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山田 武

偽善者と陣営イベント終篇 その02



 イベントエリア(北)


 魔物や魔族たちが住まう北の領域。
 ここにもまた、“星命誓願ウィッシュ・ア・スター”によって願いを叶えた者たちが居る。

 それを眷属たちに探ってもらっていたのだが、ちょっと人族の領域以上に面倒な問題が生じているようだ。


「……魔王の遺産?」

「というよりも、魔王の遺骸ですね。どうやら、死体を手に入れることで強大な力を得られるという伝説があるみたいです」

「つまりアレか、願い事は死んでも履行され続けたまま。死んだ奴の体に残り続けて、そのまんまだと」

「加えますと、その体を介して願い事に関する能力の発現ができる。そのうえ、複数の願い事を擬似的に叶えた状態にできるといったこともあります」


 現地調査に向かわせていた一人、『学者』ことリュシルからの報告を聞く。
 しかし王族が支配していないこちらでは、戦国乱世みたいな感じで争奪戦状態らしい。


「そうして遺骸、そしてそれを加工した遺産によって台頭した者たちを、こちらでは魔王と呼んでいるようです。種族としての魔王種は魔王候補、あくまでも願いの力を持つ者こそが魔王と呼ばれる存在ということです」

「ふむふむ……じゃあ、こっちでの勇者もそういうことになっているのか?」

「そうなります。単純な話、願いには願いをという様相です。ただ、共食いのように願い同士がぶつかり合った場合、どちらかが消滅すると言った話も聞きました。同時に、勝者の願いの力が強まったという内容も」

「……ありそうだな、それ。初期はともかく悪意が関わってからの願いには、そういうシステムが搭載されていてもおかしくない。これは、かなりヤバくなるかもな」


 悪意の種類は多岐に渡り、俺がデュラハンたちを分離したように、個々の願いに合わせて適切な悪意を注いだことだろう。

 そして、各々の願いの中で増幅したその想いを、競わせることで高めさせ、喰わせることでより強大な力を手に入れる……一種の蟲毒みたいなものだな。

 肉体の強さを欲していれば、より強靭な肉体になるだろう。
 強力な能力を欲していれば、それまで以上に他者を従わせられるはずだ。

 どんな形であれば、願いは履行されていることに違いは無い。
 そのうえで、さらに強大な力が手に入るとなれば……より深く堕ちていくだろう。


「となると、回収の方も警戒をして貰った方がいいか? 複数の悪意が集まった産物でもあると、さすがに保険がそのまま通じるとも思えないからな……」

「あ、あー、そのことなんですけども、実はですね……その……」

「ん? まさか、もう接触したのか!? 大丈夫なのか!?」

「そ、そうなんですけども! ……いえ、実際に見てもらった方が速いかと」


 そんなこんなで、案内された先。
 転移でやって来たそこは、人族の領域に負けず劣らずのお城だった。


「……魔王城だな。で、ここに何か?」

「確認もできましたので、改めて最奥に転移しますね」

「最奥……って、まさか」

「はい、そのまさかです」


 辿り着いたそこでは、一人の少女が侍従と共に俺を待っていた。
 朱色の髪、藍色の瞳、そして巻角……ただの人族、そして魔族でもない混血の少女。

 彼女こそが、自由世界唯一、勇者と魔王の娘にして異端となってしまった存在。
 両者の力を併せ持つ、今は『勇魔』と名乗ることになっている少女ミシェルだ。

 なお、侍っているのは『メイド』。
 いつの間にやら創作物でもありがちな、物理法則やら理やらを『メイドだから』と突破するようになったリッカである。

 そんな彼女たちに意識を向けたいのだが、気になることが一つ……いや、複数。
 どうして禍々しい玉座だったり、明らかに魔物の部位っぽい物が周囲にあるのだろう。


「ミシェルが居て、リッカも居て、周りには禍々しい物のオンパレード……っておい」

「はい。情報収集をしている間に、この地に残されていたほとんどの遺産、回収を終えてしまっていたようです」

「…………マジか」


 無論、二人の実力からして不可能なわけではない。
 だがここに来る前に考えた通り、俺の保険が通じない可能性もあった。


「メルスは考えすぎ。あの程度の魔物、みんなと比べたら余裕」
「そうね、手伝おうと思ったけど、特に出番は無かったわ」

「何も無いなら、まあそれでいいんだが……どうやったんだ?」

「『勇魔』の力を例の悪意と勘違いしたみたいでね、挙って仕掛けてきたのよ。で、全部やっつけて、最後にこの城に逃げ込んだ奴を倒したわけ」

「う、うーん……無茶はしてないか?」


 その質問にも首を横に振るので、とりあえずホッと一安心。
 どういう能力かは不明だが、欲深い連中の願いなのでロクでもないことに違いは無い。

 即死とか洗脳とか……魅了とか、そういう類いを警戒していたんだがな。
 まあ、使う間もなく潰されたとか、そんなオチかもしれない。


「ふぅ、二人ともよくやってくれた。これで次の段階に移行できる……って、そういえばリュシル、マシューはどこだ?」

「マシュー……いえ、『助手』には、他にも遺産が無いかの確認をしてもらっています。ここにある分、そしてあの場所を目指している魔王が持つ分以外にも、まだあるかもしれませんので」

「こればかりは報告待ちか。せっかくだし、今ある分だけでも確認しておこう。みんな、手伝ってくれるか?」

「うん、いいよ」
「ええ、承ったわ」
「分かりました」


 ハズレはデュラハンにまた渡す……でもいいけど、他にも利用したいな。
 でもまあ、そういうことも含めて確認してから決めることだな。



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