AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と陣営イベント後篇 その18



 精霊たちを“精霊憑依エレメンタルポセッション”で纏ったうえ、“精霊合身ヒューズエレメンタル”で擬似的に繋ぐ。
 九つの属性を使えるようになった状態で、振るう武器は魔武具『アルカナ』。

 ナシェクが協力してくれない状況ではあるが、充分に準備を整えたはず。
 すべては、『箱舟』ことノアの召還した魔物たちを処理する試練を乗り越えるため。


「──『氷結世界グラシエイト』」


 精霊たちの魔法は人族が用いるシステム的な魔法と違い、本来あらゆる魔法が理論上は使うことができる。

 魔力が足りない、あるいは精霊たちが使うイメージを行わない……そういった事柄から使わないだけだ。

 なので、氷魔法しか習得していない現状でも、氷河魔法モドキを発動できる。
 万物を凍らせる氷の世界、生み出された魔物たちを即座に冷凍処分していく。


「それじゃあ、試練のやり様がないじゃないか……魔物の種類を変更するよ」

「氷耐性付きかぁ──“天侵嵐萬カースドテンペスト”」

「き、君は……分かっていたけども、徹底してえげつないね」

「滅多にない時間だからね。僕はこうして、耐えられた個体を斬るだけでいい簡単なお仕事だよ。さぁ、もっと遊ぼう」


 時折、魔法そのものへの耐性からか攻撃を逃れる個体が現れる。
 俺の仕事はそんな個体に対し、絶対に傷を与える魔武具で一撃を食らわすこと。

 少なくとも今のところは、上手く行っているように思える。
 が、相手は魔王でもあるノア……そう簡単には終わらないだろう。


「遊び、か。君がこの試練を遊びと評するのであれば、相応に楽しめないといけないね」

「あんまり長続きしないから、短くかつ難しい物をお願いします!」

「うん、なら長期的な方がいいかな? だけど、君の本気が見たいのもまた事実。よし、君の主張を採用しよう」


 指を鳴らす演出を行うノア。
 すると、魔法陣の数は一気に減り一つへ。
 つまりその分だけ、質の高い魔物が現れるということだ。


「一体にしようかな?」

「……それ、その分だけ強いよね?」

「でも、それを君が望んだわけだし。だからこそ──全力を示そう」

「こ、れは……!」


 高層ビルほどの巨大な体、そして背から左右に伸びた巨大な翼。
 爬虫類染みたその存在を、人は竜、もしくは龍と呼ぶ……しかし、真実は異なる。

 世界でたった一人、存在するイレギュラー的竜種の『劉』。
 そんな『劉』の協力を得て生み出した、人造のユニーク種。


「『覇天劉[ドラグリュウレ]』!? な、なんで呼べるの!?」

「君の眷属が、できるようにしたからさ」

「嗚呼、なんて分かりやすい理由……! でも、それならこっちも全力全開でやらせてもらわないとね──“虚無イネイン”」


 相手にとって不足無し。
 ならばと使うのは、ナースの冠する属性と同じ名前の魔法。

 普段は制御しがたいそれも、ナースと共に在る現状において制御は容易い。
 息をするように魔法を制御し、やがてはそれを身を包む形で纏う。


「──“無装クローズ”。ちょうど、ナシェクが無の鎧を使っていたからね。参考にさせてもらったよ」

『…………』

「無視かぁ。まあいいけど、それよりも……倒したら特典はあるの?」

「いいや、あくまでも再現。すでに居ない存在であることに変わりはないよ」


 まあ、それが可能なら特典の無限増殖もできちゃうしな。
 ディーの“専変瞞化ディヴァース”も同じような感じだし、世にそういう裏技は無いわけか。

 改めて、[ドラグリュウレ]と向き合う。
 創造者な俺うみのおやではあるが、ノアが召還したからか殺意満々だ。

 それでも俺は“無装”に変化のイメージを送り、虚無エネルギーの一部を鎧から剣へと作り変える。


「うん、やっぱり剣も無いと竜殺しって感じがしないよね。元々使っていた方は……これだね──『失絡の硬貨』」


 防御、そしてカウンター用の形態。
 虚無の剣はその膨大なエネルギーで必ずダメージを与えられるので、わざわざ大剣を振り回し続ける必要は無くなった。

 なので、受けたダメージを確実に返せるようにしておく。
 ……しかし、[ドラグリュウレ]が相手ならまだ足りないか。


魔本開読オープン──“竜屠体現ドラゴンスレイヤー”」


 遊び心で創っていた、竜殺しの絵本に刻んでおいた竜殺し補正の魔法。
 相手は竜、辰、龍、そして劉の性質を持つ存在……割と効くんだよな。


「そして仕上げに──“七宝之珠セブンスオーブ”」


 七つの基礎属性を自動的に発動可能になる宝珠、それらを生成するこの魔法。
 ただでさえ精霊たちの属性適性を得た俺が使えば、通常以上に使いこなせる。


「……これで準備はバッチリだよ。さぁ、早く始めよう」

「君が待たせておいて、ずいぶんな発言だと思わないかい?」

「ううん、これっぽっちも」

「…………。少し、難易度を上げておくね」


 理不尽な仕打ちを示すように、これまで無言で待機していた[ドラグリュウレ]が勢いよく咆哮を上げた。

 ついでに言うと、何やら竜気らしきものが立ち込めているし……これは少しばかり、いや普通にルナティック並みに難易度が上がっている気がする。


「……いつでも、出て来てくれていいから」

『…………』


 大切なのは時間を稼ぐこと。
 勝てないわけじゃないが、相手がどれだけ能力を使えるかでその困難さが上がる……だから、早く立ち直ってくれ。



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