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山田 武

偽善者と陣営イベント番外篇 その07



 ラスボス(真)が頑張って、強大な敵役を演じている頃。
 その状況を聞きつつも、待ったりしている俺……うん、これがスローライフか。

 創作物などのスローライフは、なんだかんだ言いつつもイベントに溢れていた。
 ……そりゃあ商業でやっているので、ただ暇な時間を過ごすだけでは売れないだろう。

 だからこそ、代わり映えのしない日々とはどういったものかを俺は知らない。
 眷属との日々はとても刺激的で、暇と呟いても結局は楽しめるんだよな。


「けどここは……うん、僕も僕で、いつもの生活に慣れ切っちゃっていたのかな?」

《それこそが、わたしたちの計画ですので。わたしたち抜きでは生きていけないほど、骨抜きになっていただきますよ》

「……うん、いっしょに幸せになろう」

《──。すみません、もう一度お願いできますでしょうか? ええ、他意はありませんので、今集音機をお持ちしますね》


 他意ありありの発言に関しては、聞こえなかったことにしよう。
 俺は眷属の幸福を願っているが、彼女たちもそう……だったらいいな。

 そのためにも、やらなければならないことはまだまだたくさんある。
 少なくともこの世界では、ほぼ最強かつ不死なのだ……確実にこなしていこう。


「ふぅ……アン、みんなはどうしてる?」

《南と北、そして西の眷属は帰還し、現在は中央の観戦に乗じています。東の眷属はメルス様のご指示通り、氾濫した迷宮への対応に追われています》

「そっか……って、氾濫?」

《はい。ラスボス出現と同時に、S級迷宮の一部が氾濫しました。探索者たちが対応しておりましたが、それだけでは足りず……その対応に『冥犬』と『節介』が動きました》


 いつの間にやら、[選択肢]が示した東側でもう一つの戦いが起こっていたらしい。
 迷宮に残っていた悪意の残滓は、もうラスボス(笑)のときに終わったと思ったが。

 どうやらまだ残っていて、ラスボス(真)に呼応して動き出したようだ。
 これもまた、ラスボス(真)が悪意の産物か何かを持っているからか?

 それともあるいは……目覚めた力が、相応に悪意に満ちているのかもしれない。
 不可能じゃない、なればこそ真に自由なこの世界はすべてを許容するだろうからな。


「うぅ……うーん……」

《おや、メルス様。もしや……スローライフはお飽きになりましたか?》

「そうなんだよねぇ。いや、生産をしていること自体はいいんだけどね。スローライフも別に、ただただ同じことをしているわけじゃないわけだし。うん、だから二ヵ所を行き来する作品が流行りだしたわけだね」


 代わり映えの無い生活をしつつも、都会という華やかな場所での描写も出す。
 だからこそ……って、そういう話をしている場合じゃないか。

 そう、ラスボス(笑)をやっていた時と同じように、俺が二人いればいいのだ。
 争いの無い時間と望む振る舞いができる時間、それを共に確保できればいい。


「そうと決まれば、さっそく……いちおう確認しておくけど、オススメはどこかな?」

《やはり迷宮ですね。防衛に手いっぱいで、まだまだ内部への逆進行は進んでおりませんので》

「了解。それじゃあ、僕は精霊といっしょに生産をやるから」
「──私が向こうで戦闘だね」


 構築するアバターはメル。
 幼女姿なのに特段理由は無いが、やはり作り慣れているアバターであればあるほど、構築も簡単だからだ。

 今回は暴れたいので、武具っ娘たちにも少し力を貸してもらおう。
 そう連絡すると、即座にメルの体には豪華絢爛な装備が次々と装着されていく。


「──うん、じゃあ行こうか!」
「行ってらっしゃーい」


 なお、結局はどちらも俺が操作しているのでやはり虚しい。
 ……いやまあ、すでにナシェクとこれに関するやり取りをしたので、もういいけど、

 ついでに言えば、今回は精霊たちが生産側には居てくれる。
 そして、戦闘側は武具っ娘たち……そう、独りじゃないからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 イベントエリア(東)迷宮都市 


 転移した俺が目にしたのは、都市内に侵入した魔物たちと戦う探索者の姿。
 俺はまず情報を探るべく、不思議な形をしたラッパ──ガー経由で振動魔法を発動。


「──“振動探知ソナー”」


 魔力の波が都市中に送られ、反響して再び俺の下へ。
 それらの情報が脳内で整理され、どこに何があるかを正確に把握可能となった。

 まずは俺が救うのではなく、先んじて動いていた者たちの支援を行う。
 取り出すのは桜色の大弓チー、空に向けて能力と共に発射する。


「まずは“無尽射撃”、“必発必中”──そして“救生済矢”」


 矢の増える能力で探索者の数だけ矢を増やし、それらを確実に命中するよう設定。
 そして、矢の性質は攻撃性のあるものではなく当たったら回復する特別な矢へ。

 桜色の矢は人々に命中し、失われた体力や傷ついた体を癒していく。
 攻撃を以って迎撃した者も居たが、触れた時点で矢は効果を発揮する。

 ……一部、通常の回復方法では反転してダメージを受ける者も居たが、“救生済矢”はたとえアンデッドでも癒せるので、自分が回復する光景にかなり驚いていたな。


「これでよしっと……じゃあ僕は、あそこに行こうかな」


 俺が目を向ける場所、そこには迷宮へ繋がる転送陣など存在しない。
 しかし、それでもそこには何かがある、それを確かめるべく俺は前へ進み出る。



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