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山田 武

偽善者と陣営イベント後篇 その03



 一部のスキルが起こす『侵蝕』作用。
 そのスキルの持つ性質に適合せず、体の主導権を奪われることで起こる現象だ。

 だが、一部の者は意図的にそれを起こし、スキルの性能を高めることに利用している。
 制御できる状態を俺は『侵化』と呼び、大半の者同様に暴走状態を『蝕化』と呼んだ。


「──アルカが『蝕化』したな。ああでも、主導権は握ったまま……なのか?」


 彼女が主導権を奪い合いをしているスキルは、『侵化』と『蝕化』が分かりやすい。
 瞳が赤くなるだけで収まれば『侵化』、髪まで影響が及べば『蝕化』といった形だ。

 だが、『蝕化』は精神的に不安定となり、言動などもスキルの在り様に引っ張られる。
 つまり、間違いなく普段とは違うと認識できるはずだが……そこに変化は無い。


「メルス様同様、汚染された部分を別の場所に隔離することで対処しているのでしょう。完全ではないでしょうが、それでも充分、ということかもしれません」

「フー……もとい『神竜』相手にそれは、舐め過ぎなんじゃないか?」


 アルカは『蝕化』の影響で、魔法の威力や速度が向上している。
 もともと使っていた【憤怒】込みのオリジナル魔法も、その火力が高まっていた。

 だが、フーはそれ以上に【憤怒】を使いこなしているので、その火力は無意味。
 魔法が当たる度に火はフーを襲うが、叩いただけですぐに消えてしまう。

 アルカの持つどの魔法より、【憤怒】の魔法は使えない代物と化していた。
 それでも彼女は【憤怒】を引き出し、高めた火力で強行突破に挑む。


「──深度、とでも仮称しましょう。それを高めることで、スキルとの適性を強制的に引き上げることが可能です。潜れば潜るほど、強くなる代わりに元の場所へ浮上する難度もまた高くなります」

「で、アルカはそれを絶賛深め中ってわけだな。それ、戻って来なかったらどうなる?」

「魂魄とスキルが結びつき、定着。それに伴い精神の変容が始まります。メルス様の知っている例で挙げますと、シガン様と同じ症状でしょうか。やがて、それが顕著に現れるようになり……」

「戻すのが面倒になるわけだ。絶対不可逆ならともかく、そのシガンみたいに戻そうと思えばどうにかなる。末期症状でも、改善する余地はあるんだったな?」


 昔は『【固有】狩り』と称して、それなりに拝借していたからな。
 当然、『侵蝕』にどっぷり浸かった者たちも居たわけで……彼らで試させてもらった。

 それによると、あくまでも魂と接続しているのは擬似的な魄。
 故に定着しようとも、戻すことは不可能では無い。

 ただまあ、その『侵蝕』が濃ければ濃いほど治すのに時間が掛かる。
 それも、<大罪>なんてヤバい代物ならなおさらだろうな。


「……いちおう聞いておくけど、そんなにヤバいのに武具っ娘がほぼ俺の理想的な姿なのには何か理由が?」

「武具っ娘たちは、その深度が初期値で最大となっております。そのうえで、彼女たちという存在が構築されているため、想いのままにメルス様を傷つけることが無いのです」

「そういうものなのか……まあ、なんだか少し安心できたよ」

「いつも申しているように、眷属たちのメルス様に対する好感度は大半の者がカンストしております。彼女たちはただ真っすぐに、メルス様に想いを伝えているのです」


 きゅ、急に言われると……あんまり脳のシリアススイッチ(仮)が切り替わらない。
 武具っ娘たちにも、もっと頼った方がいいのかもな……なんて思いつつ。


「ん? ありゃりゃ、気づかれたか?」

「見る眼が鋭いアルカ様ですので、最後の最期が無いことに気づかれたのでしょうね」

「回復をこっそり促していたけど、追いつかないし……アルカ自身が自滅覚悟の魔法を発動して生命力を減らしていたから、そこでズレたんだろう──『神竜』に殺しは無理、最悪無視してもいいんだよな」


 フーの持つ(禁殺格闘)スキル。
 決して相手を殺すことなく、生かし続ける非人道的でありながら神聖にも思えるような縛りの能力。

 それを何らかの形で見抜き、自分が殺されないことを理解したようだ。
 戦い方に変化が生じ、やがてフーを倒そうとする意欲が失われていく。


「けどまあ、ただ無視するってのは無理なんだよな。見えている以上に、フーってのは厄介な存在なんだぞ」


 アルカの魔法は一切の時間を掛けず、瞬間的に発動される。
 それがどれだけ高度な魔法であろうとも、魔力さえあればそれだけで発動可能だ。

 しかし、フーから距離を取るようになってから、その速度が格段に落ち始めた。
 それはフーがすでに仕込み、あえて使わずにいた能力──(事象剥離)。

 触れた相手の持つ事象を引き剥がす。
 そんなシンプルでありながら理不尽な能力によって、アルカの中から待機時間と再発動時間という二つの概念が奪われている。

 そのうえで、(因果改変)が『零は不可能』という因果しばりを植え付けたうえで返却。
 強制的にそのルールが適応され、解除されるまで瞬間的な発動が不可能となった。


「それでもまだ、致命的に勝てないようにはしない辺り、『神竜』は優しいよな」

「結界への干渉不可、それをしてしまえば可能ではありますね」

「まだ教えたいことがあるってわけか。それが今度、会った時にどうなるのかは分からないけど……まあ、『神竜』のやりたいことなら、受け入れるさ」


 アルカの『蝕化』は、さらにその深度を高めていく。
 その行き着く先は、間違いなく後悔……果たして、それでもやるのだろうか。



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