AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント番外篇 その08



 廃都と迷宮にて、同時プレイの真っ最中。
 西でまったり生産を行いつつ、東では弓を引き人々に命中させていく。

 それだけでも、充分にこの地の人々の救いになったと思う。
 ……しかし、俺の感覚が掴んだソレは、矢による救いだけでは無理だろうなと感じた。


「この辺り……かな? グー、“真理究明”と“情報解析”。クー、“超速解析”と“無偽欺瞞”、それに“直観認識”を」


 金の刺繍が施された、真っ黒な本を展開。
 先ほどガーと振動での探知をしたが、それだけでは暴けなかったナニカを見つけるべく違和感を感じる辺りに解析を行う。

 同時に小さな冠の形をした、純白の腕輪も起動する。
 武具っ娘の中でも、二大解析能力持ちの二人に本来暴けないソレを見つけてもらう。

 その結果、空間に歪みのようなものがあるのを確認。
 ただし、外側からは干渉できないよう結界による拒絶が行われている。


「フー、“接触反転”と“因果改変”を。そしてホー、“進停自在”と“奔放横恣”を」


 それに対して俺は、虹色の籠手と黄金の腰布を用いて応じた。
 その二つが輝いたことを確認し、俺は違和感の発生源に手を突っ込む。

 二大解析能力の次は、二大運命干渉能力。
 眩い光を発揮しながら、空間の歪みを強引に広げていき──侵入可能なレベルまで押し広げた。

 それでも抵抗するように、またこれ以上は隠せないと感じたのか。
 どす黒いエネルギーを放ちながら、こちらへ棘を向けてくる。


「無駄無駄──トー、“身力反射”。二―、“不折不倒”」


 今度は首に巻いたチョーカーと履いていたレインブーツ。
 飛んできた棘は俺を刺し貫くことなく、自身に衝撃を反射させていく。

 たとえ攻撃以外の干渉能力を持っていようと、レインブーツが灰色に輝く限り、その効果が俺に及ぶことはない。


「シー、“夢想空間”と“夢幻干渉”。そしてヤン、“形状変化”──“絶対切断”」


 紫紺に妖しく輝く白銀の指輪が、周囲に同色の煙を蔓延させる。
 後者の夢に干渉できる力を、先に空間を確保することで発動可能にした。

 そして、能力行使と共に血塗られたようなエフェクトが発生する出刃包丁。
 大きさをマグロ解体用の巨大な物にまで拡張したソレで、空間を一薙ぎ。

 抵抗はついに終わり、道は開かれる。
 禍々しいそれこそは、今回迷宮に一騒動起こさせたナニカが溜まった空間。


「スー、結界をお願い……よし、それじゃあさっそく──」

《ほい》《…………!》

「……あー、ゴーも“君臨領域”をね」

《! う、うむ!》


 スーの結界で、内部での干渉を防いでそのまま中へ……入ろうとしたのだが。
 強い要望の念を感じ、ゴーにもとりあえず領域を展開してもらった。

 ……ごめんな、明らかにシステムから逸脱しているから無効化能力も使えないし。
 配下もとい誰もつれていないから、バフも貸せないからつい……な。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ■級■■ ■


 世界に存在を認識させるため、とりあえずは迷宮という形を取っているソレ。
 ある意味、間違った形ではあるが『宙艦』と同じ理屈なのかもしれない。

 自ずと動き、その意志を以って干渉する。
 迷宮としての在り方を逸脱し、遺志に従い目的を果たす──まあそもそも、迷宮都市の迷宮は願いの産物だからな。


「ここから、本当なら激しいバトルの末に深奥へ辿り着いたりするのかな? でも、あんまり時間は掛けたくないんだ。だから、拓かせてもらうよ。[裂覇]──“破界伐採”」


 取り出すのは小さな両刃斧。
 与えられた銘は『断界斧[裂覇]』。
 俺が良く使う[花日]、[水月]と同じくオリジナル神器の一振り。

 名前の通り世界すらも断ち得る斧。
 その向かう先はこの迷宮を模したナニカすべてを根源から伐り落とす一撃。


「せーの、そいやぁ!」

『■■■■────ッ!』


 斧を、薪でも割るみたく縦に振り下ろす。
 真っすぐに突き進んだ破壊の衝撃は勢いよく、在り得たであろう障害すべてを俺が気づく間もなく破壊していく。

 それを知り得るのは、ナニカが上げた断末魔でのみ。
 ……うん、断末魔を上げている時点で、普通の迷宮じゃないよ、ここ。


「うん、じゃあ次は……って、ん?」

『────!』

「あー、怒っちゃったか……でも、それってつまり、世界への恨みより、私への恨みの方が強くなったってことかな? うん、それならそれで私も嬉しいよ──世界よりも私を優先してくれるなんて」

『■■■■────ッ!』


 ここに渦巻く膨大な量の負の怨嗟、負のエネルギーの総体ともいえるソレはこのとき始めて俺を強く認識した。

 俺こそが、この地で起きたイレギュラー。
 地下の魔法陣を破壊し、迷宮を踏破し、集まるはずだった更なるエネルギーを簒奪していった者なのだと。

 故に全力を以って、世界に向けていたあらゆる怨嗟を呪いのように吐き捨て。
 俺を呪い殺さんと、残されたすべてを籠めて襲いかかってくる。

 ──ならば応えよう、その想いに。

 それこそが、偽善者としての正しき振る舞いだろう。
 それこそが、力を持つ者としての細やかな責任だろう。


「ギー、“完全再現:明るき未来の証”」


 呼んだその銘は虹色の水晶。
 詠んだその名は少女の軌跡。

 俺のパーソナリティでは、決して行うことのできない未来への展望──世界を書き換える魔導の力がこの場所で発揮された。



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