗ではないのだが。
 まあ、天狗の性質も持ち合わせており、さりとて荒神なので黒色だったわけだ。

 疑問もすっきりしたので、天狗の“妖化”習得に向けて習練を開始。
 何度もリンカの「否定」を聞きながら、彼女の中で渦巻く妖気を再現していく。

 これまでの“妖化”と違い、俺を補助してくれていたリョクやグーの恩恵は無い。
 目の前に居るリンカの姿、それだけを参考に体内の妖気を調整する。


「否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定、否定……」


 否定の数だけやり直しを繰り返す。
 割と感覚的なものなので、リンカの妖気とまったく同じにしても意味は無い。

 そりゃあ性別、体格、精気の質などさまざまな観点が違っているのだ。
 参考にはできるけど、それを模倣しても俺個人が成功するわけじゃない。

 なのでこれまでに成功した二つの“妖化”と比較し、どういった比率であれば成功するのかを演算しながらのトライ&エラー。

 間違っていればちゃんとリンカが指摘してくれるので、検証を繰り返すだけでいい。
 そうして挑戦回数が数百回にも及び……ようやく──


「──肯定、成功」

「よっしゃぁ!」


 成功した俺の姿は、まさしく天狗に……などなっていなかった。
 因子を打ち込んだ時ならばともかく、素地として天狗要素が何も無いからだ。

 それでも妖気だけを見れば、間違いなく天狗のソレ。
 リンカのお墨付きなのだ、それは間違いないだろう。


「選択。妖術、“妖化”」

「しっかり形にするなら、どっちがいい?」

「…………妖術。“妖化”、定着」

「分かった、じゃあ妖術を教えてくれ」


 ということで、以降は“妖化”に成功した妖怪の妖術を覚えていくことに。
 千差万別、多岐に渡る妖怪の数々……一日だけじゃ、絶対に終わらないな。



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