AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント終篇 その12



 呪いを蓄え、[コウジュコウ]はさらに強くなっていく。
 参加者たちも抗うが、新たな呪いを生み出すだけで手数は無限に増える。

 だが、あまり無茶もできない。
 これまでは他への対処もあって、参加者全員が[コウジュコウ]と相対していたわけでは無いからだ。

 その状況が変わり、今やもっとも優先して討伐すべき対象になった[コウジュコウ]。
 つまり、眷属たちが抑えている特級戦力候補はともかく、最上級戦力が動き出す。


『……これは』

「オー嬢……お姉ちゃんの歌だね。『聖女』様の歌だから、固有スキルとか職業の補正もあって凄い効果があるんだ」

『これが、当代の聖女なのですか……』

「まあ、あくまでも祈念者──死んでも絶対に蘇えれる集団の中で、だけどね。それでも実力があることはたしかだし、何より……呪いよりも伝播速度が速いからね」


 接触する必要がある[コウジュコウ]に対し、彼女──オーの歌は聴くだけでいい。
 奏でるのは破邪の歌、呪いをも吹き飛ばす清涼な声がこの場一帯に響き渡っている。

 すぐに[コウジュコウ]もオー嬢さんを問題視して対処に動くが、周囲には親衛隊が居て彼女には蝗一匹近づけはしない。

 護衛をすると、特に隊長がな……超級職の【聖櫃王】なので、今回みたいな場合だと絶対の守りを誇る。


「で、向こうが『勇者』の一人。仲間以外にも、敵対する人や見知ったことのある人、とにかく縁を結ぶだけで強くなるんだ。要するに、世界一周すると最強になれる人」

『……なんですか、その異様な能力は』

「いちおう僕も持っているけど、持ち主以上には使えそうにないね。で、その周りの人がお兄さんのハーレムメンバー。把握している限り、まだまだラブコメ中だよ」

『ラブコ……ああ、あのに聞いたことがあります。いつまでも引き延ばし、優柔不断に終わることが多いというヤツですね』


 ミコトさん……ラブコメに対する認識が割と辛辣だな。
 だがまあ、そんな『勇者』──フレイに実力があることはたしかだ。

 今では仲間にもそんなチート能力が付与できるようになったのか、友好的な証である白色の炎をハーレムメンバーたちが纏い、通常以上の火力を出しているのが確認できる。


『ところで、『勇者』は他にも?』

「うん、『勇者』だけ特別にね。えーっと、あそこ。あそこで独りで頑張っているのが、もう一人の『勇者』だよ。灯りさえあれば、それを自分の強化に使えるんだ」

『…………私の知覚能力が間違いでないのであれば、そんな『勇者』に大量の蝗が群がっているのですが?』

「えーっと、あのお姉ちゃんはちょーーっとだけ不幸だからね。たぶん、寄せ集める呪いとか、命には関わらないけど地味に不幸な呪いだけいっぱい付いちゃったんだと思うよ」


 あまりの多さに、周りも引いて彼女──エクラは独りで孤軍奮闘中だ。
 しかし、彼女が『勇者』の力で倒せば破邪の力が乗るので確実に蝗を消し飛ばせる。

 だが、それ以上に群がっているのも事実。
 うーん、人を呪わば穴二つ、とか一匹いたら百匹いるとか、そんな数が増える(?)みたいな呪いが奇跡的にヒットしたのかもな。


「他にも『英雄』、『賢者』、『魔王』とかも居るけど、今回は普通に活躍するぐらいだからいいかな。とにかく、[コウジュコウ]がやられるのも時間の問題だと思うよ」

『では、その間に貴方は何をするのでしょうか?』

「そうだね──よし、特級戦力を一人っておこうか」


 デバフ使いの祈念者、特殊な剣を使う自由民、遺産で強くなる魔族の自由民、そして魔物の四人(三人と一体)。

 彼ら、そしてアルカがラスボス(笑)に挑むと苦戦すること間違いなし。
 なので可能な限り、それらを事前に削いでおきたかった。


「うーん、一番厄介なのは、やっぱりデバフ使いかなー。ナシェク……には、今回は頼れないから、鎧の方だけ専念してね」

『……大丈夫ですか?』

「うん、少しばかり大変だけど、今できる方法でなんとかするよ──ドゥル、夫婦刀を出してくれる?」

《仰せのままに、我が王──[貔截ヒタチ]、及び[貅霓キュウゲツ]を転送します》


 山刀と長刀型の妖刀を転送してもらい、短剣の代わりに装備。
 運を溜め込むことができ、それを実用的に活用する能力を持つ。

 デバフ使いを狙うに当たり、まずは俺の致命的な凶運をどうにかする必要がある。
 抵抗値の成否は、強制付与の判定方法次第なので不確定だからな。

 せめて運だけで決まりませんように、そして仮にそうだったとしてもなんとかできますように……そう想うが故の二振りだ。


「それじゃあ、行くよ──“縮地”!」


 武技ではなく縮地スキルの方を使い、一気に玉座の後ろから移動を開始。
 移動には空歩、立体機動を用いることで、武技を用いた壁歩きを超えた動きを見せる。


「そして一気に──“限界突破”!」
《──魔力体・闇、人族殺し、強者殺、悪逆非道、不屈、辻斬、首狩、背水の陣、切断強化、斬撃強化、剪定、不意打、証拠隠滅、暗躍、行動予測、精密操作、暗殺術、幸運》


 それと同時に、限界突破スキルを能動状態で起動して対人用のスキル群を強化。
 一部ネタっぽいスキルも混ざっているが、まあ……幸運に任せよう。

 二刀流にこだわらず、今は[貅霓]だけを手にして構える。
 宙を勢いよく蹴りだし、デバフ使いの下へ刃が届く瞬間に小声で呟く。


「──『居合イアイ十式ジュッシキ』」


 超高速で鞘から長刀を抜刀し、首を狙う。
 不可避ではない、それでも今の俺にできる最大のパフォーマンスで再現した居合術。

 その刃は、デバフ使いに──



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