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山田 武

偽善者と陣営イベント後篇 その15



 火山内部を模したフィールドへ飛ばされ、マグマの中に隠された転移陣を発見。
 無事、(敵からの)ダメージはいっさいないまま次のフィールドへ向かえた。

 ……だが、俺はこのとき忘れていたのだ。
 この迷宮は眷属たちによって造られ、眷属たちの意思で後から自由に操作することも可能だということを。


「……[マップ]」


 フィールドでも何でもない、辿り着いたそこは大きな扉を眼前にする廊下だった。
 後ろを振り返れば、凶悪な魔物やら悪辣な罠やらを視ることができる。

 だが、俺の座標はそんなフィールドに挑む入り口ではなく、ゴールへ向かうための最後の休憩地点。


「…………『白熊の間:入口』。いやまあ、うん。なんとなく、分かるけどさ」

『メルス……いいえ、ノゾム。相手の意向がどうであれ、私たちは最深部へ到達したのです。第二段階も許可しましょう、早く中へ向かうのです』

「ナシェクもなんでそんなに乗り気なのさ。ハァ……言っておくけど、望むような熱いバトルは絶対に無いからね」


 扉に軽く触れると、いかにもな重厚な低音と共にゆっくり開門していく。
 それをじっと待っていると、真っ暗だった部屋にだんだんと灯りが燈りだす。


「無茶はダメだよ──『天熱の剣使』」

「ええ、分かっています。だからこそ、闇雲に突っ込まずに待っているのです」


 そうこうしている内に、灯りは完全に部屋のすべてを燈し終える。
 そこには予想していた通り、超巨大なベッドが中央に君臨していた。


「…………はっ?」

「言わんこっちゃない……ここはバトルじゃなくて、条件を達成すればいいんだよ。そうだよね、スー?」

「──正解」


 白熊、そしてベッド。
 当然、部屋の主は【怠惰】の魔武具っ娘たるスーだった。

 彼女は戦闘を得意としておらず(やる気が無いだけ)、今はラスボス演出のために多くの結界を構築するなどして、大変忙しい身である……なので戦闘はしないのだろう。


「でもさぁ、スー。じゃあ、どうしてわざわざ四天王ポジションに就いたの?」

「……なんとなく?」

「そっかぁ、なんとなくか……それじゃあ仕方ないよね」

「あ、貴方たち……」


 俺とスーの緩々なトークを聞いて、どうやら呆れてしまったようだ。
 しかしまあ、スーなりに頑張ってくれているのだし、それでいいと思うんだけどな。


「貴方、スーと言いましたね? 攻略するために、課せられる試練とはいったい?」

「内容はそれぞれ。ナシェケエルの場合、私の結界を壊すこと」

「えっと、じゃあ僕は?」

「ノゾムは──私の抱き枕になること」


 瞬間、俺の姿はナシェケエルの隣からスーの隣へ移っていた。
 おそらく、結界間の双方向転位でも利用したのだろう。

 ノゾム状態な俺をギュッと抱き締め、そのままベッドイン。
 やらしいことはいっさいなく、そのまま寝息を立て始める。


「いい度胸です……ふっふっふ、ミコト仕込みの武術をお見せしましょう!」

「……うるさい」

「────、────────!!」


 スーが再び何かしたようで、音声の方も遮断される。
 まあお察しの通り、今度は炎が眩しいからと視界の方も遮断されるのだが。

 なので視界はベッド内限定、俺はスーと二人っきりとなった。
 ただただ、寝ているスーを撫でるだけの時間なのだが……意外と時を忘れる。


「──っしゃぁ!」


 なので外部から新鮮な音を聞いたとき、どれほど時間が経っていたのか分からない。
 いつの間にか閉じていた眼をパチリと開くと、ナシェケエルがそこには居た。


「……ハァ、ハァ。ど、どうですか、やってやりまし──」

「しー、まだ寝てるんだよ? ゆっくり寝かせてあげて」

「す、すみません……って、術者が寝ているのにこの強度。いったい、起きている時はどれほど硬いのですか……」

「うーん。そうだね、神器でも複数回使わないと壊れなかったり、どれだけ足掻いても壊せなかったりするかな?」


 実験はすでに何度かしている。
 ナシェケエルのように、性能の高い聖武具ならばともかく、ただ神気を帯びた材質で創られただけの神器であれば破壊は不可能。

 スーの結界は【怠惰】とのシナジーが非常に高いうえ、多機能に渡り大変便利だった。
 正直、うちの眷属でスーのお世話になっていない者は居ないと思います。


「スー、ナシェケエルはちゃんとミッション達成できたみたいだよ?」

「……分かった、ならこれを持ってて。クリアした証、あとで使うって言ってた」

「白熊の紋章だね。うん、あとで使わせてもらうよ」


 四天王から証を貰い、彼らの主に挑む……定番だけども。
 それをラスボス(笑)でもある俺が受け取り、どうしろと言うのだろうか。

 ま、まあ、貰うのは俺だけじゃないだろうし、記念ってことにすればいいよな。
 スーもちゃんと加減して、結界は壊せるレベルに…………して、くれるだろうか?


「スー、対応が面倒だからって、看板を立ててそのまま放置とかはダメだからね」

「…………おおっ」

「えっと、その『その手があったか』、みたいな反応はダメだよ? 寝ちゃダメとは言わないけど、他の人には分からないように録音した説明を流してあげてね」

「うん、分かった」


 俺は甘々なので、そこまで強制したりはしないのだ。
 ともあれ、スーが教えてくれた場所に次のフィールドへ向かう転移陣を発見する。

 それに乗って…………おそらく、次の四天王が待つ場所へ向かうのだった。



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