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山田 武

偽善者と愚者の狂想譚 その16



 笠になっても性能はピカイチ。
 光を吸っては[ドラグリュウレ]の能力を発動し、堕天使モドキたちを内側から炸裂させていく。

 近寄ってくる個体はジリーヌが処理してくれるので、それに対する防御は必要ない。
 可能な限り、技の発動に必要な光の充填にのみ注力する。


「並列行動スキルで同時制御すれば……だいぶ慣れてきたね。魔法陣を複写と記憶と速筆で作って、“光球ライトボール”を増やすこともできたし……うん、これなら充填速度も上がるね」


 魔本と違い、魔法陣は触媒を使って正しく描ければスキルが無くとも使用可能だ。
 周囲に複数の魔法陣を描いた俺は、それなりに魔力を籠めて光の球体を生み出す。

 魔法陣は、事前に書いた通りの事象しか起こすことができない。
 なので決めた通り、光の球は俺の頭上でただ浮遊しているのみ。

 ……傍から見ればシュールな光景だが、それをやっている当人は至って真面目だ。
 充填速度が上がったことで、これまでよりも“破転攻・光血”を使えるようになった。


「シェリンお姉さん、数がだんだん減っているような気が……」

「どうやらあの数は、邪教徒たちの数に比例しているようなんだ。気絶させるだけではダメだったから、初めの方は数を減らすことができなかったんだけどね」

「……どうしたんですか?」

「そんな表情をしなくてもいい。誰一人、殺してはいないよ。彼女たちは気にしないだろうけど、それを思い悩むことを君が気にするだろうからね」


 俺の顔は、そんな風に見えるらしい。
 生きている世界が違うので、日本人のような殺人に対する忌避感ははっきり言って俺たちよりも薄い少女たち。

 こういった部分も、過保護だと言われる要因なんだろうな。
 まあ、俺も俺で邪教徒は殺しているので、今さらな気がしないでもないけど。


「そう、殺すと殺すでまた問題が起きそうだからね。リア君の茨で魔力を吸い上げたところ、少しずつ数が減っていったよ」

「そういう理屈だったんですか……じゃあ、今はその作業に全員が?」

「そういうことさ。だから、アレの相手はそろそろ終わりにしようじゃないか。ジリーヌも休ませてあげたいからね」

「分かりました。じゃあ、十割使ってやりますね──“破転攻・光血”!」


 これまでは一割か二割で発動してきた笠の能力を、いきなり十割で解放。
 俺の周囲に浮かぶ膨大な数の光の矢は、それこそ光速と呼べる速さで飛んでいく。

 堕天使モドキと戦うジリーヌを避け、それらは命中。
 血飛沫や炸裂もまた、爆裂と呼べるほどの勢いで吹き飛ばしていく。


「…………うん、使うの止めます!」

「これは……そうした方が良いだろうね」


 血の連鎖は上空で続き、対象が居なくなるまで止まらない。
 逃げる個体が一体も居なかったのが、その主な理由だろうけど。


「これで終わりになりますかね? なんというか、特別苦労することが無かった分、純粋な力押しが一番楽だった気がするのですが」

「そうだね……今、連絡が入った。もし殺していたら、アンデッドになる呪いが施されていたらしい。同時に、リミッターが外れて堕天使モドキの出現も増える仕組みになっていたようだよ」

「……悪辣ですね。それを信者が望んでのことならまだしも、たぶん強制でしょうし」


 まあ、この時代にアレだけの数の信者が居るとも思えないのだが。
 祈りは複製できない、だが今回のような生贄であれば複製体でも問題ない。

 過去、現在、そして未来に居たであろう邪教徒たちを複製しているのだろう。
 全部レベル1でも、最低限堕天使モドキの召喚(?)には困らないはずだ。


「本来の切り札を封じたんだ、これ以上の悪化は見込めないだろう」

「…………」

「どうかしたのかい?」

「お姉さんの言葉、いかにもなフラグみたいで──あっ」


 そして、俺の台詞もまたフラグを確定させてしまうようなものだった。
 だからなのか、このまさにというタイミングで状況は変化する。

 炸裂させていた堕天使モドキ、それらは爆発した後にどうなっていたのか。
 召喚獣や祈念者たちのように、粒子と化して消えていた。

 違うのは色、複数の色を混ぜたかのような混沌染みた黒色。
 空気に融けて消えていったはずのそれは、突如として宙に集まり出している。


「これは……不味いかも──」

「──“劉展粒羽ドラグリュウレ”!」

「わっ……父君!?」


 十割を使った充填だが、終了後も魔法陣で創った光が僅かながらに回復させていた。
 総量で言えば一割にも満たない、そんな微量な充填で発動させた必殺技のようなもの。

 四つの内の一つ、それはその他三つの能力すべてのイイとこ取り。
 編み笠が一時的に物質変換され、俺の背を支える六枚羽と化す。

 吸血鬼の蝙蝠羽、ただ独り劉のみが持つ漆黒の翼、そして──威風すら放つ銀の龍翼。

 それらを同時に羽ばたかせて、降りて来ていたジリーヌを抜き去り上空へ。
 制限時間はすぐに終わる、六つの羽にやるべきことを伝達し──解放する。


「──“光血”、“武黒”、“白夜”!」


 蝙蝠の羽は光を生み出し、劉翼は周囲に武器と俺を守る鎧を。
 そして、銀の翼はそれ自体が発光し、俺という存在を一時的に引き上げる。

 ナニが出てくるかなんて分からない。
 しかし、それがこのイレギュラーな事態を引き起こした者たち──特に少女たちに向けられたモノだということだけは分かった。

 ならば、俺がやるべきことは一つ。
 常識もお約束も知ったことじゃない、彼女たちの道を阻むモノすべてを消し去るのみ!



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