AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント終篇 その11



 過去のイベントの産物、そして過去に遭遇したユニーク種の残滓。
 それらを糧として、『皇蓋呪蝗[コウジュコウ](再)』は再誕した。

 同族も居ない現状、本来であれば弱体化の一途を辿っていただろう。
 しかし、このイベントエリアには悪意──そして呪いが溢れている。


「[コウジュコウ]はね、呪いのアイテムが大好きなんだ。だからね、その物真似もできるんだよ」


 ラスボス(笑)のショタボイスを、これから起き得る災厄の予告だと理解できた者は、果たしてこの中に何人居ようか。

 この場の状況を理解した[コウジュコウ]は、ナニカを体内へ取り込んでいく。
 呪視眼で俺が視たもの、それは──この場にあるすべての悪意を取り込む姿だった。

 俺が把握している限りでも、性能の優劣を問わなければ呪いのアイテムが百個近くここに集まっている。

 イベントエリアとは関係ない品、悪意の産物、そして悪意の産物から発想を得て作られた紛い物……人の業までもが呪いを生み出した結果、それらもまた糧となっていた。


「みーんなのお陰で、[コウジュコウ]は強くなれました! はい、パチパチパチパチ」


 俺の語りが真実だったと、他ならぬ[コウジュコウ]が身を以って示してくれる。
 フォルムはより凶悪に、そして瘴気を漂わせたと思えばそこから同族を生み出す。


《メルス様。どうやら、分身系の呪いのアイテムがあったようですね》

「うん、そうだね……まあ、それは悪意の産物じゃないんだよね。ならいいよ」


 討伐時、共に居たネロによって特典アイテム生成前に魂魄の回収が行われていた。
 ……理論上可能ではあるが、ほぼ不可能なことなんだよな、これって。

 ともあれ、それによってすでに解析が行われていた。
 呪いや負のアイテムの力を利用し、自らの糧とする能力──“想食渾蟲”。

 その効果は蝗害同様、ただしイネ科の植物の代わりに呪いなどを貪る。
 そして齧ったそれらの効果を、自在に蓄えることができるのだ。

 だが、悪意の産物から得たものを使うとどうなるか分からないからな……。
 なので、あまりそれらは多用しないよう厳命する予定だった。


「うんうん、どんどん強くなっていくね♪ これ、早く倒さなくていいのかなー?」


 それでも煽り、[コウジュコウ]に攻撃をするよう促していく。
 参加者たちも、無尽蔵に増え始める光景を見て早めに倒す必要を感じたのだろう。

 主に聖属性や浄化系を重点的に、だがそれらが使えない者たちによる闇属性や呪い系も混ざった攻撃が[コウジュコウ]に届く。

 それらを喰らいながら、損壊と回復を物凄い勢いで繰り返す[コウジュコウ]。
 言わずもがな、完全に崩壊するよりも回復する方が速いため、勝手に強くなっていく。

 呪いにも種類は多々ある。
 一部の耐性を高める代わりに、それ以外の耐性が極限まで落ちる……そういった地味で使いようのある呪いも糧になっていた。

 そして、[コウジュコウ]は呪いを組み合わせるが巧い。
 呪い同士を繋ぎ合わせ、より強い代償と恩恵をもたらす禍々しい呪いを生み出す。

 さながらそれは、蟲毒のように。
 弱点となるはずの聖属性をも呑み込み、天敵である浄化すらをも喰らい──他者をも蝕み始める。


「[コウジュコウ]は自ら呪いを生み出し、それを相手に押し付けることができるんだ。たとえば、さっきの攻撃を耐え切るために耐性に関する呪いが生まれたんだけど……それが発症したらどうなると思う?」

『……良くないことが起こることだけは、すぐに分かりますね』

「うん、それ正解。視た限り、耐性値をマイナスにしているみたいなんだ。でも、さらに別の呪いで予めマイナスにしているから最終的に高い耐性が得られている。でも、急にマイナスになったら……ああなるよね」


 やや強力な魔法を放とうとする魔法使い。
 俺には視える呪いの残滓が絡みつく中、放たれたそれは──[コウジュコウ]に当たるよりも早く、まず魔法使いの身を滅ぼした。

 元よりそこまで高めていなかったかもしれないが、マイナスになった時点でそれがたとえ自分の魔法だったものだろうと、ダメージが入るようになる。

 そしてそれは、武術使いなどが用いる武技も同様に。
 炎の刃を生み出した戦士は燃え尽き、拳に雷を纏った者はそのまま感電死する。

 防ぐためには呪いに対する耐性が必要なのだが、あまり呪い耐性は需要が無い。
 呪いを専門に使う魔物は少ないし、呪いの装備も自分で装備しなければいいのだから。

 なので大半の者は抵抗に失敗し、あっさりと呪いに蝕まれる。
 そして、呪いは呪いを生む……蝗に触れられる度、その身に呪いが蓄積されていく。


「まあそれでも、ちゃんと耐性を付ける魔法があるからね。ネタさえ分かれば、すぐに対策されると思うよ」

『……それをする余裕があれば、ですがね』

「それにしても、まだ例の特級戦力と思われる相手はまだ倒せていないねぇ。くっ、これはまた次なる手を打たないと不味いかも」

『……まだあるのですか?』


 凄く嫌そうな心情が伝わってくるが、勝つために手段は選ばない。
 お膳立ては[コウジュコウ]に任せ、イイとこだけ貰っておこう。



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