AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と愚者の狂想譚 その17



 堕天使モドキが集まって、何かをしでかそうとしていた。
 正直きついが、体を酷使してどうにか防ごうと空へ向かった──が。


「げぶっ!」


 その独りよがりはバレていたようで。
 俺の進路を阻むように、巨大な茨が地上から急速に伸びてきた。

 ぶつかった後、俺を優しく受け止めるサービス付きだ。
 こんなことができるのは、俺の知り得る限り彼女しかいない。


「間に合った! ……ハァ、あんまり無茶はしないでほしいな」

「リア……でも、アレは!」

「分かっている、分かっているとも。けど、もう限界じゃないか」

「…………」


 機械の翼……はまだ難しいようで、茨を経由してやって来たリア。
 彼女は俺を見ると、それまで浮かべていた焦燥感を一気に無くした。

 制限時間が過ぎ、“劉展粒羽ドラグリュウレ”はもう解除されている。
 自ら飛ぶための翼を失った俺に、頭上で胎動するアレをどうにかすることはできない。

 大きく深呼吸し、意識を切り替える。
 分かっている、そうリアは言った……ならば愚かにも突貫しようとした俺よりも、優れたアイデアを持っているのだろう。


「──で、僕は何をすればいいの?」

「そんなキリッとした顔で見られても……ぶふっ。残念だけど、君はお留守番さ」

「!?」

「いや、そんなに驚かれても……勝手に飛び出しちゃダメじゃないか」


 今の姿に相応しい、子ども扱いをされる。
 頭を撫でられた俺は、無意識でムッとした顔を浮かべることしかできなかった。

 いやまあ、もう[ドラグリュウレ]は使えないだろうから、やるにせよ本命・・以外は何もできないけどさ。

 それでも何かやりたい、彼女たちだけに任せるのは……と思うのが男心だろう。


「それともアレかな。ぼくたちじゃ、信用できない?」

「…………そんなわけないじゃん」

「なら良かった。じゃあ、観ていてよ。まだまだ、ぼくたちが頑張れるところをね」


 ちょうどそのとき、堕天使モドキのやるべきことは終わったようで。
 空で声高々に咆える、一匹の『獣』が降臨した。


「手足がいっぱい、それに羽もたくさんだ。けど……負ける気はしないね」

「あっ、リア!」

「そこに……居られると少し心配だから、そのまま送るよ。特等席では無いけども、しっかりと見ていてくれるかな?」


 茨はゆっくりと、そしてがっしりと俺を拘束したまま城壁へ。
 そして、待ち構えていたシェリンが俺を回収すると、再び上空へと伸びていく。

 残されたのは、少々張り付いた気がしないでもない笑みを浮かべるシェリン。
 そして、彼女とは対照的に膨れっ面を浮かべる義娘のジリーヌ。


「父君! 父君はわたしを信用してくださらないのですか!?」

「し、信用はしてるよ? で、でもね、やっぱりアレは危ないというか……」


 集合体がああなったのは別にしても、どうせ面倒な性能を持つことに違いはない。
 そして、もしその中に精霊を殺すような能力があれば……俺はそれを恐れた。

 ジリーヌは元ジャック・ザ・リッパー。
 その伝承に基づき構築された、精霊という不定形であるが故の依り代。

 攻撃に特化している暗殺者という役割を与えられたからこそ、彼女は戦えていた。
 その分、耐性などの方はまだまだで……最悪の場合を、俺は考えてしまう。


「お、お姉さん……」

「たまには、いい薬じゃないか。少しは怒られた方がいいと思うよ」

「お姉さん!? ……はっ!」

「ち~ち~ぎ~み~~~?」


 頼ろうとしたシェリンは俺を見放し、背後には頬を膨らませたジリーヌが。
 このままでは正座ルートに……と思った直後、上空で爆発が起きる。

 ──今だ、今しかない!


「大変だ! すぐに行かないと!」

「大丈夫、全員無事さ。だから君は、ちゃんとジリーヌと向き合うんだね」

「……父上。わたしとのお話は、お嫌でしょうか?」

「い、嫌じゃないけど……今は、座っている暇は無いと思うな?」


 ……ダメでした。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 それでも諦めない俺は、持ち得るすべてを使ってどうにか状況把握に努めた。
 魔術……は使用すればバレるので、技能系スキルに限定されてしまったが。

 正座に加え、なぜか俺は下を向くことが義務付けられていた。
 ……おそらく、“擬短転移フラッシュブリンク”の使用に視界が必要とすることが知られているからだ。


(集中スキルで探知系スキルを補助。なぜか適性のある話術に関するスキルでどうにか誤魔化して、二枚舌スキルで詠唱を開始。バレないように無音で頑張って……結局そこまでの情報は掴めなかったんだけどさ)


 しいて言うのであれば、無音詠唱と省略詠唱のスキルを獲得できたぐらいか。
 魔法のスキルは使えないが、レベル0状態ぐらいでの行使は可能だ。

 可能であれば、風系統の魔法で探知範囲を拡大したかったが……それは失敗する。
 俺の怪しい挙動をシェリンに見抜かれて、『お話』が長引いたからな。

 探知スキルも頑張ったのだが、少女たちが全員闘っていたことしか分からなかった。
 そして、堕天使モドキの塊が序盤以外ほぼ何もさせてもらえずにやられたことだけ。

 ……うん、強すぎるんだよみんな。
 仮に【魔王】たちと力を合わせてやるような戦いだったなら、間違いなく何人か殺されそうな技っぽいのも出していたし。

 だが、結果としてたった数人にリンチを受けてあえなく敗退。
 誰一人殺すこともできないまま、邪神の使徒である堕天使モドキは全滅。

 間違いなく、物語としては落第だ。
 しかし、少なくとも【魔王】にとってこの展開は……嫌いではないだろうな。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品