AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント終篇 その10



 ナシェクに『純無の天鎧』になってもらって、使う武器は『無慰の短剣』×2。
 ラスボス(笑)と並列して縛りプレイ時の姿を操り、参加者たちに挑むことに。


「──“断気ダンキ”、“暗歩アンソク”、“垂這スイシャ”」


 暗器術の武技によって、気配読みの素人では気づけないレベルの隠形を図る。
 気を断ち、暗がりを歩き、垂直に這うことすらできる……暗器使いの初歩なんだとか。

 対象は、祈念者っぽい意味の分からない派手な男。
 少々孤立気味なのは、俺と同じくボ……孤高の男だからだろう。

 そんなソロ祈念者なのである程度は周囲を索敵しているが、まだまだ足りない。
 玉座の間と言えばやはり所々にある柱、それを伝って上から狙いを付けて──


「──“首狩切断ヴォーパルギロチン”」

「──」

「そのまま──“短刃投擲スローイングダガー”」


 首を落とし、クリティカル判定で即死。
 死亡時や攻撃時のエフェクトは、武器の効果で極力抑えられる。

 それでも気づく者が現れるのだが、そのときにはもう次の行動に移っていた。
 刃渡りの短い武器専用の、普通の投擲系武技よりも命中補正の高い武技を発動。

 狙いはこちらに気づいた瞬間。
 姿を隠す俺よりも、まず先に死んでいく祈念者の方へ眼が向かう。

 暗殺者であれば、狙うのは即死が見込める目や心臓かもしれない。
 しかし、俺の目的はあくまでも参加者の間引き……俺自身が行わずとも良いのだ。

 なので狙いは人体の急所ではなく、出血大量や一時的に延長線上の部位を動かせなくなる骨の隙間など。

 そういった部分も暗器の剣バージョン、暗剣術を心得ているティル師匠から大雑把に学習してあるのでばっちりです。


「──“闇幕渡行モバイルカーテン”」


 闇属性のオリジナル魔法を使い、その場から緊急離脱。
 ラスボス(笑)の間は柱同様、灯りは一定間隔で配置されていた。

 その間に生まれる闇を介して、この魔法は俺を転移させる。
 途中で闇が途切れていると転移できないので、目的地は伝っていた柱の陰だ。

 だがその直後、俺の体はまったく別の場所へ転移される。
 自分の意志・・ではない、だがある意味では自分の意思・・によるものだな。


「──“空間取寄アポート”、これで良かった?」
「うん、ありがとうね」


 そう、もう一人の俺によるお取り寄せ。
 こちらと違い、超高性能なアバターなのでほとんど耐性なんてものを気にしないで引っ張り上げてくれた。

 どちらもやっているのは俺で、会話もあまり意味があるものじゃないけどな。
 ただまあ、そこはノリってヤツだ……聞いている者には、呆れられるだろうけど。


『なるほど、危険になればこのようにして脱出できると。それで、この後は?』

「うーん、また同じことをしてもいいけど、一度やると飽きるんだよね……ドゥル、何かオススメの武器を頂戴」

《仰せのままに、我が王》


 そして、この後もさまざまな武器を持っては参加者へと襲撃を仕掛けていく。
 必要となればラスボス(笑)に引き寄せてもらうので、ほとんどピンチにはならない。

 魔法も撃ち、デバフも施し、あの手この手で嫌がらせを続ける。
 それでも数の力は偉大で、少しずつ参加者たちは前へ前へと迫ってきた。

 眷属も本気で対応しているとはいえ、あくまでもそれは制限された本気。
 ままならないなぁと思いながら、それでも自分にできることを選択。

 ──ノゾムではなく、ラスボス(笑)が。


「ふっふっふ。そういえば、願いの魔法陣でどんなことができるのかまだ見せていなかったね。だから特別に、見せてあげる──出てこい、強い魔物!」


 意味もなく叫ぶのと同時に、鍵型のアイテムをこっそりと捻る。
 すると、宙にぽっかりと穴が開き、そこから魔物が現れた。

 それが何なのか気づいた者……特に祈念者たちの顔が引き攣る。
 小さな虫、一匹の蝗──否、生まれてすぐに殺された最悪のユニーク種。


「──『皇蓋呪蝗[コウジュコウ](再)』だよ。お兄さん、お姉さんたち、楽しんでくれると嬉しいな」


 使ったのは、レイドラリーイベントで得た『難喚開鍵[リトライク]』。
 厳しい条件はあるが、現実換算で三日に一度討伐経験のある魔物を複製できる。

 現れたソレは呪いを溜め込む蝗型の魔物。
 かつて俺が出会い、ネロや現地の自由民と共にその地を守るために戦い──殺した。

 名にある『(再)』の字の通り、すでに今は亡きユニーク種。
 ノアの召還、ディーの再現でも、実は同様の表示が出ている。

 複製体であるため、特典をドロップすることはない。
 同様に、フルスペックでの性能を絶対に発揮できるわけでもないのだが。

 それでも一定時間、確実に自分へ悪影響を及ぼさない形で魔物を使役できる。
 そんな利便性に富んでいるのが、このアイテムの特徴だ。


「それじゃあ──やっちゃえ」

『──』


 本来、[コウジュコウ]は群れを成して活動するため能力もそれを前提にしている。
 周囲の呪いを蓄え、己が身に宿し、相乗効果でさらに強化を促す。

 だが、現状では一体しかいない。
 なので倒すのは簡単だ──このイベントエリアではなく、かつ悪意の産物などという代物を使わない世界であれば、だが。

 ──欲に溺れた末路は、その身を以って知ることになる。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品