AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント後篇 その20



 逆鱗状態になり、複数の形態を取るようになった[ドラグリュウレ]。
 そんな形態の一つ、フィレルの力を操る紅モードに大苦戦。

 光によって生成される血が、全方位から一斉に攻撃してくる。
 ピンチになったそのとき……腕輪から、溜め息のような声が聞こえてきた。


「あっ、起きた?」

『……貴方、気づいていたでしょう?』

「まあ、あれだけ呼び掛けていたしね。おっと、ちょっと待っててね──“虚崩ブレイク”」


 自身でピンチと称した全方位攻撃だが、さすがに虚無魔法を使えば余裕で防げる。
 ただ、ナシェクを呼ぶのにちょうどいいシチュエーションだったからな。

 向けられていた血の棘すべてを、虚無エネルギーを解放して消し去る。
 広範囲に作用し、エリアそのものを滅ぼすこともできる形態──それが“虚崩”だ。


「そして──“空牢ジェイル”」

『──ッ!!』

「しばらくはその中に居てね」


 ナースの適性が無ければ使えない、恒常的に虚無エネルギーの檻を維持する“空牢”。
 内部で[ドラグリュウレ]は暴れるが、ビクともしない頑丈さを発揮していた。

 ともあれ、こうして拘束しておけばしばらくは持つだろう。
 ……今は、せっかく反応してくれたナシェクと話す時間だ。


「お待たせ~。で、えっと……どこまで話したんだっけ?」

『……まだ何も話していませんよ。それで、私を呼んで何をしたいので?』

「関係をね。改めて話そうかと思って……単刀直入に言うよ──僕は、聖人には絶対にならない。ミコトさんの代わりは務まらない、そして努めたくもない」

『っ……! なぜ、そのようなことを今言うのですか?』


 ナシェクが心のどこかで、俺を代替品のように考えていることは知っていた。
 すでにこの世に居ないミコト、その影を追い次の担い手を求めている。

 だが、求めていてもナシェクにとっての理想の体現者はミコトただ独り。
 過去にナシェクを振るおうとした者たち、失敗者たちが蝕んでいる。


「──ミコトは生きている、そうだと言ったら……どうする?」

『…………。えっ?』

「言葉通りだよ。死んだと思っていたミコトがまだ居て、ナシェクを求めている。それなら、僕が何もしなくたっていい──」

『ふざけないでください! ミコトは……あの娘はもう死んだのです! どうして……どうしてそんなに酷いことを……!』


 割り切るための時間は、ナシェクにとって心の殻を生み出す時間だったのだろう。
 いっしょに居た時間の短い俺の言葉など、信用も信頼もしてくれない。

 ──だからこそ、この言葉を贈ろう。


「『貴女に会えてよかった。貴女が居たからここまで来れた……ありがとう、ナシェ』」

『! それは……あの娘の!!』

「僕のことは信じてくれなくていいけど、彼女の言葉は信じてほしいかな? ナシェクといっしょに居たミコトさんは、たしかに死んだよ。でも、残した軌跡まで無くなるわけではない……」


 なお、遺言っぽい発言は最期に刻んだ言葉としてアイの所へ行った残留思念が覚えていた言葉だ。

 とても印象深かったのだろう、強く焼き付いていたらしい。
 ……あれからそれなりに時間も経って、集められる情報も増えているからな。


「改めて契約しよう──僕との契約、その期間はミコトさんを見つけだすまで。具体的な期間は……うん、ごめん。まだ分からないから、要相談で。こっちの要求は、第二形態の恒常的な使用許可」

『……それを許せば、どうなると?』

「さぁ。僕は変わらずミコトさんを探すし、ナシェクは何もしなくたっていいよ。ナシェクがそれでいいなら……だけど」

『安い挑発ですね……それが貴方にとって、現状を打破するほどの何かを得られる話ということですか?』


 そう、挑発だ。
 はっきり言えば、契約の破棄も強引な契約も俺なら自由にできる。

 それでもこうして語るのは、その方が利益が生まれると信じているから。
 ……自分がつくづく凡人だと思える、なんとも浅い考えだけども。


「少なくとも、こんな風にいちいち手間が掛からなくて済むよね? ナシェクは俺を矯正しなくていいし、俺も自由で居られる。僕たちはただ、ミコトさんを探す……そこだけが同じ目的なんだ」

『…………本当に、ミコトを見つけてくれますか?』

「眷属たちに誓って。僕……いや、俺は必ず二人を引き合わせる」

『──分かりました。ならば、この力……この身はこれより貴方に。この心はあの娘と共にあれど、それ以外のすべてを』


 その言葉を頂けたのとほぼ同時、ちょうど虚無エネルギー切れなのか“空牢”が崩壊。
 中から現れた[ドラグリュウレ]に対し、俺は──言葉を紡ぐ。


「──『天源の鎧使』」

「…………」

「それじゃあ、倒すのを手伝ってくれる? あっ、ついでにこれまでと態度は変えなくていいからね」

「……それを今言いますか? ハァ……分かりました、ノゾム」


 ナシェク……否、ナシェケエルと共に駆け出し、[ドラグリュウレ]へと挑む。
 一人でもそれなりに戦えている相手に、二人で挑めば……そりゃあ結果は見えている。

 銀、紅、そして黒の姿を使って抗ったのだが、それでも『天源の鎧使』の力を解放したナシェケエルには通用しなかった。

 そうして、俺たちは[ドラグリュウレ]の討伐に成功。
 最後に『箱舟』の紋章を受け取り、次なるフィールドを目指すのだった。



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