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山田 武

偽善者と魔王の写本 前篇



 童話世界 セントラルターミナル


 ──俺は何度も、魔王と遭遇している。

 種族として、王位に就いた者。
 職業として、高みに登った者。
 存在として、魔へと至った者。

 その形はさまざま、しかしその誰もが相応の力を得ていた。
 それこそが魔王という存在、ある意味世界から祝福された者ゆえの力なのだ。


「さて、全員集合……するんだな」


 童話世界、それは俺がこれまで解放してきた魔本の中の世界を集めた複合世界。
 そして、現在居る駅のようなこの施設は、それらの世界を繋ぐ中核となる建物。

 その最深部へ向かうためのエレベーター前に集合したのが、今回同伴を望んだ者たち。
 それぞれ、まったく異なる世界感の衣装を身に纏う少女たち──童話の主人公たちだ。

 その一人、十二単の着物を羽織る黒髪の少女は……とても寂しそうな顔をしていた。


「──おいや、でしたか?」

「いや、そうじゃないんだがな」

「ほう、やはり嫌であったか」

「……そんな古典的な。否定的じゃない、ただ思うところがあるだけだ」


 途中からコロッと表情が変わり、俺をからかうように勝気な笑みを浮かべる彼女。
 ……うちの眷属、人格が切り替わる子がそれなりに居る気がするな。


「輝夜様……あまりからかわないでくれ」

「事実ではないのか? かぐやがいったい、どれほど待ち望んでいたことやら」
『か、輝夜!?』
「隠す必要などない、事実ではないか」

「そういう問題じゃないと思うんだがな」


 かぐやと輝夜、その違いは生まれた環境。
 かぐやは翁と媼に育てられた方で、輝夜は月に居た方の人格……本来は最終的に後者の人格のみが残るはずだった。

 だが俺が手を出ぎぜんした結果、かぐやの人格もまた残る。
 二人は共存を選び、一つの体で二人分生きているのだ。

 まあ、アリィとアリスみたく分離できなくも無いのだが。
 老夫婦への説明などもあるので、今はまだ実行していない。


「ほう、ではどういった問題だと? ……そうじゃな、そこの娘──答えを」

「……私……?」

「そう、お主だ。星銀の娘、お主はこやつをどう想う?」


 輝夜が声を掛けたのは、オーロラのように輝く髪を持つ少女。
 無機質な瞳をパチクリしながら、首を横に傾げる。

 童話『星の銀貨』の世界で、身を捧げていた信仰深い少女。
 己のすべてを【献上】し、本来は幸せになるはずだった。

 しかしまあ、こちらの童話は基本的に不幸な結末を改変するという在り様。
 だからなのか、俺が何もしなかったら普通に死んでいたと思う。

 そんな彼女を約束の場所まで連れていくことで、物語は結末を迎えた。
 ……その後の話はいろいろとあるが、本編では出てこなかった貴族などと揉めたな。


「……。……分からない……でも、ノゾムは恩人だから?」

「ふむ、自身の感情を理解できておらぬか」

「…………?」

「まあよい、答えはよく分かった──妾はしばらく寝る、あとは任せたぞ…………えっ、ちょっと待ってください、輝夜!? ……あの、そ、そのう……あぅ」


 再び人格が切り替わり、輝夜が引っ込み代わりにかぐやが表面に出てくる。
 当然、視線は彼女に集中するわけで……顔が真っ赤だ。

 これは不味いな、と思い両手を合わせた音で注意を引く。
 いつまでもここに居るのもアレだし、ここからは歩きながらにしよう。


「はーい、とりあえず準備はできたということで。今から目的地に行くぞー。いちおう点呼するぞー──シャル、リラ、カグヤたち、シェリン、そしてリア」


 一人ひとり名を呼べば、それぞれしっかりと返事を返してくれる。
 だが、最後の一人に俺はジトーっとした視線を向けた。


「リア、なんで参加するんだ?」

「決まっているだろう、ぼくだっていちおうは童話『眠り姫』の主人公らしいからね!」

「……そんなノリで来られても。いやまあ、別にいいけどさ。ただお前さん、たぶん今の姿を国の人たちが見たらどう思うことやら」

「──これこそがぼくさ!」


 お姫様と言われてイメージするのは、やはりフリフリの付いたドレスだろうか。
 それとも追加で『騎士』を付けて、鎧姿のクッコロさんかもしれない。

 ……だが少なくとも、体の所々に機械を装備しているのは『お姫様』じゃないと思う。
 ついでに言うと、それら一式の装備を自分自身で開発している辺りも。

 そんな彼女に引くでもなく、むしろ興味深そうに眺めている者が一人。
 鹿追帽を被り、インバネスコートを身に纏うその姿は──まさに探偵だ。


「へぇ、興味深い。機械産業はこちらでもやや発展しているが、君の物は明らかにそれと技術レベルが明らかに異なっているね。それこそ、彼の持つ魔術デバイスと同程度には」

「! 分かってくれるかい?」

「当然だとも、一つひとつが君用の特注品。いや……君がその製作者か。オーダーメイドにしては、少々味のあるデザイン過ぎる。それは制作者である君自身が、良しとしたからと分かるわけだ」


 童話……否、異説を記した魔本『霧の都と殺人鬼伝説』に存在した探偵の一人。
 俺と共に事件に挑み、そして真実を暴いてくれた名探偵である。

 そんな彼女は、この場でも探偵としての振る舞いを忘れていない。
 リアの装備する機械を見て、それを彼女自身が作ったモノだと当てたようだ。

 ……なお、鑑定スキルで視れば一発だろうと無粋なことを言ってはいけない。
 そういう行為はマナー違反だし、何より面白くないからな。


「──って、また止まりそうだな。とりあえずみんな、エレベーターに乗ってくれ!」


 もっとも最後に童話世界と繋いだシェリンも、エレベーターの概念自体は覚えている。
 なので、それそのものには誰も驚かず、地下へとエレベーターは向かうのだった。



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